Z世代は未来を映す鏡?若者の声に耳を傾けよう(上)
2023/03/31ホワイトすぎる職場にZ世代は魅力を感じない!? Z世代は未来を映す鏡だからこそ、年長者は若者の声に耳を傾けるべき。
Z世代の特徴や接し方について、マーケティングアナリストの原田曜平氏に伺いました。
(『潮』2023年4月号より転載、全2回の1回目)
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2022年の出生数
70万人台の衝撃
2022年の子どもの出生数は、77万2525人にとどまりました(前年比4・8%減)。出生数の統計を取り始めた1899年以降、年間80万人を割るのは史上初です。
と同時に、第一次ベビーブームの時期に生まれた団塊の世代(1947~49年生まれ)が、2022年から75歳に達し始めました。75歳以上の人口は1937万人に及び、総人口に占める割合は初めて15%を超えています。マスメディアの報道を見ると、少子高齢化が進む現状に眉をひそめる悲観的な物言いだらけです。
1990年代後半から2000年代にかけて生まれた若者世代を、私は「Z世代」と名づけました。少子高齢時代を生きるZ世代の若者たちにとって、いまの日本は必ずしも居心地が悪い社会ではありません。むしろ、いまの日本社会は若者たちにとって、かなり都合が良い状況です。
過去40年間、少子化が続いてきましたが、子どもの数がベビーブーム期の半分以下に減っているにもかかわらず、大学の数も学部の数も逆に増えている有り様です。大学全入時代を生きる若者にとって、もはや進学は受験“戦争”ではありません。
就職氷河期を経験した私たち団塊ジュニア世代から見ると、いまの就職状況は信じられないほど改善しています。有効求人倍率は回復し、若者は就職先を入れ食い状態で選べるようになりました。
ただしほとんどの若者が「日本の景気はメチャクチャいい」とか「自分たちは恵まれた時代を生きている」という感覚をもっていません。
「先行きが見通せず閉塞感を感じる時代だけど、このところジワッと時給が上がってるよな」とか「現状が良いとは言えないけど、上の世代が眉をひそめているほど悪い時代じゃないぞ」と、若者は戸惑いを感じています。自分たちの未来が夢や希望ばかりではないにしても、意外と悪くない。若者は「上の世代よりちょいプラスの幸福感」を抱いています。
団塊ジュニア層の
消費はZ世代が要
いまの若者たちは、SNSの世界でどの世代よりも時代の最先端を走っています。SNSを駆使できる若者たちは、日本経済を考えるうえでも見逃せない存在です。
かつてマーケティングの専門家は、団塊の世代が高齢者になったとき「新しい高齢者像」が生まれると予想しました。貯金を十分に蓄え、生涯現役で仕事を続ける彼らが「アクティブシニア」として旅行に出かけまくり、バリバリ消費して日本経済を活性化させてくれるという未来像が描かれていたのです。
昨年、私は高齢者を対象とした大規模な定量調査を実施しました。すると団塊の世代はもはや「アクティブシニア」ではないという結論が出たのです。(なかには生涯現役でバリバリ消費に励む例外的な人もいます)
75歳以上になった彼らが出かける先は①スーパーやコンビニ②病院と薬局③仕事または有償ボランティア、この3択に見事に絞られます。団塊の世代は、いまや日本経済をダイナミックに動かす消費者ではなくなったのです。
日本企業と日本経済が持続可能な発展を続けていくためには、団塊の世代への「アクティブシニア信仰」を一刻も早く捨てなければなりません。では、どの世代をターゲットにすればよいか。
団塊ジュニア層は、団塊の世代に次いで二番目に人口が多いボリュームゾーンです。前述のとおり「アクティブシニア信仰」を捨てて、日本経済を活性化させるためには、団塊ジュニア層に消費拡大を働きかけなければなりません。
そこでポイントとなるのがZ世代であり、Z世代よりもさらに若いα(アルファ)世代です。
なぜかというと、現在、団塊ジュニアのテレビ離れがすさまじい勢いで進んでおり、テレビではなく、ユーチューブを観るようになっています。つまり企業がテレビでコマーシャルを流しても、団塊ジュニアにまったく情報が届かないのです。
たとえば、韓国ドラマが好きな人はネットフリックスで韓ドラを観まくり、ユーチューブやSNSで韓ドラ俳優にまつわる最新情報を検索する。いまやマスメディアを通じて、すべての人に一気に一元的な情報を届けられる時代ではありません。SNSの普及によって、情報はとても細分化されているのです。
細分化された情報空間のなかで、団塊ジュニア層に消費を働きかけるために、SNSは必要不可欠なツールです。
そんなSNSに毎日接しているのがZ世代やα世代です。団塊ジュニア層に消費拡大を働きかけることひとつとっても、もはやZ世代やα世代を無視できない時代なのです。
マッチングアプリで
結婚相手を見つける
2023年1月23日、岸田文雄首相は衆議院本会議の施政方針演説で「従来とは次元の異なる少子化対策を実現したい」と宣言しました。
少子高齢化が深刻な社会問題として語られ始めたのは「ゆとり世代」が子どものころ、およそ30年前の話です。いまさら「異次元の少子化対策」と言われても「遅すぎるよ」と顰蹙(ひんしゅく)を買うだけではないでしょうか。
税収が増えても歳出がそれ以上に増加するなか、子どもが1人生まれるたびにお金を1000万円支給するわけにもいかないでしょう。
兵庫県明石市は「18歳まで医療費無料化(所得制限なし)」「第二子以降の保育料無料化」「零歳児の見守り訪問・おむつ定期便」「中学校の給食無償」「公共施設の入場料無料化」という「五つの無料化」を掲げています。ところが、こうした政策を実施しても、明石市で出生数が劇的に伸びているわけではありません。
なぜこうした政策は若者たちに響かないのでしょうか。まず、私たち団塊ジュニアの世代は、大人たちから「一生懸命勉強して偏差値が高い大学に進学し、いい会社に就職できれば一生安泰だ」と刷りこまれてきました。就職したあとも、上の世代から、やれ結婚だ、出産だ、とプレッシャーをかけられながら生きてきたわけです。
いま職場で「そろそろ結婚を考えてみたら?」とか「子どもは何人ほしいの?」なんて発言しようものなら、パワハラ&セクハラ認定されて大問題になります。かつては親や上司の外圧によって、多くの人が結婚・出産へと導かれてきました。外圧がなくなった今、Z世代の若者にとって結婚・出産しようというモチベーションは湧きにくいのです。
2022年11月、明治安田生命のアンケート調査で興味深い結果が出ました。22年に結婚した人のうち「インターネットのマッチングアプリが出会いのきっかけ」と答えた人が22.6%もいたのです。「職場の同僚・先輩・後輩」と「学校の同級生・先輩・後輩」は、同率2位の20・8%でした。
ちなみにマッチングアプリがきっかけで結婚した人の割合は、2010~14年の5年間は2・4%しかいません。15~19年の5年間は6・6%です。新型コロナウイルスのパンデミックが始まった20年に17・9%に跳ね上がり、いまや5人に1人以上がマッチングアプリ経由で結婚する時代になりました。
わずか数年前までは若者がリアルな出会いを求める「街コン」が流行していたものの、いまやマッチングアプリがパートナー探しの主流なのです。ユーチューブやティックトックでは、2人組で発信する「カップルティックトッカー」や「カップルユーチューバー」も増えています。
いまの若い人たちの多くは、顔と顔を突き合わせるリアルな出会いに抵抗を感じているのではないでしょうか。
みんながLINEやツイッター、フェイスブックでつながっているため、今や「24時間監視社会」の様相を呈しています。今日は誰と誰が一緒にオシャレなレストランに出かけた。あの人はどこそこへ買い物に出かけた。あっという間に情報が共有されるようになりました。
「5月に××さんと結婚します」と知人から連絡が来たとしましょう。その××さんが夜な夜な遊んでいた元カレの情報が、SNSを通じてすでに大勢の人に共有されていたりするわけです。
「24時間監視社会」から逃れるためには、LINEやフェイスブックによる人間関係のつながりを断ち切る必要があります。SNSの人間関係を排除したマッチングアプリにこそ、新鮮な出会いが待っている。そう考える若者が増えてもまったく不思議ではありません。
若者の結婚観・出産観が変化している現状を、政治家は正確につかんでいるのでしょうか。時代状況の変化をまるで知らない政治家に「異次元の少子化対策」と言われても、「そんな対策は眉唾ものだ」と鼻白んでしまいます。
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マーケティングアナリスト
原田曜平(はらだ・ようへい)
1977年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、2001年に博報堂に入社。博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを務め、退社後、18年よりマーケティングアナリストとして活動。「マイルドヤンキー」「さとり世代」「女子力男子」「Z世代」「チル」など多くの流行語の生みの親。著書『さとり世代』『ヤンキー経済』『パリピ経済』『Z世代』など。