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ジェンダー平等こそ社会の停滞を打破するカギ。(上)

少子化の背景には職場と家庭の男女格差がある。 仕事も出産も諦めずに済む組織の作り方を考える。
(『潮』2023年7月号より転載、全2回の1回目。)
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出生数79万人台という衝撃

 田原 日本ではずっと「出生数が年間100万人を切ったら大変だ」と言われてきました。ところが2016年に初めて100万人を割り込んで、22年には79万人台を記録してしまった。 僕は、少子化に歯止めがかからない原因はジェンダーギャップ(社会進出における男女格差)にあると考えています。世界経済フォーラムによると日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中116位(2022年)。なぜ日本はこんなに低いんですか。

白河 端的に言ってリーダーが決断してこなかったからです。男女平等が進んでいる国では「そのほうが国を存続させるために合理的だ」と考えてリーダーが改革に踏み切ってきました。

田原 日本のジェンダーギャップの最大の問題はなんですか。

白河 女性が社会でお金を稼げないことです。いま先進国では「チャイルド・ペナルティ」(子育て罰)という言葉が広まっています。子どもを生み育てると社会的な不利につながってしまうことが研究でわかってきたのです。日本の場合、女性が子どもをもつと収入が平均で6割以上も減少します。女性だけに家事や育児の負担が重くのしかかり、お金を稼ぐどころではないのです。女性たちが「子育ては失うものが大きすぎる」と判断して出産を控えたり、諦めたりするのも、残念ながら事実なのです。

田原 僕は日本の経営者たちに、管理職、とくに役員になる女性が少ないのはなぜかと聞いたことがあります。すると彼らは「女性は子どもを産むと、子育てにエネルギーの大半を取られて仕事ができなくなる」というのです。しかし、そもそも女性がエネルギーの大半を子育てに当てないといけないのはなぜか。男性が家のことを何もしないからです。

白河 最近の日本企業はようやく「女性も頑張って管理職になってください」と言うようになりました。ただ、家事や育児など、家庭内では依然としてジェンダー不平等なので、女性の社会進出が阻まれています。多くの女性が、男性の5倍は家事や育児に時間を割いています。男性が当たり前のように育休を取るようにならない限り、女性の管理職や役員は増えません。

田原 逆に言えば、男性は長時間働いて当然とされていることが問題ですね。イギリス、フランス、ドイツなどヨーロッパ主要国の多くは日本より労働時間が年間100時間以上短い。日本でも残業がなければ、男性だって就業時間後に家事や育児に参加できます。

白河 私は安倍晋三内閣の「働き方改革実現会議」に委員として参加し、残業時間に上限を設けるべきだと提言しました。その結果、労働基準法が改正されて、残業時間の上限は1カ月につき45時間、年間360時間までに制限されています。(大企業は20194月から、中小企業は204月から適用)

田原 改善は進んでいるんですね。ただ、それでも問題は根深い。たとえば教員の長時間残業は常態化しています。1日の平均労働時間は11時間にも上っており、残業代も事実上ありません。

 

稼ぎも育児も夫婦のチームで

白河 日本の会社・組織では未だに、「長時間労働」「休まず働くこと」が評価されています。働き方、社会のシステムが高度成長期の「男性大黒柱モデル」のままなのです。本来は、男性も早い時間に帰り子育てに参加していいし、仕事を休む期間があってもいいはずなのに、彼らが育児をする時間が考慮されない働き方になっている。

 企業の人事担当者はよく、「女性には出産・育児というライフイベントがある」と言います。そんなときに私は、「でしたら、御社の男性社員には一人もお子さんがいないのですか。出産・育児は男性にとってライフイベントではないのですか」と問いただしたくなります。これからの時代は「育児は女性/稼ぎは男性」という性別役割分業ではなく「チーム育児」「チーム稼ぎ」で行くべきです。

田原 どういうことですか。

白河 夫婦を一つのチームと考えて、チームで子育てし、チームでお金を稼ぐ。そのための最適な形を二人で考えるのです。最近アメリカでは、男性よりも年収の高い女性がかなり増えています。すると、夫婦に子どもが生まれたとき、男性は一時的に仕事を辞めて、そのぶん女性が稼ぐという選択が合理的です。そして、男女ともに育休を取ったり、会社を辞めても、柔軟に仕事へと復帰できる。育休を取ることが評価を下げない。こうしたものが「チーム育児」「チーム稼ぎ」に必要です。

 日本では「子育てのために時間を取りたい」と言って一度職場を辞めたら、女性はもちろんのこと男性も「この人は仕事に対する意欲がない」と判断されてしまう。その後、以前と同等の条件で復帰するのは難しい。

 そうするとどうなるか。たとえば地方の未婚男女の年収の中央値は男性が300万円台、女性が200万円台です。夫婦で年収500万円強なら、子育てできるかもしれません。ですが、年収200万円台ということは、女性の多くは非正規雇用。すると育休が取れない可能性がある。退職を強要されることもある。世帯収入は300万円台に落ち込んでしまい、とてもじゃありませんが育児は困難です。

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相模女子大学大学院特任教授
白河桃子(しらかわ・とうこ)
慶應義塾大学卒業。中央大学ビジネススクールMBA修得。住友商事、外資系金融等を経て著述業に転身。相模女子大学客員教授を経て20年より現職。内閣府「男女共同参画会議重点方針専門調査会」、内閣官房「働き方改革実現会議」等で委員を歴任。

ジャーナリスト
田原総一朗 (たはら・そういちろう)
1934年滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所、テレビ東京を経て独立。「朝まで生テレビ!」「激論! クロスファイア」に出演中。『日本を変える! 若手論客20の提言』(小社刊)ほか、著書多数。

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