パンプキン誌上講座広がる米粉の可能性お米でSDGsに貢献

八王子産のお米の食品ロス削減！ 私が担当している3年生のゼミの演習科目では、実際に起こった出来事を詳しく分析して、問題解決の方法を探る「ケーススタディ」（事例研究）を行っています。 ここでは私の専門の「生物分子科学」ではなく、今後どの分野に進んでも生かせるように幅広く、一般的になトレーニングをするのが目的です。私はいつも学生たちに、「創造力」をもつことを大事にしようと伝えています。化学の知識に創造力が融合することで、人や社会の役に立つ大きな力になるからです。 また大学生の多い八王子市では、「大学コンソーシアム八王子」という組織があります。市民と大学、行政が一体となって、創造的に学園都市を目指すという事業で、学生のアイデアを市政に反映するイベントも開催しています。演習で行うケーススタディも目的意識をもってできるよう、近年注目度の高いSDGｓを取り入れたテーマで、このイベントに参加しようと決めたのが、「米粉」を使ったプロジェクトのスタートでした。 一人の学生のアイデアから そもそも米粉に注目したきっかけは、八王子の市政に役立つアイデアのひとつとして、一人の女子学生が、八王子市に田んぼがたくさんあることや、八王子のブランド米「高月清流米(たかつきせいりゅうまい)」を見つけてきたことです。私を含め、だれも知らなかったため、まずは直接「高月清流米」を生産する農園を訪問し、田植えを手伝うことになりました。交流を深めるうちに、収穫したあとに選別機から弾かれた小さなものや形が崩れた「くず米」が出ることを知りました。 これが何かの役に立つかもしれないと、まずはくず米30㎏をもらい、活用方法をみんなであれこれ模索することになったのです。そのときたまたま地元のパン屋さんでアルバイトをしていた学生がいたので、店長にかけ合ってもらって米粉のパンを作り、大学コンソーシアム八王子で発表したんです。この発表会のようすが地元のケーブルテレビに取り上げられ、そこから米粉を活用する活動がどんどん広がっていきました。 大学コンソーシアム八王子が主催するさまざまなイベントで、くず米を使った米粉のパンを発表していると、いろいろな企業や専門家の方に声をかけていただくようになりました。その中で、かまぼこの研究をされている大学教員の方は、かまぼこに入れるでんぷんの代わりに米粉を使ってみたいということで、連携して実験をするようになりました。 企業間や、企業と大学をマッチングするNPO法人「サポート802（ハチ・マル・ニ）」には、八王子の吟醸酒「髙尾の天狗」を製造・販売している企業を紹介してもらいました。 吟醸酒製造の過程では、米の外側の50%を削って内側だけを使うため、外側の米粉は廃棄されます。ぬかの部分が多く、保存しておくと発酵してしまうこと、またかなり粗く削られるために、上新粉と比べると質の悪いでんぷんになるため、使い道がないそうです。大量の米粉が利用されないまま廃棄されていると聞き、食品ロス削減につながればと、米粉の活用を模索するようになりました。 しっとり系 米粉スイーツ ここで研究室で扱っている、生化学の出番です。米粉を分析すると、糊化温度が低くて分子サイズが小さく、やはり通常の上新粉とは性質が違い、くず米を使った米粉パンのようにはなりませんでした。クッキーを作っても硬くなってしまい……。クッキーやケーキには適していませんでした。 学生たちが試行錯誤して調べた結果、米粉はしっとり系のスイーツに適していることがわかりました。たとえば、クレープの生地やブラウニーなどです。開発のために近くの製パン企業に学生が直接提案しに行ったりもしましたが、最終的に西八王子のアジアドというパン屋さんが協力してくれることになり、「髙尾の天狗」の酒米米粉を使ったチョコブラウニーが完成しました。 通常、ブラウニーは小麦粉で作るため、お店では米粉は一切使ったことがなかったそうですが、「米粉を入れることで非常においしくなる」とのことで、今では必ず米粉を使用されています。チョコブラウニーは店舗での販売はもちろん、大学コンソーシアム八王子のイベントがあるときにはまとめて作っていただき、学生たちがオリジナルのラベルを貼はって販売しています。先日行われたイベントでも100 個用意しましたが、あっという間に完売するほどの人気ぶりでした。 食べられるスプーン！？ 酒米の米粉で作ったクッキーは硬すぎて、一度は失敗作だと思ったのですが、発想の転換で「いっそのことものすごく硬く焼いてはどうか？」となりました。クッキーをスプーン形にして硬く焼くことで、プラスチックの代替品になる、というアイデアです。生地を流し込んではさんで焼くホットサンドメーカーのようなものが理想でしたが、金型が日本にはなく、学生がネットでアメリカのホームセンターに売っているのを見つけ、まずは2台購入しました。 無事にスプーン形のクッキーができ上がると、次はどこまで使えるかを試してみました。ヨーグルトやポタージュなど、水分の多い料理にもまったく問題なく使えました。ある程度使っていると、水分を含んで次第に軟らかくなってくるので、最後はそのまま食べられます。結構おいしいですよ。 まだ試作段階ではありますが、学生がアルバイトをしている飲食店の店長に交渉して提供してもらって、アンケート調査なども行っています。意外と好評ですが、食べている最中にクッキーが折れてしまうとの意見も。強度を増すだけなら米粉の分量を増やしたり、厚く太く焼いたりすることで硬くはなります。でも、あまり厚くなりすぎてもスプーンとしては使いづらい。そのあたりをクリアすれば、製品化も夢じゃないと期待しています。あとは、連携して製造してくれる企業を探さがすことが現状の課題ですね。 米粉を使ったプラスチックで 使い捨てプラの削減へ！ 当初は食品ロス削減を目指して始まった米粉のプロジェクトでしたが、学生たちの興味が次第に使い捨てプラスチック問題にシフトしていきました。それならば、米粉を使ったバイオマスプラスチックのスプーンやフォークを作れないかと考えました。「バイオマスプラスチック」とは、植物などの再生可能な有機資源を原料としたプラスチックで、微生物などの働きで水と二酸化炭素に分解されるので、環境にやさしいとされています。 そこで、バイオマスプラスチックの素材を作っている企業を探したのですが、残念ながら八王子には1軒もありませんでした。日本全国に広げて探すと、米どころの新潟県上越市にありました。 米どころ新潟県の企業とも連携 上越市ではすでに、米粉で作ったごみ袋を市の指定ごみ袋に採用しています。この袋を作っているバイオポリ上越に電話したところ、社長さんが「ぜひやりましょう」と言ってくださいました。さっそく、八王子の米粉を送って、素材を作っていただきました。 素材ができたら次はスプーンとフォークの成形ですが、問題は金型です。溶けた素材を型に流し込んで固める「射出成形」をするための金型は非常に高額だったのです。幸い、バイオポリ上越が所有するスプーン、フォーク、箸などのカトラリー用の金型をお借りすることができ、八王子の米粉で作るスプーンとフォークが完成しました。 これは51%を、米粉のバイオマスプラスチックに置き換かえています。つまり、半分はプラスチックを削減できるということです。こちらはクッキーのスプーンと違って食べることはできませんが、強度があるのは間違いなしです。 八王子をイメージしたクリップの誕生 これを発表すると、八王子の行政の方が興味を示しめしてくださり、「八王子ものづくりEXPO(エキスポ)」で製品を展示することになりました。その際、来場者に配るノベルティ作成のお話もいただき、八王子のプラスチック成形企業のセイホーと開発したのがイチョウとモミジのクリップです。八王子駅のアンテナショップでは「髙尾の天狗」のボトルに付けて販売中で、こちらも好評だと聞いています。 バイオマスプラスチックは環境にやさしいこともあり、今多くの企業が注目しています。ただ、石油系のプラスチックに比べるとやはりコストがかかります。今年のゼミでは、「バイオマスプラスチックで八王子市のごみ袋を作る」をテーマにしようと思っていますが、薄くて破れにくいごみ袋は、現状のものよりも価格が高くなってしまうのが難題です。 米粉の安定供給も必要です。八王子市では月20トンほどの米粉が必要です。「髙尾の天狗」の製造過程で出る米粉は年間でも7、8トンなので、到底足りません。ただ、全国では相当量の米粉が廃棄されていますので、これを活用しない手はありません。まだまだ課題も多いですが、引き続き挑戦していこうと思っています。 これからの時代に必要な創造力 こうして学生たちが地域に貢献できるようになったのは、大学コンソーシアム八王子に積極的に参加していることが大きいですね。創造力を働かせ、自ら積極的に動き、あいさつの仕方や交渉力などの社会性を養うこともできています。最初は私がある程度方向性を示しますが、次第に自分たちでアイデアを出してくれるようになります。 今後、技術的なものがAIやロボットに置き換えられていったとしても、やはり最終的にはアイデア勝負。学生たちにはこれからも、創造力を養い、アイデアを提案できる人になってもらいたいと思っています。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 創価大学理工学部教授 丸田晋策（まるた・しんさく） 専門は生物分子科学。長崎大学工学部応用化学科卒業。同大学院修士課程修了（薬学修士）。同大学院博士課程修了（医学博士）。ケースウェスタンリザーブ大学 医学校 生理学・生物物理学教室博士研究員、創価大学工学部助手、講師、助教授、教授等を経て現職。身体の中で働く「生体分子機械（生体ナノマシン）」の研究で、病気の治療や薬物の効果を最大限に高める医療用ナノマシンの開発を目指す。丸田研究室では普段は抗がん剤の研究を行っている。

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