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暮らしの相談室(「年収の壁」対策について)

物価高騰が続き、家計への負担は増すばかり。
少しでも収入アップを、と夫婦で共働きをしている家庭も少なくないはず。
そんななか、パート労働者が懸念しているのが「年収の壁」。
今回は、公明党の税制調査会会長を務める西田実仁議員に、「年収の壁」の仕組みや、公明党の案が反映された政府の解決策についても、具体的にお話を伺いました。
(パンプキン2023年12月号から転載。取材・文=鈴出智里)

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 年収の壁ってなんだろう

「年収の壁」とは、収入が上がると必要になる保険料などの支払いにより、かえって手取りが減ってしまうため、それを避けるため働く時間を減らさざるをえない状況のことです。「年収の壁」を意識しているのは、主に世帯主に扶養されている配偶者であり、国民年金において〈第3号被保険者〉に該当する人です。

 たとえば、夫が会社員、妻がパート従業員の場合、夫は厚生年金に加入している国民年金第2号被保険者、妻は国民年金の第3号被保険者となります。このとき、妻は保険料を負担しなくても夫が払っているという前提で、基礎年金がもらえます。

 ただしこれには条件があり、パートで働く会社の従業員数が101人以上の企業である場合には、年収106万円未満あるいは、週労働時間が20時間未満であること(※202410月以降は「51人以上」に変更になります)。これを満たしていないと扶養配偶者ではなく第2号被保険者と見なされ、保険料を納めなければなりません。

 1か月25000円の保険料のうち、半分の12500円は会社が負担しますが、残りは給料から引かれ、手取りが減ります。その分、基礎年金に厚生年金が上乗せされ、将来もらえる年金が増えますが、手取りが減れば現在の生活が苦しくなる人も多く、実際は年収が106万円を超えないように、労働時間を減らします。これが「106万円の壁」です。


 もうひとつ、従業員が100人以下の中小企業で働いている人には「130万円の壁」があります。年収130万円未満までは第3号被保険者ですが、130万円以上になると国民年金の第1号被保険者として保険料の全額を負担。そのため130万円以上にならないように労働時間を調整するようになります。

 就業調整をする時期は、一般的に繁忙期を迎える11月から12月に集中。会社は深刻な人手不足に陥るといいます。「多くの中小企業の経営者から『なんとかしてほしい』、働く側からも『扶養の範囲内で働いているけれど、保険料を払わなくてもよければ収入が増える。本当はもっと働きたい』との声が寄せられています。この10月から最低賃金を上げ、世帯所得を上げる政策を実施しても、『年収の壁』対策がなければ家計はラクになりません」

106万円の壁支援

そこで今年4月、公明党は西田議員を座長に、年収の壁プロジェクトチームを設立。10 月から適用された年収の壁への対策「支援強化パッケージ」には、〝壁〟を意識せずに働ける環境整備を訴えた公明党の主張が、随所に反映されています。

「年収106万円以上になっても、保険料を支払うことで手取りが減らないよう、新たに『社会保険適用促進手当』として支援します。個人が負担する保険料相当額を企業が個人に支給した場合に、国が『キャリアアップ助成金』で補助する形です。1年ごとに追加手当を支給する『手当等支給メニュー(図1)』と、労働時間に応じて賃金を増額する『労働時間延長メニュー(図2)』を導入した企業には、労働者1人あたり最大50万円を助成します。

 特に『労働時間延長メニュー』は、これまで一事業者あたりの申請人数が45人まででしたが、公明党が上限の撤廃を提案。パート従業員が多く申請を諦めていた事業者も、今後活用できるようになりました。

 また、この支給の申請には、10種類ほどの書類の準備が必要なことも事業者の手間になっていましたが、提出書類の簡素化も公明党が主張し、制度に盛り込まれています」 


130万円の壁支援

 公明党は、「所得アップを希望するすべての人が使えるような制度」を実現するため、「130万円の壁」についても対策を提案しています。

 コロナ禍の際に被扶養者認定の柔軟な運用がされていました。ワクチン接種業務に従事したことによって年収が130万円以上になったとしても、すぐに第1号被保険者にはならず、一時的な収入アップについては130万円以上ではないと見なしたのです。今回の措置ではこれと同様の考え方の下、「2年間(連続2回まで)、130万円以上でも、被扶養者と認定」することが可能になりました。

「これによってより多く働きたい人も、壁を気にせず働くことができます。ただ、パートで働いている妻がいるご家庭の場合、妻の会社から、『一時的に年収が130万円を超えましたが、被扶養者です』という証明書を、夫の会社に提出する必要があります。また、家族手当支給の基準値を130万円とする企業も多く、支給がなくなる可能性がありますが、証明書があれば、今までどおりの家族手当が支給される可能性があり、妻のほうも130万円を超えても保険料を支払う必要がなく、手取りが増えるようになります」

対象者はどうしたらいい?

「現在パートで働き、被扶養者となっている方は、働いている会社に『こういう制度があるので、ぜひ申請してほしい』と伝えてください」と西田議員。

 10月からスタートした「支援強化パッケージ」で、取組開始から助成金が出るまでにかかる期間は、取組を6か月継続した後、2か月以内に申請し、審査のうえ、支給されるため、8か月ほどと想定されます。事業主は翌年の計画を立てる10月から12月のタイミングで制度の導入を検討。1月までに労働局またはハローワークへ計画を提出し、6か月の取組後に必要な書類を準備し、申請して承認されると助成金は支払われます。

 助成金の支払いまでの8か月間でパート従業員に支払われる追加分の賃金や手当ては、事業主が持ち出しすることになります。その資金の確保のため、特に中小企業は事前に計画的な資金繰りが必要です。中小企業向けの低利融資があるので、早めに政府系の金融機関などに相談することが大切です。

「パートで働いている方も所得を増やしたいし、会社としても人手不足で困っています。そのどちらのニーズも満たす制度としてスタートしているので、ぜひ積極的に活用していただきたいと思っています」

今後について

 今回の支援で新しいコースが新設されたことで、事業主が「手当等支給メニュー」と「労働時間延長メニュー」をどう組み合わせたらよいのかを判断するのが難しいケースも。これに対応するため、事業者や就労者へ説明できる資料やパンフレット、ポスターなどの作成を公明党は厚労省にうながしています。また、事業者に活用をうながす制度の説明会の開催も求めています。

 こうした支援は、大企業、特にパート従業員の多いスーパーなどにとって、今までと比べてメリットが大きく、申請を希望する人数は多くなると予想されています。

「これまでの制度では申請の難しさもあり1万人ほどの申請でしたが、今後は希望者が増える可能性もあります。今後、制度の利用を希望するすべての就労者が使えるように、十分な予算の確保を求めていきます。ただ、大きな予算をかけても、家庭の所得が増え、企業の人手不足も少しでも緩和されることで、結果的に企業の生産性が増え、GDPや税収も増えていくので、決して無駄にはなりません」

 第3号被保険者の制度ができたのは1985年。当時の家庭は、いわゆる専業主婦が主流で、家事をして、子育てをする、いわゆる〝内助の功〟への価値として、保険料を納めなくても、ちゃんと受益ができるようにしたものです。

 しかし、今は専業主婦が少なくなり、家庭の形も変化しています。そのため、今後は第3号被保険者の制度自体をどうするのかを考えていかなくてはいけない、と西田議員は言います。

「今回の『年収の壁』を乗り越えるための改革は、あくまでつなぎです。壁を気にせずに、安心して働ける社会にしていくために、3年後に抜本的な改革を行うことになっています。公明党はこれからも、年収の壁を気にせず、安心して働ける社会にするために、最適な案を出していきます」

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西田実仁(にしだ・まこと)
公明党所属。参議院会長、税制調査会会長、選挙対策委員長などの、要職を務める。元経済ジャーナリストの経験から、経済のプロフェッショナルとして軽減税率の導入や中小企業支援など、実績も多数。
「年収の壁」についてもいち早くその環境整備への対応へと動きだし、今年4月にプロジェクトチームを設置 。