【潮８月号の読みどころ】民衆こそ王者――池田大作とその時代

宗門に｢折伏｣を教えたのは学会 「行学の二道」――これを実践し、人々に広めたのは創価学会だった。「行」も「学」も、宗門は観念的で乏しく、学会の試みに対して極めて冷淡だった。寺院で御本尊を授与する儀式を「御授戒」というが、そもそも提案したのは牧口常三郎（創価学会初代会長）だった。1937年（昭和12年）ごろ、牧口が宗門に要請して始まった（和泉覚・最高指導会議議長〈当時〉の証言）。「それ以前には、宗門には、信徒全員にきちんと授戒の儀式をするという伝統はなかったのである。第一、折伏をしないのだから、ほとんど新入信者も出ず、授戒する必要がなかった」（1991年12月の池田のスピーチ、全集第79巻） 宗門に牧口の真意を理解できる人は少なかった。「……当初は、学会員が折伏をして、入信希望者を連れていっても、どこの正宗寺院でも御授戒をしてくれたわけではなかった。最初は、東京の〝中野の歓喜寮〟と、砂町教会の二カ寺だけだったのである。後に常在寺が加わって、三カ寺にすぎなかった」（同）。 やがて宗門は軍国主義に迎合し、牧口は弾圧の末に獄死した。日本の敗戦後、戸田城聖（創価学会第二代会長）が学会を再建していく。その過程でも、宗門の腰は重かった。戸田自身が語っている（1954年7月）。「地方に、一軒の正宗の寺があった。学会の地方折伏の趣旨を話したが、『勝手にやりなさい』となんら助けてくれない。しかたがないので、（聖教）新聞とチラシをもって、一軒一軒まわった」 この数年前――福岡の八女(やめ)で、宗門の悪僧が学会の組織を荒らし回った。悲痛な報告を聞いた戸田は、責任者の田中國次(くにじ)に宛てて、炎のような言葉を綴り送っている。〈何の為に私は創価学会をひっさげて、世の悪に、ざんそ（讒訴＝陥れるための陰口）も恐れず、世の憎しみが身に及ぼうが地獄に落ちようがそれもかまはずに立ちましたか〉 ――宗門からは〝戸田は増上慢だ〟と言われるかもしれない。〝寺を馬鹿にしている〟と言われるかもしれない。決してそうではない。〈御僧侶の大半が折伏が出来ぬ為に、私は只、それを助けるためであります。これには大勇猛心が入（要）るのです。此の勇猛心を人は畏れ且つ憎むのです。しかし私は恐れません。これを恐れて大聖人の末弟と言はれませうか〉。〈永遠の生命をみつめる時 今世の小難なぞなんですか。……純正な信仰者を用ひなさい。一人でも二人でもよいのです。今、学会人は各支部 火の様な働きです。皆、信心が基準です〉 そして戸田は〈坊さんにほめられたがる者〉は絶対に用いてはならない、と厳命した。八女の人々は戸田の思いを知り、ぐらついていた信心を立て直していく。 先のスピーチで、池田はこう続ける。「ほとんどの僧侶は、学会の折伏・弘教の活動に対して無理解であり、むしろ批判的でさえあった。その後、学会による折伏・弘教の伸展とともに、全国の寺院でも御授戒が行われるようになっていった。同じ牧口門下生の柏原参議会副議長は『なかには、やり方をよく知らない僧侶もいて、学会の幹部が教えてあげたこともある』と述べている」「『宗門がどんなに威張っても、全部、学会が教えてやったんじゃないか』と、牧口門下生は皆、語っていた」「行」だけでなく、「学」もまた同じである。本格的な御書（日蓮の遺文集）を発刊したのは戸田城聖だった。宗門の堀日亨が尽力したが、あくまでも個人での取り組みであり、戸田との一対一の信頼関係に拠っていた。創価学会が御書の編纂という一大事業に臨んだ時、宗門は一切の協力を拒否したのである。日蓮が示した「行学の二道」を、20世紀に再生したのは、在家の創価学会だった。（P.149-152） ｢池田先生に会いに行くぞ｣ 三井利彦は22歳だった。徳島の家具製造会社で働いていた。その日も、いつものようにカーラジオを流しながら会社に向かい、いつものように会社に着いた。ラジオが「池田会長が勇退」と告げた。聞き間違いか。言い間違えたのか。茫然として、しばらく車から出られなかった。1979年（昭和54年）4月24日だった。携帯電話の無い時代である。「あの日は仕事が手につかなくて、夜のニュースで流れるかどうか、それしか考えていなかったです」。 家具づくりの仕事をしながら、男子部の最前線で活動していた。「なんで〝勇退〟なんだろう」。疑問だらけだったが、目の前の会員たちと励まし合った。 年が明けて――地区部長をしていた父の弘一から「池田先生に会いに行くぞ」と言われた。80年（同55年）の1月と5月、四国の人々は大型客船「さんふらわあ７」号を貸し切って、当時、池田が執務していた神奈川文化会館に向かった。「師匠が動けないなら、弟子が会いに行こう」との一心だった（単行本『民衆こそ王者』第2巻に詳述）。「神奈川文化会館に入ったら、『正義』という先生の字が、どん！と飾ってあったんですよ。ごっつ感動しました」（三井利彦） 〈会場へ入ると、大きな『正義』と書かれたその下に『われ一人 正義の旗持つ也』と認めてあるのを見て、先生は辞任後は、ずっとお一人で耐え忍んでおられたと思うと心が痛み、涙が止まりませんでした〉（徳島市、栗林笑子の手記） 「いじらしい徳島の皆さん」「いろいろ問題を抱えているだろうけれど、よくここまで来てくれましたね」。海からやってきた弟子たちを迎えて、池田はうれしかった。懇談の場で、さまざまなことを語った。「全員が、それぞれの地域で、潔い信心をもった名士に」という一言を心に刻んだ地区部長がいた。「いろいろな人がいるけれど、大きな心でお願いします」と言われて、自分の心まで広がった気がした、という婦人部の副本部長もいた。「今は我慢だよ」という短い一言をかみしめる壮年の副支部長もいた。「何があっても絶対に負けないでください。幸せになってください」という池田の声を支えに、生き抜いた壮年もいた。多くの人の心に残ったのは「幸、不幸は、みんな自分の一念の中にある」という一言だった。 〝あせることはない。信心は三世を見なければわからない。人間というものは、感情の動物だから、家の心配、生活の心配をしながらの信心は、大変な時もあるだろうけど、「（南無妙法蓮華経は）歓喜の中の大歓喜なり」（御書788ページ、新1097ページ）と、御書の中にもある。結局、自分の人生の中で、苦しみが多かったか、喜びが多かったか、顔を見ればわかります。信心の世界は、みんな実像です。とにかく今は、自分の信心に深さを作り、境涯を開いていくことが、自分の人生の幅を広めてゆくことにもなる。物事を大きく見ていくのが学会のあり方です〟 懇談の最中、池田は、ご主人を亡くされた方はいますか、と声をかけた。男のお孫さんのいる人は、女のお孫さんのいる人は……次々と声をかけ、手を挙げた人々にお土産や記念の品々を渡していく。 河野充憲は28歳だった。吉野川市で男子部の本部長をしていた。「先生は『今日、ここに来るために誰かにお金を借りて参加した人』と呼びかけられ、思わず手をあげてしまいました。母から借りて船に乗ったんです」と苦笑いしながら振り返る。 「先生は私をじっと見つめて、じっくり話されました。『若いうちはお金がない、貧乏だ、若いうちは、それでいいんだ。苦労しなさい。若いうちの苦労はすべて〝定期預金〟になるんだ。ただ、この預金は解約できない。しかし、いつか必ず〝満期〟がくる。それを確信してがんばりなさい』と。また、『両親を大切にしなさい。親の恩を忘れてはいけない。恩を忘れる人が退転するんだ。恩を忘れてはいけないよ』とも。あの出会いが人生の柱になりました」 池田は他の場所でも、〝妙法の力用〟について同じ趣旨の話をしている。 「皆さまは、すでに、そうした無量の宝を生命に持っておられる。ただ遠慮してか（笑い）、なかなか外に出さないだけである（爆笑）。定期預金みたいに（笑い）、しばらく貯金しっぱなしの人もいるかもしれない（爆笑）。宝の蔵を開くことである」（1990年10月、福井でのスピーチ、全集第75巻） 神奈川文化会館に集まった一人ひとりを、池田はロビーに降りて「今日はありがとう」と声をかけ、見送った。後年、彼らの子どもたちの世代が池田のもとに集まった。その場で池田は「いちばん大変なときに、真っ先に私のもとに来てくださったのが、いちばん遠い四国の方だった。これが四国の方の心なのです」「私は、あの光景を一生涯、忘れることはないでしょう。仏意仏勅の学会がもっとも大変な法難の時に、悔し涙を流しながら、必死に真剣に戦いぬいてくれた、けなげな四国のわが同志を、私は、三世永遠に護っていく決心であります」と語っている（2001年11月のスピーチ、全集第93巻）。（P.153-157） ｢完勝のシナリオ｣を書くのは自分だ 国境を超えて、言葉の壁を超えて、池田は宿業に負けない力を伝えてきた。同じ心構えで闘う同志が、世界各地にいる。アメリカSGIの芸術部長を務めたパスカル・オリヴェラ。国際的なスパニッシュダンサーだった。重い肝臓病や悪性リンパ腫と闘いながら、スペイン舞踊としては異例の50歳を超えてなお、各国から招聘を受け続けた。彼が友人を励ました言葉を、池田が綴り残している（2004年10月23日付「聖教新聞」）。 〈パスカルさんが、アメリカの芸術部の友に語った。「だれもが俳優です。自分の人生という劇を演じています。そのシナリオを書くのはだれでしょう？それは自分です。神でもなければ、運命でもありません。偶然でもありません。自分が自分の人生の『脚本家』であり、同時に『主演俳優』なのです。これが仏法の教えです。自分しだいで、人生は変えられるのです！ところが、ここに問題があります。祈っていても、頑張っていても、無意識の中で、自分自身が『別のシナリオ』を作っていることがあるのです」〉 「たとえば、意識では『このオーディションに受かりたい』『あの人との人間関係を良くしたい』と思って祈っている。ところが同時に、心の底では『オーディションなんて受かるはずがない』とか『背も低いし、素敵でもないし、太りすぎている……』とか考えている。病気の克服を祈りながら、心の奥では、治らないのではないかと考えている。これが『別のシナリオ』です。こっちのシナリオの方向に現実は動いていくのです。だから、そんなネガティブ（否定的）なシナリオは、心から消し去らねばなりません！」 パスカルの言葉は、さらに続く。「勝利の劇を演じるためには『断じて勝つ』『勝たないはずがない』と決めて、その結果を具体的に、目の前に見るように生き生きと描いて、心の底にたたきこむのです。頭の中で、リハーサルが必要かもしれません。目標を紙に書くことや、それを何度も口に出すことも効果があるかもしれません。『完全勝利のシナリオ』を繰り返し、心に焼きつけるのです。『できる』と思えたならば、必ずできるのです。祈りは、叶うまで祈り、戦うのです！」 この一念をもって生き抜く道を、池田の弟子たちは「宿命転換」とも、「人間革命」とも呼ぶ。（P.169-171）

【潮８月号の読みどころ】民衆こそ王者――池田大作とその時代

連載ドキュメンタリー企画 民衆こそ王者――池田大作とその時代 「魂の独立宣言」篇（2）

連載ドキュメンタリー企画　
民衆こそ王者――池田大作とその時代「魂の独立宣言」篇（2）