未来をひらく選択――池田大作 平和提言選集 発刊に寄せて
2025/01/20池田大作先生が1月26日「SGIの日」にあわせて発表されてきた「SGI提言」のうち、2012年以降に発表されたものを収録した書籍『未来をひらく選択――池田大作平和提言選集』が発売。
戸田記念国際平和研究所所長/オタゴ大学名誉教授のケビン・P・クレメンツ博士による発刊に寄せてをご紹介します。
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発刊に寄せて
戸田記念国際平和研究所 所長
ニュージーランド・オタゴ大学 名誉教授
ケビン・P・クレメンツ
私が初めて池田大作SGI(創価学会インタナショナル)会長にお会いしたのは1996年のことです。その時の語らいから、すべての人々が幸福で、安全で、平和のうちに暮らすことのできる世界を実現しようとの池田会長の並々ならぬ情熱と献身を感じ、心が揺さぶられました。
私は平和学を専門とする学者であり、かつ平和構築の実践者ですが、平和への不屈の信念により戦争に反対し、良心的兵役拒否者として4年間投獄された父から深く影響を受けました。平和を実現するには、いかなる苦難にも耐え抜く強固な意志と勇気が必要であることを理解していました。そのため私は、池田会長が世界平和の実現に向けて、たゆまぬ努力をどれだけ続けてこられたか、と深い敬意を抱くのです。
その証ともいえるのが、池田会長が1983年から2022年まで40回もの「SGIの日」記念提言を発表されてきたことです。その一つ一つにおいて、核軍縮、気候変動、人権、ジェンダー平等、世界市民、国連強化など、世界が直面する喫緊の課題に対し、仏法の智慧を加えた深い洞察と、世界の現実を踏まえた実践的な提案をされてきました。本書は、その珠玉のエッセンスであります。
世界は今、「ポリクライシス(複合危機)」と呼ばれる危難に直面しています。これは、あらゆる国に影響を及ぼす複雑な課題が相互に絡み合い、単独の政府では解決できないものです。こうしたグローバルな危機には、地政学的な紛争、社会的不公平や二極化、気候変動、そして世界的なパンデミックの継続的な影響などが含まれます。
深刻な社会危機の中、多くの人々は希望を失い、福祉、アイデンティティー、安全といった、人間としての基本的ニーズを満たすことに不十分な従来のシステムに対して、不満や憤りを感じています。こうした幻滅がポピュリズムや権威主義の台頭、政治の機能不全につながり、社会の分裂を深めているといえます。
このような危機の時代であるからこそ、池田会長の提言には際立った力があるのです。会長のメッセージは、不屈の楽観主義と希望、生命尊厳を中心にすること、そして人間一人一人が持つ変革の可能性に対する揺るぎない信念に貫かれています。最後の「SGIの日」記念提言となった2022年の提言では、「天晴れぬれば地明らかなり」(新146・全254)との仏法の箴言を引き、「世界を覆う暗雲を打ち破って、希望の未来への地平を照らす力が人間には具わっている」という確固たる信念を伝えています。
この人間の可能性に対する信頼は、「人間革命」の理念から生まれています。会長は、真の社会変革は一人一人の深い内面の変革から始まると主張します。
戦争、貪欲、環境悪化、格差と不公平、分極化といった社会問題も、その根源は、個々人の考え方、生き方に帰着する。各個人が抱く怒りや恐怖、無関心といったものが、思いやりや勇気、生命への敬意、そして社会全体の幸福への献身にと内的変革を遂げていくとき、平和に不可欠な政治・経済構造の改革への潮流も生まれていく――この信念は、人間一人一人に変革をもたらす可能性があることに究極の信頼を置かれています。池田会長は提言全編を通して、われわれは傍観者でいることはできず、公正で包摂的な世界の追求へ向けて積極的な参加者でなければならないと強調されているのです。
前例のないグローバルな課題に取り組もうとする私たちは、この池田会長のメッセージをしっかりと受け取っていく必要があります。とりわけ会長が期待するのは、女性と若者が果たす重要な役割です。これは私の平和学の師であるエリース・ボールディングの信念とも通じています。ボールディングは、平和の文化を育むには女性のエンパワーメント(内発的な力の開花)が不可欠であると主張していました。彼女は池田会長とこの問題について何度も意見を交換したと聞いています。
2018年の提言で池田会長は、核軍縮、紛争解決、災害リスクの軽減、気候変動対策への女性の不可欠な貢献を強調し、持続可能な開発目標(SDGs)と密接に関連した「女性のエンパワーメントの国際10年」の制定を提唱しました。 その主張の中心には、女性が力を得ることで、より強く、より回復力があり、思いやりに満ちた、包摂的な社会が築かれるという確信があります。
私は長年にわたり創価学会の女性平和委員会の皆さんとご一緒する機会に恵まれ、現実の変化をもたらそうとする彼女たちのエネルギーと献身に常に感銘を受けてきました。2011年の東日本大震災の後、茨城と福島のたくましい女性たちにお会いした時のことも鮮明に覚えています。苦難にも負けぬ彼女たちの笑顔は、日本にとって希望の光でした。
先日(2024年10月)、ニュージーランドを訪れた創価学会のリーダーの方とお会いした際に、「私は女性たちの活躍こそSGIの“秘密兵器”であると確信しています」と申し上げました。するとそのリーダーの方は闊達に笑いながら「クレメンツ博士、それは秘密どころか誰もが認める偉大な事実ですよ!」と答えられたのです。
また池田会長は、常に未来を創りゆく変革者として若者に対する深い信頼を表明しています。
師である戸田城聖氏(創価学会第2代会長)が、核兵器廃絶の使命を若き池田会長と5万人の青年らに託したように、池田会長も青年こそ世界が必要とする変革の触媒となる存在だと信じています。
それは、すべての青年は本質的に利己主義や分裂主義などの負のサイクルを乗り越える能力を備えており、そのエネルギーを平和、正義、幸福に根ざした社会の構築に注ぐことができると考えられているからです。 実際、私はこれほど青年たちを深く愛情を持って信頼しているリーダーに会ったことがありません。
そして会長は数々の提言で、社会的弱者や疎外された人々、苦難の淵で奮闘する人々を決して見過ごさないという視点を強調されています。誰も置き去りにすることなく、一人一人の尊厳に基づく強靱なコミュニティーの実現は世界平和への重要な条件といえるのです。
さらに、現代世界の最大の脅威である核兵器の廃絶に再三、言及してこられました。2023年にも世界の指導者が集うG7広島サミットに寄せて、「核兵器の先制不使用」へ向けての行動を強く呼びかけられました。「核兵器のない世界」「戦争のない世界」への道を切り開くとの、提言を貫く池田会長の固い意志と行動を、今こそ受け継いでいく時です。
特に青年の皆さんには、池田会長の提言を、未来を担う皆さんへの遺訓として受け止めていただきたいのです。本書が池田会長のビジョンについて深く考えるだけでなく、行動を起こすきっかけとなることを信じます。これらの提言に示された処方箋は、書かれた当時と変わらず、今日と未来にも通じるものだからです。
私たち一人一人が平和で希望に満ちた世界を築く力を持っています。本書に触れた多くの方々が、平和のために、より明るく、より統合されたグローバル・コミュニティーの実現に向けて、その力を大いに発揮していかれることを願っています。
最後に、エレノア・ルーズベルトの時代を超えた言葉を引用して、この序文を締めくくりたいと思います。
「平和について語るだけでは十分ではありません。平和を信じなければなりません。そして、信じるだけでは十分ではありません。平和のために行動しなければなりません」
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『未来をひらく選択――池田大作平和提言選集』(『池田大作 平和提言選集』刊行委員会編)/定価:1430円/発行年月:2025年1月/判型・造本:四六並製・336ページ
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