公明党が繰り出すトランプ関税×物価高対策
2025/05/07トランプ関税の衝撃と物価高が家計を直撃する中、公明党が掲げる旗印は「減税で暮らしを守る」。西田まこと幹事長は、ガソリン暫定税率廃止や一人最大4万円の所得税減税、食料品消費税ゼロまで視野に、即効性ある現金給付と組み合わせた“合わせ技”を提案。地域経済と中小企業を支えるため、全国3000議員の調査網を駆使し、先手の減税パッケージで物価高の痛みと景気後退を食い止める覚悟を鮮明にする。
(月刊『潮』2025年6月号より転載)
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世界経済に激震トランプ関税の衝撃
アメリカがいわゆる「トランプ関税」を発動したことで、世界経済は激震に見舞われています。
3月12日、トランプ大統領はアメリカが輸入する鉄鋼とアルミニウムに一律25%の関税を発動しました。トランプ大統領は政権1期目の2018年3月に、鉄鋼(25%)とアルミニウム(10%)に関税をかけています。ただしこれには適用除外の条件があったため、日本製の鉄鋼やアルミニウムに一律に関税がかけられたわけではありませんでした。今回の措置には適用除外はありません。
さらに4月3日から、自動車と部品の輸入に25%の追加関税を発動しています。これまでアメリカは乗用車の輸入に2.5%、トラックの輸入に最大25%の関税をかけてきました。25%の追加関税は、これに上乗せされます。
4月5日には、ほぼ全世界の国々からの輸入品に一律10%の関税がかけられました。これに加え、4月9日からは国ごとの上乗せ分も発動するとしました。EU(欧州連合)の関税は10%上乗せで合計20%、日本の関税は14%上乗せで合計24%になりました。
ただしトランプ大統領は「関税上乗せに90日間の猶予を設ける」とも発表しています(4月9日)。「3カ月後から日本の関税を24%に上げるぞ」と脅しつつ、交渉の余地を提示してきたのです。
関税上乗せに猶予が与えられた90日間も、10%の関税はかかり続けます。また自動車や鉄鋼などにかけられている25%の関税には、猶予は設けられていません。自動車と部品は、日本の対米輸出の中で一番の稼ぎ頭です。トランプ関税が日本経済に与える影響は計り知れません。とりわけ自動車の部品作りを担う地域経済への影響はかなり大きいと危惧しています。
米国債の不安定化とアメリカの金利上昇
コロナ禍が世界経済に混乱をもたらした当時と現在は、どこが違うのでしょう。それはアメリカの金利です。コロナ禍のときは「人と人の接触を極力減らせ」と叫ばれ、世界経済全体が縮小しました。「アメリカの国債が世界で一番安全だ」と思われているため、世界の景気が後退して株価が下がると、米国債がたくさん買われ、アメリカの金利は下がるのが通常です。
今回はコロナ禍の当時と同じように世界経済が混乱しているものの、アメリカの金利は高止まりしています。なぜか。アメリカの国債が売りに出され、値崩れを起こしているのです。「世界の安全資産」と言われてきたアメリカ国債に疑問符がつき、世界中のマネーがどこに行っていいかわからずさまよっています。
発言の方向性や政策の方針が予測できないトランプ大統領は不確実性の極みです。不確実性があるとき、先を読んで投資を増やす人は少なくなります。世界経済は景気後退のリスクにさらされています。
国債が一気に売りに出され、アメリカの金利が上がっている状況を見て、投資家出身のスコット・ベッセント財務長官はさすがに危機感を抱いたのか、関税上乗せに90日間の猶予と交渉の時間を設けるよう、トランプ大統領に提言しました。
4月16〜18日、赤澤亮正・経済再生担当大臣(日米関税交渉の担当閣僚)はトランプ政権と交渉するためワシントンに飛びました。交渉はまだ続いています。その行方に注目です。

円高ドル安へ? プラザ合意の再来か
1985年9月、アメリカ・イギリス・フランス・西ドイツ・日本がニューヨークのプラザホテルで大蔵大臣(財務大臣の旧称)・中央銀行総裁会議を開催しました。この会議でドル高の是正が決まります(プラザ合意)。1㌦240円台だった円相場は急速に円高へ向かい、87年末には1㌦120円台まで円高が進みました。
今アメリカで起きていることを称して"マールアラーゴ合意"と呼ぶ人がいます。トランプ大統領は毎週のようにフロリダ州の私邸「マールアラーゴ」に戻り、そこにベッセント財務長官をはじめ側近が集まり、アメリカの経済政策が決まっていくというのです。
「ドル高のせいでアメリカの輸出産業が伸びないのだ」という理屈で為替調整が始まり、これから急激な円高ドル安へ向かうかもしれません。
昨年7月3日には、円相場が1㌦161円90銭台まで進みました。86年12月以来、37年半ぶりの円安水準です。
"マールアラーゴ合意"によって円高が進めば、日本に入ってくる輸入品の物価は安くなるので悪いことばかりではありません。ただし、マーケットはたいてい行きすぎるものです。日本にとって頃合いが良いところに収まる保証はなく、円高が極端に進みすぎて輸出産業に打撃を与える可能性もあります。「プラザ合意」の再来になりかねない外国為替市場の値動きを、よくよく注視しなければなりません。
チーム3000で実施 中小企業の緊急調査
4月16日から5月25日までの40日間、公明党は全国の中小企業を対象とした緊急調査を実施します。「トランプ関税」の影響を受けるのは輸出産業だけではありません。輸出に関わっていない中小企業も、サプライチェーンの中で大きな影響を受けるでしょう。全国約3000人の公明党議員が一斉に緊急調査を実施し、現場の実態をとらえて政府に申し入れをします。
私自身も、先日、愛知県名古屋市の自動車部品メーカーを訪れ、地元の公明党県議会議員、市議会議員とともに、お話を伺いました。いまだ影響は量りかねている様子でしたが、仕事量が減ることをとても心配していました。今後もよく連携して、ちょっとした変化も見逃さず、適切な対応を取ってまいります。
ここ2年間、日本の名目GDP(国内総生産)は伸び、賃上げと投資の好循環が生まれつつあります。公明党の主導により、省力化投資など生産性向上のための補助金や、賃上げ促進税制を導入した影響もあります。この好循環の流れを、「トランプ関税」という外的な要因によって腰折れさせてはいけません。
中国の動きにも注意が必要です。アメリカは中国に対して続々と追加関税を発動し、今や関税は合計145%という異常事態です。(中国は対抗措置としてアメリカに125%の関税を発動)「関税の壁」ができたことで中国はアメリカに輸出できなくなり、生産過剰に陥るでしょう。
そこで中国は、値下げしてでも日本をはじめ世界中に輸出しようとするかもしれません。デフレの輸出です。「中国産は質も悪くないし、何より安い」となれば、国産の食料や商品との値下げ競争が激しくなります。するとせっかく好循環が生まれつつあった日本経済が、デフレに逆戻りしてしまうかもしれません。
電気・ガス代の補助と所得税減税「トランプ関税」が発動される前から、日本経済は物価高の打撃を受けています。そこで昨年末に成立した補正予算で、住民税非課税世帯を対象に1世帯3万円、お子さんがいる家庭には児童一人あたり2万円追加する給付を実現しました。3月末時点で、すでに全国の8割方の自治体が給付を始めており、5月までにはすべての自治体で完了します。

地域に応じた物価対策としての重点支援地方交付金も、3月14日の時点で47都道府県、および1250市区町村に交付を決定しています。6月中旬には第2回目の実施計画の受付も開始予定です。
さらに、公明党案が盛り込まれた、一人あたり2万円から4万円の所得税減税(総額1.2兆円)は、年末調整にて反映されます。所得制限なしの高校授業料の無償化もこの4月から実施されました。
2024年12月には、私を含む自民党、公明党、国民民主党の幹事長がガソリン代の暫定税率廃止に合意しています。現在ガソリン税は1㍑あたり53.8円かかっており、このうち25.1円が暫定税率として上乗せされてきました。
税制の議論を詰めるには一定の時間がかかりますが、できるだけ速やかに暫定税率を廃止してまいります。それまでの間、ガソリンをはじめ、軽油や重油なども、定額の引き下げを今年の5月下旬から始められるよう、今準備を進めています。
公明党が打つ物価対策はこれだけではありません。異常な猛暑が襲った昨年8〜10月、公明党の提案によって電気代とガス代への補助が実現しました。これによって電気代は1カ月900〜1000円前後、ガス代は400〜500円前後安くなっています。
今年も猛暑が予想されるため、去年より前倒しをして7月から電気代とガス代への援助を開始すべきと公明党が提案しました。必ず実現してまいります。
そして、現在の米価の高騰に多くのご家庭がお困りであると思います。公明党の高橋光男参院議員(当時農水政務官)の提案がきっかけとなって、3月から政府備蓄米の放出と店頭販売が始まりました。5㌔あたり3000円台後半の備蓄米販売が、すでにスタートしています。新米が流通するまでの間、夏まで持続的に備蓄米を放出し続けていきます。物価高から国民の皆様の生活を守るため、公明党は様々な手段を粘り強く講じてまいります。
常に先手、先手で取り組んでいく
減税は大切ですが税制改正には一定の時間がかかります。ゆえに即効性では劣ります。そこで、税制改正までの「つなぎ」としての給付が必要です。物価高と「トランプ関税措置」への対応として、減税と現金給付の合わせ技をやるべきだと公明党は主張しています。
減税としては、ガソリンの暫定税率の廃止や所得税の減税、さらには「食品には税はかけないで」と消費税の軽減税率ゼロを求める声もたくさんいただいています。党として、あらゆる税目を排除せず、減税の議論を行っています。
現金給付についても、様々な議論があるところではありますが、需要を下支えする意味から、マイナポイントを活用した給付も一案ではないかと個人的には考えています。
マイナンバーカードの導入時、カードを取得したり健康保険証や公金受取口座を登録した人には、最大2万円分のポイントが支給されました。ポイントは貯金できません。使用期限を設ければ、期限までに必ず何か買い物をしなければなりません。
マイナポイントのキャンペーンを行った当時は、PayPayやau、楽天といった民間の決済事業者が独自の"上乗せ"を展開してくれました。こうした副次的な経済効果も期待できるでしょう。
自治体を通して指定された銀行口座に振り込むには、時間も手間もかかります。スピード重視で現金給付するためには、すでにあるマイナポイントを活用するのも一案です。「マイナンバーカードをもっていない」という人には、少し時間はかかるかもしれませんが、指定された銀行口座に直接振り込む方式を設ければいいでしょう。マイナポイントと現金給付のいわば"ハイブリッド給付"です。
「トランプ関税」は不確実性の極みであり、世界と日本の経済に今後どのような影響を与えるか政府はあらゆる想定をしながら注視していかなければなりません。公明党は何よりも「国民の生活を守ること」を最重要に考え、そのために必要な政策は常に先手、先手で取り組んでまいる決意です。
(取材日4月17日)
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公明党幹事長
西田実仁(にしだ・まこと)
1962年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業(在学中、中国・北京語言大学へ留学)。86年に東洋経済新報社に入社。2004年に参議院議員(埼玉選挙区)に初当選。現在4期目。公明党参議院会長、公明党税制調査会会長などを経て現職。