【潮８月号の読みどころ】民衆こそ王者――池田大作とその時代

「臨終を忘れて僕は戦いゆく」 1971年の冬、鵜木洋（うのき・ひろし）は小学5年生だった。福岡での記念撮影の一コマを鮮明に覚えている。「九州未来会の記念撮影の時、男子は30人いました。その場に参加していた親たちも一緒に写る雰囲気になっていました」 しかし、池田は「これは未来会の撮影だから」と言った。準備しているスタッフたちに「ここには、父兄のいる人もいれば、いない人もいる。これ（父兄も一緒に記念撮影）では不公平だ。決して親切ではないよ」と諭した。 43歳の池田にとって、親子ほど年の差がある子どもたちでも、「仏法における師弟」の出会いであること、そして「一対一」の出会いであることに、少しの違いもない。（P.130-131） 「あっという間に大人になるんだ」 佐藤政春はこれまで、学会の全国少年部長や九州青年部長などを務めてきた。小学校に入る前の子どもと、池田とのやりとりを覚えている。「先生、こんにちは」と大きな声がした。5歳くらいの男の子だった。池田は深々と頭を下げて「こんにちは」と挨拶した。「小平文化会館を初めて訪問された折のことです。ヤング・ミセスの会合で、微笑ましい光景で、みんな笑顔だったのですが、お辞儀をされた時の先生の目が真剣そのものでした。驚きました（略）。」「少年部長時代、先生が子どもを子ども扱いするような態度は一度も見たことがありませんでした。『子どもも一個の人格者だ』ということを、徹底的に厳しく教わりました。昭和49年の北海道では、青年部の会合に少年少女部も参加していて、先生は真っ先に子どもたちに声をかけられました。会合の後、『子どもに対する私の振る舞いを、冗談半分に受け止めている人もいるだろう。しかし、私は真剣だよ。次の学会は、この子たちに託す以外にない。だから最大の礼を尽くしているんだよ』と。『子どもは、あっという間に大人になるんだ』とも言われました」（P.133-134） 火事の翌朝に届いた励まし 「言論出版問題」の渦中、栁生昭典（やぎゅう・あきのり）は久留米大学の大学院に通い、博士号を得た。休日には医師として、無医村へ出かけ、健康相談などを担当した。創価学会の「黎明医療団」である。黎明医療団は1972年、宮城県加美郡から始まった。〈奈良県・川上村や熊本県・波野村、北海道・厚田村、沖縄県・国頭村など、各地に赴き、無料健康相談を重ねていった。その数は十年間で、百二十回に達している。／この活動には、学会のドクター部以外の医師たちも、共感、賛同し、加わるようになっていった。多い時には、医師の半数近くが、そうした協力者であることもあった〉 昭典は熊本の波野村をはじめ、九州各県の無医村へチームを組んで通い続けた。その数は20回に及ぶ。 家庭では三男が統合失調症で苦しみ、同苦する日々が続いた。昭典が福岡県壮年部長として、県下を歩いていたある日――自宅が火事に見舞われ、全焼してしまう。一人も死ななかったのが不幸中の幸いだった。 長男の岳志は山口大学を卒業し、医師になって2年目だった。夜が明けて、皆が呆然としていた時、壮年の幹部が息せき切ってやってきた。火事の詳報を聞いた池田から、九州本部に、手書きのＦＡＸが届いたという。耳を疑った。しかし、目の前のＦＡＸ用紙には、〈偉大なる 変毒為薬の 法なれば 親子の幸は いやまし光りぬ〉と大書されていた。そのスピードが、信じられなかった。「父も母も、声を押し殺して泣いていました。御本尊も焼けてしまい、併設していたクリニックも全焼。これからどうなるんだろう、という不安の中で、『すぐに御本尊をお取り替えしてあげなさい』という伝言とともに、変毒為薬、親子の幸は……という仏法の眼を教わりました。再起を決意した瞬間でした」（栁生岳志）。（P.139-140）『潮』2023年8月号の詳細／ご購入はコチラから