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佐藤優が語る 腎移植を乗り越えて 生命力を強めてくれた学会員の祈り

腎移植手術を無事に終えた佐藤優氏。手術中にみた情景には、不思議なことに、創価学会員からの祈りと誠意を感じた瞬間があったと言う。
術後の心境を『潮』で語る。(『潮』2023年9月号「【連載】池田思想の源流――『若き日の読書』を読む」より転載。写真=富本真之)
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腎移植を終えて

 この原稿を筆者は病室で書いている。筆者は、627日に東京女子医科大学附属病院(以下、女子医大) 腎臓移植手術を受けた。手術は成功した。腎移植には、健康な親族または配偶者が腎臓を提供する生体腎移植と、脳死または心肺停止後の他人からの献腎移植がある。 筆者の場合は生体腎移植でドナーは妻だ。術後の妻の状態も良好で、既に退院して自宅で静養している。

 女子医大の優れた医療チームが同伴してくれなければ、ここまで辿り着くことはできなかったと思う。201911月頃から急速に腎機能が低下し始めた。原因は過食と不摂生な生活なので、自己責任だと思った。

 当初は、腎移植について、まったく考えていなかった。しかし、妻が筆者に内緒で主治医(女子医大腎臓内科)の片岡浩史先生と連絡を取り、自らの生体腎を提供したいという話をした(この経緯については筆者と女子医大の腎臓内科医・片岡浩史先生との共著『教養としての病』 [集英社インターナショナル新書、2023] に詳しく記したので、興味のある読者は手に取っていただきたい)

 女子医大は腎移植において圧倒的優位を維持している。2021年度の腎移植実績は、日本全体で1773 (生体腎1648、 献腎125) であるが、そのうち女子医大の泌尿器科が145 (生体腎139、献腎6)、腎臓小児科4(生体腎3、献腎1)を実施した。
〈これまでの当院で行われた生体腎移植における5年生着率は約90%です。つまりわれわれの施設で腎移植した100人のうち90人の腎臓が5年以上働いていることになります。
さらに、最近10年間に移植を受けた方に限れば、5年生着率は95%以上とはるかによい値になっています〉(女子医大HPより)

 筆者の執刀にあたったのは泌尿器科移植管理科の石田英樹教授をトップとする9人の医師 (阪野太郎先生、清水朋一先生、木島佑先生、平井敏仁先生、中山貴之先生、松下純先生、立木彩花先生、菊地萌衣先生) 3人の看護師 (佐々木恵美氏、加藤紫氏、知念香菜氏) のチームだった。

 石田先生は30年以上、腎移植に従事しているこの道での第一人者だ。事前に手術のリスクを含め、詳しい説明があった。その説明も形式的に文章を読むのではなく、筆者とのコミュニケーションを重視するというスタイルで、とても満足した。

手術中にみた情景

 腎移植手術は全身麻酔で行われる。去年310日に前立腺全摘手術をした時に続いて2回目だ。前回は麻酔のガスを吸った瞬間にブラックアウト(意識を失うこと)して、手術の間の記憶はまったくない。今回は違う。数回深呼吸して、手術室の時計が午前922分を指すところまでは明確に記憶がある。その後、「佐藤さん、終わりましたよ」と声をかけられたので目を覚ますと、時計は午後37分を指していた。

 その間、筆者は別の世界を旅していた。過去の人生であったすべての出来事の記憶が解凍されて甦ってきた。幼稚園の頃、両親と妹と家の側の見沼代用水東縁(埼玉県さいたま市)に遊びに行ったこと、同志社大学神学部でのゼミや学生運動の記憶、モスクワでエリツィン側近のブルブリス元国務長官と秘密の話をしたときの情景が浮かんできた。浮かんできた登場人物が話し始めるのである。その内容がいずれもはっきり記憶に残っている。

さらに宗教的にも不思議なことがあった。キリスト教の「主の祈り」が聞こえてきた。
〈天にまします我らの父よ。
 ねがわくは御名〔みな〕をあがめさせたまえ。
 御国〔みくに〕を来たらせたまえ。
 みこころの天になるごとく、地にもなさせたまえ。
 我らの日用の糧〔かて〕を、今日〔きょう〕も与えたまえ。
 我らに罪をおかす者を、我らがゆるすごとく、 我らの罪をもゆるしたまえ。
 我らをこころみにあわせず、
 悪より救い出〔いだ〕したまえ。
 国と力と栄えとは、
 限りなくなんじのものなればなり。
 アーメン〉
筆者はプロテスタントのキリスト教徒だから、大きな手術の時に「主の祈り」が聞こえてくるのは想定内だ。

生命力を強めてくれた学会員の祈り

 ただし、その直後に実に不思議なことがあった。
「南無妙法華経」
「南無妙法華経」
「南無妙法華経」
という題目がゆっくりした声で3度聞こえてきた。男性の低い声だ。筆者の手術中、多くの創価学会員が題目を送ってくださった。その誠意が筆者の心に感応したのだと思う。

 題目が聞こえてきた後、知り合いの創価学会の人たちがたくさんでてきた。大阪の女性部の方から「佐藤さん、あんたは今世はキリスト教徒でいいよ。いずれ私たちの仲間になるのはわかっているんだから」と言われたことを思い出した。
 筆者はその女性部の方に「私はキリスト教から改宗することはないと思います。私は他宗の信者ですが、創価学会の価値観、生命観、人間主義は正しいと考えています。創価学会の広宣流布、世界広宣流布を妨害する勢力とは私は戦います。それに私は池田大作創価学会第三代会長を心の底から尊敬しています。だから朝日新聞出版から『池田大作研究』を上梓したのです」などと詳しく説明している。

 手術後は一晩(27日午後3時半から28日午前10時まで)ICU(集中治療室)で過ごした。そこでは3人の看護師 (梶里美氏、山元和香氏、平菜々海氏)にお世話になった。手術後の不安な心理を抱えている患者をICUの看護師たちが見事にケアしてくれる。
 今回は、術後の痛みがまったくなかった。麻酔医の菊地先生の見事なケアのおかげだ。と同時に、痛みがないようにと同志社大学神学部の友人たちと創価学会の友人たちが祈ってくれたことが、大きな効果をあげたと考えている。

 筆者はプロテスタントのキリスト教徒なので、命は神から預かったものであると考える。腎移植手術が成功し、筆者の寿命が延びたのも、この世でやるべき使命がまだあるからと受け止めている。やりたいことはいくつもあるので、少し時間をかけて整理したい。

 驚いたのは、手術後2日目に、体感が透析を導入する3年前に戻ったことだ。筆者の生命力を創価学会の友人たちが強めてくれたと思う。この恩義に報いることも筆者にとって重要な課題だ。まず日蓮大聖人の「報恩抄」を勉強してみようと思う。

 

➤続きは『潮』9月号でお楽しみください!

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作家・元外務省主任分析官
佐藤 優(さとう・まさる)
1960年東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。 2002年背任容疑で逮捕。 05年、『国家の罠』(毎日出版文化賞特別賞)で作家デビュー。 新書 「対決!日本史」シリーズ(安部龍太郎氏との共著、小社刊)著書多数。