【潮２月号の読みどころ】民衆こそ王者――池田大作とその時代

「絶対に使命がある子です」 馬場益代(ますよ)は3歳の時、ポリオ（小児麻痺）を患った。後遺症で両足に麻痺が残った。両親が創価学会に入ってしばらくしてからのことだった。（中略） ワクチンによって救われた子たちがたくさんいた。しかし、政治の力が及ばなかった子たちもいた。馬場益代は「日本にポリオのワクチンが行き渡った時、私は松葉杖で歩いていました。10代のころは、思春期ということもあって、自分の障害の現実を受け止めきれなかった」と振り返る。「日蓮仏法で説く『使命』とか、『願兼於業』とか、『桜梅桃李』といった受け止めができないまま、母親が倒れる不幸もあって、頑張りきれない時期がありました。将来への不安でいっぱいだった時、養護学校の先輩である鈴木丈夫(たけお)さんが『自由グループ』に声をかけてくれました」「自由グループ」は、身体に障害がある学会員の集まりである。鈴木はその中心者だった。益代は信仰の必要性は感じていたものの、悩んでいた。「今から40年以上も前ですから、障害のある人が主体的に活動できる条件は、社会的にも、物理的にも、なかった時代です。」 学会の会館にも、車椅子では、今よりもはるかに行きにくかった。自由グループができたのは、そんな時だった。丈夫は益代に語った。――私たちには私たちの使命があるんだよ。〝お客さん〟のような学会活動をしていくんじゃなくて、自分たちの使命の道を切り開いていこう―― 養護学校の後輩にも、学会員がいた。益代の心は少しずつ前向きになっていった。20歳の時、「宿命転換」を本気で祈った。地方公務員の試験を突破し、教育委員会や市民課などで33年間勤めた。「結婚して、夫と2人で働いて、自宅は支部や地区の拠点に使っていただいています。自由グループの活動では、新型コロナウイルスで家庭訪問が減ってしまいましたが、その何年も前から私たちは知恵を出して動いていましたから。コロナ禍になっても、『Zoom(ズーム)』や『LINE(ライン)』でつながって、はがきや電話で励まし合ってきました」 女子部時代、益代は自由グループの東京の責任者を務めた。大田、羽田、足立、立川、東村山、武蔵村山、町田……いくつもの東京の地名を指折り数えて、「東京中の会館に行きましたよ」と笑顔で述懐する。「手だけで運転できる手動式の車の免許をとって、今思えばカーナビも、携帯電話もなかったですが、とにかく動きました。宝の思い出です」。 益代の心が決まったのは24歳の時だった。「池田先生は私たちに向かって『創価学会は、最も苦しんでいる人、悩んでいる人の側に、永遠に立つんだ』と。そうおっしゃったのをはっきり覚えています。宣言するように話されました。それまで抱えていた大きな心の壁を乗り越えられました。あの言葉が、ここまで信心を頑張り通せた原点になりました。障害があるからこその使命を果たしていかないといけないと実感したんです」と語る。（P.155-162） 「君たちが連れてきてくれたのか」 渡辺憲二は2歳の時、自宅の前でよちよち歩きをしているところを、荷馬車にひかれた。脊椎骨折。9歳までの7年間、入院生活が続いた。（中略）「私は4年遅れで高校生になりました。大客殿の前に階段があって、そこで池田先生が高校生たちと記念撮影をしてくださったのですが、私をご覧になって『君には友だちがいるよね』と声をかけられました」 憲二は付き添いの高等部員におぶってもらっていた。たしかに地元からここまで、友人たちが連れてきてくれた。池田は「一緒に連れてきてくれた人も呼んでいらっしゃい」と声をかけ、そばにいた青年部のリーダーたちが呼びに行った。「周りの高校生と比べて4歳も年上ですから、顔がふけていて、目立ったんでしょうね」と憲二は苦笑いを浮かべる。憲二の友人たちが押っ取り刀で駆けつけた。1人が憲二を背負い、1人が靴を、もう1人が松葉杖を持って、4人ひと組の長旅だった。「君たちが連れてきてくれたのか」。池田は1人ひとりに「ありがとう」と礼を言い、念珠などの記念品を手渡した。そして憲二の目を見て言った。「よく来たね。いい友だちがいるね。明るく、楽しく、朗らかな信心を」。 それまでの人生観が変わる夏だった。「信心は、明るく、楽しく、朗らかに。これですよ。仏道修行だから、楽しいことばかりではないですよね。だから、おっしゃったんだと思います。あの夏の先生の一言を指針にしたことが、私の人生を作ったと思います」（渡辺憲二）。 この講習会で憲二は、参加者の文集に「社会福祉のリーダーに」と書いて署名した。夜間の大学に通い、一級の設計技師の資格を取り、配管会社で空調設備の仕事を長年続けた。81年の5月3日には、100人の友と創価大学へ向かった。自由グループが発足して7年目の春だった。（P.163-164） 「悩める友の味方――それが学会を築いた、ただ一つの尊い道」 ――創大のグラウンドで、池田の演奏が終わった。演奏には少しミスがあった。マイクを握った池田は、和田光司や渡辺憲二、馬場益代たちが座っている一角を見つめ、そして8000人の参加者に向かって話し始めた。「今日は障害者の地涌の菩薩の代表がたくさんおられまして、少しでも〝真心のピアノ〟をと思いまして……（ミスは）最近、御書ばかり勉強していましたので……」 グラウンドが笑いに包まれた。「とくに私のうれしいことは、本年は国際障害者年でありまして、私の友だちが代表として出席してくださいました。私は本当にうれしい。よく私は言います。結婚して幸福になったという報告より、失恋して悲しんでいるような方に光を当てる。これが日蓮大聖人様の仏法である。創価学会の精神である。また、一家和楽で幸せである、これはうれしい。それ以上に、一家がなかなかうまくいかない、お父さんや息子が信心しない、その人に光を当てる。これが学会です。その意味において私は今日、御本尊を持った、広宣流布の道を雄々しく歩んでおられるわが友である、身体障害者の地涌の菩薩のお友だちに、最大の拍手をもって応(こた)えてあげたい。大聖人の仏法は、そしてわが創価学会は永久に庶民の味方である」「悩める友の味方である。それが、私どもが今日の、世界一の創価学会を築いた、また戦ってきた、ただ一つの尊い道である」「本当の庶民の中に、進んでいかなければならない。……仲の良い、信心強盛な、本当の仏法家族を創価学会は創っていくべきであると、私は訴えたいがどうでしょうか。……私の遺言であるこの道さえ歩めば、間違いない。こう私は申し上げておきます」（81グループの文集から、趣意）（P.168-169）

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民衆こそ王者――池田大作とその時代　道を開く人篇（5）

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