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「政治とカネ」にメスを入れる改革は待ったなし!

紛糾する自民党派閥による「政治とカネ」問題。
あまりにも国民感覚からかけ離れた一連の流れに怒りの声は日に日に大きくなっている。
政権与党として公明党がいま果たすべき役割とは。
(『潮』2024年3月号より転載。写真=富本真之 サムネイル画像=starline/Freepik)

 

 

 

「慣れ」と「甘え」そして「行き過ぎ」

石井 自民党の派閥による政治資金パーティーを巡る問題によって、国民の政治への信頼が大きく揺らぐ事態となっています。発端となった安倍派では、所属議員にパーティー券のノルマを課し、ノルマを達成した議員には上回った分をキックバック(報奨金)していました。キックバック自体は収支報告書に記載すれば法律上は問題ないのですが、複数の派閥、なかでも安倍派は全く記載せず裏金化していたのです。連立を組む公明党にも、多くの有権者から怒りの声が寄せられています。

 もちろん、公明党には派閥はありませんし、党運営の仕方も全く異なるためこうした問題は起こり得ません。しかし、国民の皆様のお怒りは当然です。今、物価高で非常に苦しい思いをされている方々がたくさんいるなか、政治家が裏金で何千万も懐に入れるとは何事か。私自身、一部の政治家のあまりに大衆とかけ離れたお金の扱い方に愕然とします。

川上 今回の問題の要因を一言で言えば「慣れ」「甘え」「行き過ぎ」です。政治資金規正法に抵触するそうした行為を、派閥を挙げて行っていたというのは、自分たちにとって都合のいい枠組みでしかものを考えられなくなった政治家の「慣れ」であり、おかしいなと思いつつも次の選挙のために派閥の言うことさえ聞いておけばいいだろう、このぐらいは大丈夫だろうというのは「甘え」です。さらに、その金額が大きくなったことは明らかに「行き過ぎ」です。

 一方で、こうした議論のときに「政治に金をかけるな」という声も出てくるのですが、良い政治を行うためにはお金もかかるという一面まで否定してはいけないと思います。政治はむしろ真面目にやればやるほどお金がかかります。

 有権者の声を聞くために選挙区をまわるのにも交通費がかかり、事務所運営や私設秘書の雇用、国会便りなどの発行もタダではありません。真面目に議員活動をすれば、公費の政党助成金だけでは足りないという現実もあります。候補者による"サービス合戦"だった中選挙区制のときよりは現在の小選挙区比例代表制のほうが使うお金は減ったものの、それでもやっぱりかかるところにはかかる。

 だから政治資金規正法第8条の2に基づく政治資金パーティーを開くわけですが、仰ったように法律に則って資金を集めることは否定されていません。それなのにあろうことか派閥が愚かな不正を働いてしまった。

 

公明党の政治改革ビジョン 

石井 どうしてそんなことをしたのか、私には理解できません。どんな理由があれ、国民からは「自分が好き勝手にお金を使うためにやっているんだろう」と思われても仕方がないことです。

 ここまで多くの議員がかかわった不正は、1988年に発覚したリクルート事件以来です。川上先生がご指摘されたように、当時は中選挙区制で同じ党の候補者が争うので"サービス合戦"になっていました。事件を受けて、それを改めるために自民党は「政治改革大綱」をつくり、小選挙区比例代表制にして経費を削減し、党営選挙に改革したわけです。公費助成はそのときに導入されました。その当時のことを知っている議員は、いまでは自民党のなかにもほとんどいません。先生がおっしゃる「慣れ」や「甘え」に加えて、「油断」や「驕り」が自民党にあったことは否めないと思います。

川上 最大派閥の安倍派でこうした問題が噴出したのは偶然ではなく必然だと思います。「慣れ」「甘え」「行き過ぎ」が、政治を腐敗させてしまったのです。

石井 逮捕者まで出た今回の事態を受けて、私ども公明党は2024年を「令和の政治改革元年」と定めました。私が本部長を務める公明党政治改革本部として、政治資金規正法の改正などを盛り込んだ「公明党政治改革ビジョン」を取りまとめたところです。このビジョンの柱は大きく二つ。一つは収支の透明性の確保であり、もう一つは虚偽記載があった場合に議員が連帯責任を負う「連座制」の導入も含めた罰則の強化です。

 公明党は今年の11月に結党から60年の節目を迎えます。人間で言えば還暦を迎えるわけですから、原点に立ち返り、改めて清潔な政治を推し進めたいと思っています。公明党が結党した1960年代の日本政治は、自民党と社会党の二大政党による慣れ合いがあり、宴会政治や国対政治が横行していました。そうした政治腐敗を打開するために公明党が不正を徹底的に追及し、その厳しい国会質問が発端となって起きたのが佐藤栄作内閣の「黒い霧解散」です。原点に立ち返って、公明党がもう一度、政治改革の旗振り役を担う。その決意でまとめたのが今般の「公明党政治改革ビジョン」です。

 

中途半端な改革では有権者は納得しない

川上 それは大いに期待しています。何故ならもはや中途半端な改革ではなく、本気で政治改革を断行しなければならない段階であるからです。そもそもとして、政治資金規正法は政治家が自分たちに都合がいいようにつくった"ザル法"だという批判があります。

 公明党のビジョンでは、政府から独立したかたちで政治資金を監督する第三者機関を設置することが掲げられています。私はこれが最大の肝になると考えています。

 今回の事件は、神戸学院大学の上脇博之教授の告発で明るみに出たわけですが、これをスピード違反が見つかった程度のことだと政治家に思わせてはなりません。きちんと制度面で透明化を図り、政治家に緊張感を持ってもらうためには、第三者機関の設置が最も効果的だと思います。

 先に話があった「連座制」の導入については、細部の詰めが必要です。一定の金額以下は修正のみでよしとするのかなど、議員が連帯責任を負うケースを明確にしなければなりません。

 ビジョンでは、パーティー券購入者に関する公開基準の引き下げも謳われています。これまでは20万円以下は公開する必要がなく、そこが不正の温床と言われていたのですが、公明党はその基準を「5万円超」まで引き下げ、さらには口座振込のみに限定することを提案しています。これは自民党の「政治刷新本部」も引き下げる方向で考えているようなのでぜひ実現していただきたい。

 

"信頼の貯金"の起点にするべき

川上 他にも、政策活動費の使途公開の義務付けも提起されています。これはデジタル化さえ進めばそれほど難しいことではありません。官房機密費のように、公開が難しい内容もあるとは思いますが、基本的には公開して透明化すればあとはその支出入が適切か否かを有権者が判断できます。

 透明化し説明責任を果たせば国民に対して"信頼の貯金"ができます。政治は信頼の貯金がなければ行き詰まります。公明党のビジョンを、ぜひともこれから政治がまた一から積み重ねるべき"信頼の貯金"の起点にしていただきたいと思います。

石井 公明党が提案している第三者機関はアメリカの連邦選挙委員会を参考にしています。収支報告書をチェックして、調査権利もあるのですが、それらの前提はデジタル化されているということなんです。年間に8000件ものチェックが行われているそうで、これはデジタルでなければ不可能です。

川上 政府のデジタル化の動きと並行して、政党もデジタル化を推進していかなければなりませんね。公明党のデジタル社会推進本部の取り組みもさらに強力に進めていただきたいです。

石井 連座制は罰則強化の大きなポイントです。政党支部や政治資金管理団体の代表者は議員個人です。これまでの制度では、それらの政治団体の代表者は「会計責任者に任せきりだから私は知りません」という言い訳ができました。

 そこで、年1回の収支報告書の提出の際に代表者による確認書の添付を義務付ければ、もはやそうした言い訳はできなくなります。

 また、ビジョンには会計責任者の「選任」または「監督」いずれかで相当の注意を怠れば罰金刑となり、連動して公民権停止になる旨も盛り込んでいます。そうなると現職の議員であれば辞職しなければなりませんし、そこから5年間は立候補できなくなります。これはかなり厳しいですよ。

川上 そのくらいの緊張感を生み出さなければ、有権者は納得しないでしょう。

 

政治不信を払拭するために

川上 議員は多忙ですので、政治団体の代表者として会計の確認を行う際にも、やはりデジタル化が効率をよくしますね。

石井 収支報告書の公開は現時点では紙で行われています。これをデジタル化すればより多くの人がチェックできるようになり、議員への牽制効果も高まります。

川上 先述の上脇教授は、紙のみの公開というのが、政治家ができれば公開したくないと思っていることの表れだと言っていましたがもっともです。これは変えていかなければなりません。

石井 先に触れていただいたパーティー券購入者に関する公開基準の引き下げなどが報道の見出しになりがちですが、罰則の強化や第三者委員会の設置、いま話題になっていたデジタル化などのほうが政治家に対しては緊張感をもたらすと思っています。

川上 自民党の「政治刷新本部」も、公明党のビジョンもふまえて「ここまでやる」ということを明示していただきたい。その本気度が国民の政治に対する不信を払拭し、信頼の貯金につながります。

石井 パーティー券だけでなく、公明党がかねて訴えてきた調査研究広報滞在費の透明化や、選挙違反で当選無効になった場合の文書通信交通費の返還なども、実現したいと思っています。

 

今国会で果たすべき公明党の役割とは

石井 前述のとおり、公明党の原点は清潔な政治の実現にあります。最近では、永年勤続議員の特典としての特権を廃止しました。

 具体的には、勤続25年以上の議員への特別交通費や、肖像画の作製費、勤続50年以上の議員への憲政功労年金を全廃しました。また、あっせん利得処罰法の制定も公明党の実績です。これまでのさまざまな改革に貫かれている公明党の政界浄化の精神を、今後も引き続き堅持していきます。

川上 昨年は中古車販売買取企業や自動車メーカー、大学、大手芸能事務所などによる、「バレなければいい」といったガバナンス(統治)にかかわる問題が相次ぎました。「お天道様が見ている」といった倫理観が欠けている。ガバナンス不全に国民がうんざりしているなかで、政治資金規正法に関する問題が出た。国民からしてみれば、最もガバナンスをしっかりしなければならないのが政治家です。

 信頼を貯金するためには、一人一人の政治家が高い倫理観を持ち、自分たちは国のために公益に資することをやっているんだという自覚を持たなければなりません。政治には志の高い人材が不可欠なのです。派閥の言うことを聞いていれば次も当選できるなどと考えている人に政治家は絶対に務まりません。

 今回の事件を機に政治がガバナンスを取り戻さなければ、民主主義の根幹が揺らいでしまいます。

その覚悟を持って、公明党には政治改革に挑んでいただきたい。いま一度、気合いを入れ直していただきたいと思います。

石井 1月26日には通常国会が始まります。公明党としての展望は大きく二つあります。一つはここまで話してきた政治資金規正法の改正をはじめとする政治改革でしっかりと結果を出すために自民党に働きかけることです。政治資金規正法の改正の難しいところは、自民党が衆議院で単独過半数を持っている点です。自民党が反対すれば法改正が成立しない。従って、自民党には自らきちんとした改正案をつくってもらわなければならず、それを促すのが公明党の役割だと思っています。

 もう一つの展望は、野党への働きかけです。現行の選挙制度は政権交代を前提としているものですので、現在の野党が与党になる可能性がある。それにもかかわらず、与党のみで協議をして案を練り上げるというのは望ましくありません。しっかりと野党の皆さんにも賛同いただける案をつくらなければなりません。与野党協議をリードするのも、やはり公明党の重要な役割だと感じています。

 

徳で立つものは永遠なり

川上 第二次世界大戦の渦中にイギリスの首相を務めたチャーチルはこんな言葉を残しています。
「民主政治は最悪の政治形態といわれてきた。他に試みられたあらゆる形態を除けば」――と。この言葉は民主主義にはある種のもろさを孕んでいることも示唆しています。有権者の普段のチェックが不可欠なのです。

 中国の強引な海洋進出やロシアのウクライナ侵攻に象徴されるように、現下の世界においては民主主義陣営が窮地に立たされている面があります。民主主義に対する信頼が下がっているときだからこそ、民主主義国家の政治家は一段と気を引き締め、有権者の信頼回復に邁進しなければなりません。

「力で立つものは力で滅びる、金で立つものは金で滅びる、しかし徳で立つものは永遠なり」です。

 公明党には高い倫理観で徳をもって立ち、自公連立の「信頼の貯金」を怠らずに政治におけるガバナンスの回復をリードしていただきたいと思います。

石井 国民の皆さんは、政治の立て直しを切実に望んでおられます。公明党こそが政治改革の旗振り役であるとの自覚と決意で、通常国会に臨んでまいります。

(1月19日)


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麗澤大学教授
川上和久(かわかみ・かずひさ)
1957年東京都生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。国際医療福祉大学教授などを経て現職。専門は政治心理学、戦略コミュニケーション論。著書に『情報操作のトリック』など。


公明党幹事長/衆議院議員
石井啓一(いしい・けいいち)
1958年東京都生まれ。東京大学工学部土木工学科卒業。建設省(現・国土交通省)を経て衆議院議員。現在、10期目。公明党政務調査会長、国土交通大臣などを歴任。