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高齢者から子育て世帯まで「住まい」は社会保障の重要課題

公明党衆議院議員の国重徹氏は、弁護士・税理士の視点から、国民生活の水準を上げる国民目線の改革に挑戦し続けている。
(月刊『潮』2024年10月号より転載)

 

「住まい」の重要性を弁護士時代に痛感

 住まいは生活の基盤であり、人が生きていく上での土台です。その重要性を痛感したのは国会議員になる前の弁護士時代です。

 有罪率99.9%といわれる刑事事件で無罪判決を勝ち取り、法廷で被告人が泣き崩れたこともありました。被害者への謝罪や被害弁償に駆けずり回ったこともあります。多くの刑事事件を担当する中で知ったことは、普通の人が普通でない状況に陥って罪を犯していくということ、そして刑法犯の約半数が再犯者であるという事実です。裏を返せば、再犯が減れば刑法犯は少なくなり、暮らしの安全に直結します。また、再犯を防止することは、刑務所等からの出所者の再チャレンジを後押しすることにもなります。

 そして、再犯を防ぐポイントの一つが「住まい」なのです。住まいがなければ生活は当然不安定になります。帰るべき住まいのない出所者は、仮釈放者などの住まいがある人に比べて再犯リスクが高く、2年以内の再入率を見ると、出所時に住居が決まっている人が14.1%であるのに対し、決まっていない人は24.6%と約1.7倍になっています。出所者を社会から排除せず、孤立させないという思いで、国会議員として公明党の法務部会長を務めた折には、出所者などに対する居住支援の政策を推進しました。

 住まいの確保は、社会保障の面でも重要です。住まいがあって初めて支援制度につながり、仕事や家庭を持つことができるようになります。私が事務局長を務める党の「住まいと暮らし問題検討委員会」(委員長=山本香苗参議院議員)は政府に対し、住まいに関する政策を社会保障の重要な柱の一つに位置付けて取り組むよう、様々な場面で求めてきました。

 これらを受けて、昨年12月に閣議決定された全世代型社会保障を目指す改革の道筋には、「住まい政策を社会保障の重要な課題として位置付け、必要な制度的対応を検討していく」と明記されるなど、着実にその意義が政治の場で理解されつつあります。

単身高齢者などが住宅を確保するために

 民間の賃貸空き家が400万戸を超える中で、単身の高齢者や低所得者、障がい者、ひとり親家庭など、家を借りたくても借りることが難しい人たちがいます。

 公明党は、こうした住まいの確保が困難な方々に低廉な家賃で民間の空き家・空き部屋を提供する住宅セーフティネット制度を推進してきました。

 その上で、高齢の単身世帯はますます増加し、2030年には900万世帯に迫る見通しです。単身高齢者の中には、老朽化による借家の建て替えや、配偶者との死別などによって、新たな住まいが必要になる方が少なくありません。

 一方、政府の調査によると、大家さんの約7割が高齢者の入居に拒否感を示しています。

 拒否感を示す理由はいくつもあります。例えば、孤独死が発生して長期間発見されなければ、物件に特殊清掃を入れる必要があり、事故物件になります。また、亡くなったときに家財などの残置物がある場合、相続人につながるまでに時間と手間がかかるケースもあり、大家さんが勝手に処分をすると問題になってしまうことがあります。あるいは、家賃の滞納が生じることもありますし、居住者の心身の健康や生活が不安定になるケースもあります。

 この大家さんの不安や拒否感を一つひとつ解消し、単身高齢者をはじめ住まいの確保に困難を抱える方々が円滑に入居できる環境をつくることは、政治の重要な役割です。

 そこで、このような環境を整備するための「改正住宅セーフティネット法」を先の国会で成立させました。ポイントは、住宅という箱だけではなく緩やかなサポートをセットで提供するということ、住宅政策と福祉政策の連携です。

 同法では、都道府県が指定した「居住支援法人」などが入居後の安否確認や見守りを行う住宅を「居住サポート住宅」として認定する仕組みをつくりました。同住宅では、入居者の状況の変化に応じて介護保険サービスなどの福祉サービスにつなぐことにもなっています。また、居住支援法人の業務に残置物の処理を追加したり、借り主が家賃の滞納を立て替える保証会社と契約を結びやすくする制度を設けたりもしました。

 私は総務大臣政務官を務めた際に、年齢や障がいの有無にかかわらず、誰もが豊かな人生を享受できる共生社会を実現するためのデジタル活用を推進しました。単身高齢者に対する住宅政策に関しては、例えば電気や水道にスマートメーターを設置し、そのメーター値をAI分析することで生活を見守ったり、福祉サービスに適時適切につなげたりするなど、デジタル技術の活用も重要だと考えています。

若者たちにも住まいのサポートを

 コロナ禍によって生じたウッドショック以降、鋼材や設備機器なども含めた資材の価格高騰によって、とりわけ都市部において住宅価格が大幅に上昇しています。このような状況下では、若い世代が住宅を購入することは難しく、購入できたとしても価格や立地に比べて住宅の質や性能は後回しにされがちです。

 一方、政府は現在、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、省エネ性能の高い住宅、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の2030年義務化に向けた施策を進めています。

 このZEH住宅は環境に優しいだけではありません。光熱費の節約など経済面、また断熱性能の向上による熱中症予防、高血圧や心筋梗塞の防止といった健康面においてもメリットがあります。

 そこで、公明党の国土交通部会長として、子育て世帯が省エネ性能の高い住宅を取得しやすくするために「子育てエコホーム支援事業」などの支援策を拡充してきました。また、住宅ローン減税などによる支援も進めてきました。

 私は現在、党の青年委員会の委員長も務めています。難題が山積している中で、未来に希望を感じられる持続可能な社会をつくるためには、次代を担う若者の声に真摯に耳を傾け、その声を政治に適切に反映させなければなりません。

 同委員会では、若者と一緒に政策を練り上げるための議論を行う「ユースディスカッション」を実施しています。その中で、結婚したくても結婚できない「不本意未婚」が若年層(20歳~34歳)で約4割に及んでいる現状を踏まえ、例えば、社会問題となっている空き家を若者向けの低廉な家賃シェアハウスや交流型賃貸マンション等に活用する取り組みなど、住宅支援と新たな人間関係の構築に向けた支援を進めることが必要ではないか、といったことも議論しています。子育て世帯のみならず、これまで光の当たりにくかった未婚の若者、そして幅広い年代のいわゆる〝おひとりさま〟の住まいに関するサポートについても取り組んでいきます。

住宅の質向上と既存住宅の流通促進

 現在、住宅数は6500万戸以上、空き家数も900万戸以上とそれぞれ過去最多となり、空き家はこの30年間で倍増しています。そのうち賃貸空き家は、先述のとおり400万戸を超えています。

 一方、世帯数のピークは2030年で、その後は減少することが予想されています。

 未来を見据え、新築をどんどん増やす流れから、住宅の質を高め、既存住宅の流通を促進する流れに変えていかなければなりません。そのためには、住宅を売る際に築年数によって住宅の価値が一律に低減してしまうことのないよう、質の向上が適正に評価される仕組みづくりが必要です。これについても、現場の声を踏まえ、国土交通省や金融庁と協議をしながら、精力的に取り組んでいるところです。

 住宅は高齢期の備えともなる財産です。住宅の質を高め、それが適正に評価されれば、リバースモーゲージ(自宅を担保にした融資制度)などを活用することもできますので、老後の選択肢が増えるはずです。

住宅施策とまちづくりの連携

 その上で、どれだけ質の高い住宅をつくったとしても、立地が居住ニーズの低い地域であれば、無駄なものになりかねません。住宅施策はまちづくりとセットで考えるべきです。すでに、人口減少によってインフラや生活を支えるサービス、コミュニティの維持が困難になっている地域もあります。住みよいまちづくりのためには、ある程度はコンパクトシティのように機能を集中させることも必要です。

 まちづくりに関しては、防災・減災の観点も大切です。私は弁護士と税理士の資格の他に、議員になってから防災士の資格を取得しました。公明党はかねて「防災・減災を政治、社会の主流に」と訴えていますが、自身の中でそれを主流化しないと説得力がないと考え、体系的に学ぶいい機会と捉えて防災士の資格を取ることにしたのです。

 その際の研修で専門家の方がおっしゃっていた「災害に対する最大の備えは、災害リスクの少ないところに住むことだ」という言葉が印象に残っています。

 この指摘は本質を突いていますが、現実には防災の観点だけで住む場所が決まるわけではありません。暮らしやすさとのバランス、そして最後は価値観になります。その中で、大切なことは、一人ひとりが防災と向き合い、命を守る行動をとれるようにしていくこと、そのために災害リスクを知ることのできる社会にしていくことです。

 この観点で、私が取り組んだのが、不動産取引の際の水害リスクの説明義務化です。

 当時は不動産取引の際、建物の耐震性能や土砂災害などについては、災害リスクとして説明されることになっていたのですが、洪水や高潮などの水害リスクの情報については必ずしも提供されるわけではありませんでした。そこで、2020年1月の予算委員会で質疑に立った私は、赤羽一嘉国土交通大臣(当時)に水害リスクの情報も重要事項説明に加える法令上の措置をとるべきではないかと、提案をしたのです。

 ちょうどハザードマップの整備が進んでいた時期でもあり、赤羽大臣から、その方向でしっかり進めていく旨の明確な答弁があり、実現することができました。

 防災という点では、海抜ゼロメートル地帯が多く、津波や洪水から逃れるための高い建物が限られている地元の大阪市此花区において、ここを通る国道43号の高架部分を緊急避難場所として確保することもできました。当時は全国でも国道や高速道路を緊急避難場所にした例はほとんどなく、安全面や緊急車両の走行といった観点から、なかなか話が進みませんでした。しかし、一番大事なのは命です。公明党の市会議員と綿密に連携を取り、国交省と粘り強く協議し、なんとか実現できました。そして、この「此花モデル」を全国に拡げるよう国会で訴えた結果、今や全国1000カ所以上にまで拡大しています。

政治の温かな光を届けていく

 2012年12月に衆議院議員に初当選させていただき、議員歴は4期12年弱になりました。弁護士は今ある法律を駆使して人々の悩みやトラブルを解決していく仕事ですが、国会議員は法律を新たにつくっていく立場です。私は法律のプロとして、未来を見据えてより多くの人の役に立つ法律をつくっていくのだという思いで、これまで今般の記事で取り上げた住宅政策に限らず、数多くの実績を積み重ねることができました。

「政治の光を必要としている人たちに、その温かな光を届けていく」という信念で、これは自分がやるしかないと決めたことについては、どんな課題にも真剣勝負で向き合ってきました。先にも触れた通り、総務大臣政務官としてデジタル活用を推進した際には、技術革新の光は、困っているところ、苦しんでいるところにこそ届けないといけないとの思いで取り組みました。

 ヘイトスピーチや無戸籍問題の解消、脳脊髄液減少症への保険適用、性的マイノリティに対する理解増進、ネット上の誹謗中傷対策、親元で暮らせない子どもたちの社会的養護、さらに旧統一教会の被害者救済などもそうです。ときに、事実誤認や無理解、デマに基づく非難中傷を浴びることもありましたが、信念をもってやり抜きました。

 その中で、意識してきたのは「歴史の審判に耐えうる判断であるかどうか」という指標です。新たな法律をつくるにあたって留意するべきはその必要性のみならず、それによって生じうる副作用の程度、他方の利益との調整です。こういったことも冷静に見極め、いかにバランスのとれた法律に仕上げるか。今と未来に責任をもてる制度をつくるか。徹底的に精査し磨き上げなければなりません。そうした冷静な視点を失ってしまえば、政治は一時のポピュリズムに流され、後世に禍根を残してしまいます。

 もとより、政治は0か100かの世界ではありません。意見の違いがある中で、一歩でも半歩でも現実に前に進めていくことも大切です。

 今、私たちがどういう方向に一歩を踏み出すか。その選択の積み重ねが未来をつくります。これからも、政治の温かな光を届けるため、今と未来を見据えた国民目線の改革を、真剣勝負で進めます。

 

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公明党衆議院議員
国重 徹(くにしげ・とおる)
1974年大阪府生まれ。創価大学法学部卒業。弁護士、税理士、防災士。2012年の衆議院議員選挙に初当選、現在4期(小選挙区大阪5区)。総務大臣政務官などを歴任。党青年委員会委員長、広報局長、国土交通部会長。

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