【潮5月号の読みどころ】民衆こそ王者――池田大作とその時代

平和は自分たちで「創る」もの 沖縄の島々の歴史書には、戦争の記録が血の涙で刻まれている。池田は中学生に向けて、沖縄戦について「話すだけでも、怒りの涙がこみ上げてくる」と語ったことがある（『希望対話』「平和って何？」）。池田 住民の、何と4人に1人が亡くなった。話すだけでも、怒りの涙がこみ上げてくる。 住民を助けるべき日本軍が、反対に、住民の隠れていた壕を奪い、食糧を奪い、生命を奪ったという。 なかでも、住民の「集団自決」は悲劇の極みでした。「戦争の足手まといになるから」という理由で、味方であるはずの日本軍から、集団で、自決を命令されたのです。――そんな！池田 やむなく、家族や知り合いが、お互いに、鎌や鍬やこん棒をもって打ち合い、カミソリでのど元を切り、殺し合わなければならなかった……と聞く。 沖縄の創価学会は、この悲劇を永遠に伝えるため、生き残った人たちに「沖縄戦の絵」を描いてもらって、全国各地で展示しました。大きな反響でした。――今また、日本では、過去の戦争を美化したり、正当化しようという危険な動きが強まっています。すごい勢いで強まっていると思います。池田 みんなは、そういう「うそ」を見抜かなければならない。「あなたは、死んでいった沖縄の子どもたちの前で、死んでいったお母さんの前で、そういうことが言えるのか！虐殺された中国の人たちの家族の前で、同じことを言ってごらんなさい！」と。――本当に、そのとおりだと思います。多くの人が、「おかしい」と思いながら、勇気がなくて言えないのですね。戦争の「事実」を伝えようとすると、「表現がきつすぎる」とか「子どもには重すぎて、悪い影響を与える」とか言って、ごまかそうとする人もいる。卑怯です。池田 みんなは、そうなってはいけない。みんなが、「堂々と正義を主張できる人」に育った分だけ、平和は来る。 平和は、だれかから「与えられる」ものではない。平和は、自分たちで「創る」ものです。「創造する」ものです。 それを忘れて、油断すると、すぐに危なくなってしまうものなのです。だから毎日、私たちは、みんなのお父さん、お母さんは、平和のために「行動」しているのです。 また、池田は「『悪と戦う心』をなくして、みんなが無気力、無関心――『どうでもいいや』という風潮になったとき、それはもう、社会は『戦争』の方向に大きく傾いていると言っていい」「大事なのは『生き方』です。『考え方』です。何をいちばん大切にしているかという『価値観』です。そして、信念をもって『何かやる』ことです」（同）とも語った。 〈戦争ほど、残酷なものはない。戦争ほど、悲惨なものはない。だが、その戦争はまだ、つづいていた。愚かな指導者たちに、率いられた国民もまた、まことに哀れである〉 座間味島の小嶺幸春（こみね ゆきはる）は、創価学会に入った後、この池田の文章――小説『人間革命』の冒頭が、沖縄の地で書かれたことを知る。そのことを胸に秘めて、弘教に歩いた。 （P.162-163） 使命の無い人は１人もいない 「集団自決」を生き延びた渡嘉敷島（とかしきじま）の富山眞順（とみやま しんじゅん）が創価学会に入ったのは、1959年の夏だった。沖縄戦から14年が経っていた。〈終戦――。生まれ育った島の復興を願い村役場に勤める。しかし、戦争で負った傷心は広がるばかりだった。……宗教に関心をもち、本島の教会へ足を運ぶ。「しかし、私は案外理屈っぽく……何度も質問するので、信じられなければ（教会に）こなくていいっていわれたのです」〉 まず、妻である芳子が学会に入った。「眞順さんは最初、猛反対したようです。芳子さんは吉浜さんという婦人部（当時）の方から折伏されたのですが、眞順さんが吉浜さんに文句を言いに行ったら、納得して帰ってきたそうです。でも、そこからの"村八分"がひどかったんです」（義娘の富山アイ子）。眞順は戦前、島の青年会長も務めていた。しかし「ヤマトゥガミ（本土の宗教）を拝むモン」と貶され、人が離れていく。「部落で集まりがあると、男の人たちは酒を順番に酌み交わすのですが、眞順さんだけ飛び越して、次の人の盃に注ぐんです。大変な屈辱を味わったと、何度か聞きました。首を切られた鶏の死骸が庭に投げ捨てられていたこともありました」（富山アイ子） 戦後の沖縄において、ヤマトゥ（本土）への怒りと不信が、創価学会への無理解と中傷につながったのは、無理もないことだった。 富山夫妻のもとへ、那覇から船で通ってくれたのは、川満泰恵（かわみつ たいけい）という地区部長だった。川満は、目がほとんど見えなかった。「富山さん、ここのところを読んで聞かせてくれませんか」 川満はそう言って、眞順に御書を手渡した。ページの角が折ってある。「諸法実相抄」という御書だった。〈……末法にして妙法蓮華経の五字を弘めん者は、男女はきらうべからず、皆地涌の菩薩の出現にあらずんば唱えがたき題目なり。日蓮一人はじめは南無妙法蓮華経と唱えしが、二人・三人・百人と次第に唱えつたうるなり。未来もまたしかるべし。これ、あに地涌の義にあらずや〉（御書1360ページ、新1791ページ） 満天の星が降り注いでくるような夜の座談会だった。富山夫妻は、地涌の菩薩、という生き方を知った。川満は「使命の無い人は1人もいないんですよ」「今のうちですよ、大変な思いをするのは。そのうち皆もわかってきて、こんな苦労はできなくなりますよ」と言い、わっはっは、と笑った。地区の有志と連れだって、渡嘉敷島へ映写機を運び、学会ニュースを上映した。富山夫妻は川満の手を引き、折伏に歩いた。 （P.172-173） 聞いているだけでは身につかない 私のパスポートの 忘れ得ぬ最初の刻印は わが沖縄である 世界五十四カ国への足跡は ここ沖縄より始まれり （池田の長編詩「永遠に平和の島・沖縄」、『池田大作全集』第43巻に所収） 池田が初めて沖縄を訪問したのは、第三代会長に就任した2カ月後である（ 1960年7月）。沖縄支部が誕生した。川満はその時、旭地区の地区部長に就任している。渡嘉敷島は旭地区に属した。 娘の城間雅子は「父は網膜色素変性症でした。若いころは、かろうじて新聞のいちばん大きな見出しが読めました。新聞記事は母が読んでいました。学会に入った時も、勤行するにも経本が読めませんから、最初は私が大きな紙に大きく字を書いて、それで覚えました。父から『どこの何番地に誰々がいるから、案内してちょうだい』と言われて、手を引いて歩きました」と振り返る。「父は宮古島の出身です。池田先生が初めて沖縄に来られた後、次はアメリカに行かれると知って、故郷の宮古に2週間ほど帰って30世帯ほど弘教を実らせたそうです。『日本一の折伏をして、池田先生が世界広布に旅立たれるのをお祝いしたんだ』と話していました」「子どもの私たちが家でのんびりしていたら、『あの世に行ってからいくらでも寝られるんだから、ダラダラするな』とよく叱られました」 地区担当員（現在の地区女性部長）として川満とコンビを組んだ島袋（しまぶくろ）操は、「地区部長のところへ行くと、子どもたちに御書を読んでもらい、それを聞いている姿をよく見ました」と述懐している。川満は「耳で聞いて覚える以外にありません。しかし、聞いているだけでは身につかない。ともかく、聞いた御書の一節は、その日のうちに会員の激励や折伏で使いました。頭がどんなによくったって、聞いているだけでは身につかないと思いますね」と語っている。 旭地区の人々が集まれば「地区部長のところへ行くと、必ず、代わりに御書を拝読させられるからな」と言い合った。御書や池田の指導を、声に出して読む。読み合わせをする。それが信心を深めるきっかけになった。「私が今日あるのは、そうした会員のおかげです。大聖人の仏法に巡りあわなければ、目と同様、心の壁も閉まり、暗い人生だったと思いますね」。 川満の姿は学会員のいる島々に伝わり、沖縄の教学運動の草分けになっていく。「教学試験の時は母が代筆しました。父は東京で行われた教学試験で、池田先生から励まされました。『先生から、私についていらっしゃいって言われたんだ』って。病気の宿業は自分の代で終わらせる、という思いでした。『私は目が不自由だけど、折伏する使命があるから、世界一の幸せ者だよ』と言っていました。父が亡くなった後も、私が知らない人たちから『お父さんにお世話になったよ』と何度も声をかけられました」（城間雅子） （P.173-175）