• 文芸

善人よりも人間臭いほうがいい――女性の老後をテーマにした小説『姥玉みっつ』(西條奈加さんインタビュー)

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重版が続々決定し、各地で話題となっている小説『姥玉みっつ』(潮文庫)。著者は時代小説の名手である直木賞作家・西條奈加さん。書籍の大ヒットを記念して、小説の執筆開始時に実施した特別インタビューを期間限定で無料公開します。(取材・文=中島久美子)

江戸を舞台に描く女性の老後

タイトルの「姥玉うばたま」は、『古今和歌集』で紀貫之が、「うばたまの我が黒髪やかはるらむ 鏡のかげに降れる白雪」と老いを歌った歌からきている。 「それに"うばたま"という同名のお菓子もあります。コメディを含みながら、女性の老後をテーマに3人の還暦前後の女性たちの話を、と思ったときに、"姥玉みっつ"というタイトルが浮かびました」 西條さんには江戸の和菓子店「南星屋なんぼしや」の一家を主人公にした人気シリーズがある。『まるまるのいが』『亥子いのこころころ』、さらにシリーズ3作目を連載中だ(当時)。 「実は甘いものが苦手な私が、短編一作だけと和菓子の話を書いたら連作になってしまって。でもあんこ玉のような小さなうばたまは、3つ食べられました(笑)」 江戸後期の文政から天保の時代、おろく、おすげ、おしゅうは麻布で生まれ育った幼なじみ。還暦前後の同世代だが性格は三者三様で口げんかが絶えない。 「おはぎ長屋」で名主の手伝いを務めるお麓は、家族を支えるために武家や商家に長年奉行し、婚期を逃した独り者。亭主に先立たれたお菅も長屋住まいになり、商家に後妻に入ったお修も娘や婿との折り合いが悪く、長屋へ。3人の日常と周囲で起こる悲喜劇をコミカルに描く予定だという。 「3人とも欠点が多くて、近くにいたらちょっと面倒臭い感じ。でもどこか憎めない。お麓はちょっと嫌味な優等生タイプ。お菅は子どもを拾ってきたり、いい人だけど、後先考えずに行動するから周りが振り回されてしまう。お修は享楽者で、年をとっても女であることを出していく。 そういう人も、私はいいなと思うんですよ。独身のお麓と、子どもを産んだお菅、義理の子どものいるお修。それぞれの生き方なり、言い分なりがありますよね。どんな家族の形でも、悩みや小さい文句はあるはずなので。そこも書いてみたいなと思いますね」

人間臭い登場人物の魅力

「善人よりも人間臭いほうが書きやすい」という西條さんの小説世界では、運命を切り開く凛とした女性たちも魅力的だが、くせ者ぞろいの登場人物が楽しい。『隠居すごろく』の徳兵衛とくべえもそうだ。優雅に隠居のつもりが退屈な日々。そこへ孫の千代太ちよたが、貧しい子どもたちを連れてくる。「貧しいのは本人が怠け者のせい」と突き放していた徳兵衛が、現実を知り、商人の知恵を生かして自立の手助けをする。 現代にも通じる社会問題が巧みに織り込まれ、弱さもずるさも優しさももった人間臭い人物たちが、知恵を絞って、思いがけない解決策を見出していく。ユーモラスな会話に笑ったり、時にはほろりとしながら、読後には「人生は生きるに値するなぁ」と、なんとも言えない幸福感が残る。 「そう簡単には解決しないと思いながらも、こんなのはどう?と楽しみながら書いています。でも、頓知の利いた会話とか、ユーモラスな場面を書いているときがいちばん楽しい(笑)。今回は気を使う現代と違い江戸が舞台だから、家族ではない3人がののしったり本音を出し合える一面も。ユーモアのあるものを書きたいですね」

クスっと笑ってもらえたらうれしい

北海道の帯広で生まれ育った西條さんは、子どものころから"物語"が大好きで、将来は作家になるのが夢だったという。 「小学生のころは世界名作文学ばかり読んでいて、とにかく"物語"を読みたいと思っていましたね。学生のころは海外のものではチェーホフやカフカが好きで、カフカは哲学が見えるのに、おもしろさを失っていないところがすごくいいなと」 薬品会社の研究所に7年勤めたあと、海外文学の翻訳がやりたいと、上京して英語専門学校に通った。「でも私の英語力では翻訳は難しいと思い、貿易実務の英語に切り替えました」。 貿易会社に勤めるかたわら、「翻訳と違い、自分の言葉で書ける」小説を書き始めた。30代半ばで宮部みゆきの時代小説を読み、敬遠していた時代ものを初めておもしろいと思ったという。 41歳で書いた小説『金春屋こんぱるやゴメス』は、近未来の日本に鎖国状態の「江戸国」が出現する痛快な物語。奇想天外な設定の下、豪快な女性キャラクターや個性的な人物が躍動する。とにかく楽しいこの作品が「日本ファンタジーノベル大賞」大賞を受賞し、西條さんは作家デビューを果たす。 時代小説を中心に現代もの、ファンタジーと多彩な作品を生み出している西條さん。幼いころからの物語への憧れと膨大な読書量、約20年のOL生活で培われた仕事の知恵や知識が、今、生き生きと開花している。包容力を感じさせる穏やかな笑顔で、「今回の連載では肩の凝らない小説を目指しているので、クスッと笑ってもらえたらうれしいですね」と話す。 3人の女性たちはどんな物語を紡いで楽しませてくれるだろう。期待は高まる。

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