プレビューモード

連載開始直前インタビュー 宮本 紀子

江戸の町を舞台にした連載小説『ひょこ、ひょこ、ひょこ助 雨蛙見聞録』が10月号からスタートします。著者は、心温まる時代小説で多くの読者をひきつける宮本紀子さん。
今作の読みどころや小説を書くときに大切にしていることなどを伺いました。
(『パンプキン』9月号より転載。取材・文=田北みずほ/撮影=水野浩志)

 

ほっとして、くすっと笑って、元気が出る物語を届けたい

舞台は江戸の町医者の屋敷。庭でのんびり暮らしていた一寸半(約4cm)の雨蛙は、医者見習いの直弥(なおや)のある行動によって人間の言葉をしゃべれるようになり、ひょこ助と名づけられる――というのが物語の始まり。時代小説の主人公が雨蛙というのが、実にユニークだ。
「カエルが好きってこともあるんですけど、小さな生き物から人はどんなふうに見えるのかなと、ふと思ったのが今作のきっかけです。カエルの目を通して、人間の姿や暮らしを伝えてみたいと考えました」

 ひょこ助は直弥の懐に潜り込み、診療所を覗いたり、町を散歩したり。時にちょっとした騒動を起こしながら、町の人びとの出会いを広げていく。

 回を追うごとに、物語の世界にどんどん引き込まれそうな予感がする今作。実は宮本さんにとって、初めての雑誌連載だという。
「物語が進んでいく途中で、読者の皆さんの感想が聞けるかもしれないと思うと、ちょっと怖さもありますが、励みになりそうです。私にとっては大きな挑戦です」

 

作家を志したのは子育て中の読書がきっかけ

 デビューして今年で11年になる宮本さん。江戸の大店が舞台の『小間もの丸藤看板姉妹』シリーズなど、人びとの暮らしぶりや心情を丁寧に描いた心温まる時代小説に定評がある。作家を志したのは、子育て中のことだったという。
「出産してから、本を読むようになったんです。結婚して故郷を離れ、知り合いのいない土地で初めての育児でしたから、昼間は子どもと二人きり。夫以外のだれかとしゃべる機会もなくて。すると、どんどん言葉に飢えていくんですね。言葉が欲しい!と痛切に思うようになって。でも、子どもが起きるからテレビやラジオはつけられない。そこで、本に手を伸ばしたんです」

 日々、子育てに必死だった宮本さんがのめり込んだのは、時代小説。現実を離れた世界、江戸時代への逃避が心地よかった。子どもの昼寝時間を見計らっては、手当たり次第に読み進める。物語の世界にどっぷり浸り、思わず大笑いしてしまったことも。疲れた自分を笑わせ、癒してくれる小説の力に魅了された。
「何年もそうしているうちに、私も江戸の町を書いてみたいと思うようになったんです。こんなお店があって、こんな人がいて……と、江戸の世界をつくってみたくなりました」

 思い立ったら一直線。児童館で子どもを遊ばせながら、大きな積み木を机代わりにして書いたこともあったという。自分だけの江戸の町を描きたいという情熱が、作家の道を開いた。
「作品は江戸を舞台としているが、時代は変わっても、人間のありようは変わらない」
と言う宮本さん。ひょこ助の目に映るのは、悩みや苦しみを抱えながらひたむきに生きる人間であり、愛情や思いやりをもって助け合う人びとの姿だ。
「現実世界には、つらい事件や悲しい出来事がある。せめて物語を読んでいる間だけは、ほっとしてほしいし、くすっと笑ってほしい。そして、がんばろうと元気を出してもらいたい。そんな小説を書きたいと思っています」

 四季の移ろいと共に、ひょこ助の物語は進む。どんな人たちと出会い、どんな出来事が起こるのか。江戸の生活が垣間見える、おいしそうな食事にもご注目。小さな江戸っ子、ひょこ助の見聞録に期待が膨らむ。

 

『ひょこ、ひょこ、ひょこ助 雨蛙見聞録』第1回が掲載される『パンプキン』10月号は便利な定期購読がオススメ!

お申し込みはコチラから。

******
作家
宮本紀子(みやもと・のりこ)
京都府生まれ。兵庫県在住。2012年『雨宿り』で第6回小説宝石新人賞を受賞しデビュー。
『始末屋』『狐の飴売り 栄之助と大道芸人長屋の人々』『小間もの丸藤看板姉妹』シリーズ、『おんなの花見 煮売屋お雅 味ばなし』など著書多数。

こちらの記事も読まれています