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鎌田實の「希望・日本」 大村崑さんの人生を変えた筋トレ談義

人気連載である鎌田實の「希望・日本」。
連載第41回は、日本が誇る喜劇役者・大村崑さんがご登場。
御年91歳の大村さんは、とある理由から86歳で筋トレを始めることに。すると、見る見るうちに健康面で変化があらわれて――。
元気はつらつな2人の筋トレ談義をお楽しみください。
(『潮』2023年10月号より転載 / 記事の途中より無料会員限定となります。会員の方は全文お読みいただけます) 

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90歳を過ぎても美しいスクワット

 ピンピンコロリ(PPK)ではなく、ピンピンヒラリ(PPH)でいきたい――。僕はかねてそう言い続けてきた。コロリという呆気ない感じではなく、ヒラリと軽やかにあの世に逝きたい。最期まで好きなことをし、行きたいところに行って、食べたいものを食べる。僕らの世代になると、本気でそれを実現しようとすると〝貯筋(ちょきん)〟が不可欠になる。

 この連載でも何度も取り上げてきたように、最近の僕は隙あらばスクワットやかかと落とし、速遅歩きなどを紹介している。もちろん、すべては僕自身が実践しているトレーニングだ。

 今回は、そんな僕を名実ともに凌駕する〝貯筋シニア〟に登場してもらう。日本が誇る大喜劇役者の大村崑(おおむら・こん)さんだ。御年91歳の大村さんと僕との付き合いはもうずいぶん長い。年こそ僕よりひとまわり以上先輩だが、親しみを込めて〝崑ちゃん〟と呼ばせてもらっている。

 この連載の取材は、コロナ禍になって以降はほとんどオンラインで行ってきたが、今回は久しぶりに対面でインタビューを行った。僕は長野から、崑ちゃんは大阪から、それぞれ東京に出てきて対面した。

 90歳の卒寿を迎えた2021年末、崑ちゃんは一冊の本を上梓しした。タイトルはズバリ、『崑ちゃん90歳 今が一番、健康です!』。帯には、トレーニングウェアを着て、深々とスクワットをする崑ちゃんの写真とともに「体力年齢 驚きの50」との言葉が書かれている。

 驚嘆するのはそのスクワットの姿勢の美しさである。膝はつま先よりも前に出ず、それでいて腰は深く落ちていて背筋もまっすぐ。本の書影を見た人は、おそらく〝体力年齢50代〟という惹句よりも、ここまで美しくスクワットをする90歳の写真に驚くはずだ。

 

100センチの腹囲と大衆演劇の大物俳優

 昔からスポーツをやっていて若々しい肉体を維持しているなら、まだ理解できる。驚くべきは崑ちゃんがトレーニングを始めた年齢だ。なんと、86歳になってからライザップのトレーニングを始めたのだ。いまの僕の年齢のときには何もしていなかったことになる。男性の平均寿命=約81歳を優に超えているし、普通の人ならもう諦めてしまう年齢だろう。

 そもそも崑ちゃんは昔から虚弱体質だった。19歳で結核を患って右肺を部分切除し、医者からは「40歳まで生きられない」と言われた。58歳のときには初期の大腸がんの手術も受けた。高齢期に入ればそこに老いも加わる。86歳の崑ちゃんに何があったのか。

 「何本もあるジーンズが入らなくなってね。腹が。あまりにブサイクやから、女房とデパートに買いに行って試着室に入ったんです。女房は売り場で待ってたんやけど、あまりに時間がかかるから〝何してんの?〟って試着室まで来るでしょ。ちょうど店員さんが僕のウエストを測っててね。〝ご主人のウエストは100センチあります〟と。

 背は高くないし、足は短いから、ウエストに合わせるとみんな裾が長くてチンチクリンなんです。女房も驚いて〝もう帰りましょう。どないすんの? そのお腹〟って。もう長いこと僕の裸を見てませんでしたからね。今や寝室も別やし、触れ合うこともない。昔はあんなに愛し合ってたのに(笑)」

〝ウエスト事件〟の直後に新幹線に乗っていると、偶然にも梅沢富美男(うめざわ・とみお)さんに遭遇する。大衆演劇が好きで、梅沢さんのことは昔から見ていた。当時、70歳を目前にしていた梅沢さんは昔と変わらずスマートだった。

「崑さん、どうも梅沢です」
「相変わらず格好がいいねぇ。どこかにトレーニング行ってるの?」
「そうなんです。崑さん、ライザップってご存知ですか」

 

60歳年下のスーパーマン

 テレビコマーシャルを見る機会がなかったから、ライザップのことは知らなかった。じつは梅沢さんは2017年の秋からライザップでトレーニングを始め、翌18年春に約13キロ減を達成。そのビフォア・アフターの様子は全国ネットのテレビコマーシャルで放映されていた。崑ちゃんと梅沢さんが新幹線でばったり遭遇したのは、ちょうどその頃かその少し後のことだった。

 新幹線では妻の瑤子(ようこ)さんも一緒だった。しばらくして、瑤子さんからライザップに一緒に通うことを誘われた崑ちゃん。ウエスト事件の熱はまだ冷めていない。こうしてライザップの門を叩くことになった。

「最初は乗り気じゃなくて、説明だけ聞く予定でした。せやけど、受付の女性の言葉が巧みでね。それから、一緒にいた20代の男性のトレーナーがめちゃくちゃ格好よかった。身長が185センチあって、身体中が筋肉だらけ。思わず〝この人に教えてもらいます〟って指名してもうたんです。それがスーパーマンですわ」

「スーパーマン」とは、ライザップトレーナーの岩越亘祐(いわごえ・こうすけ)さんのこと。崑ちゃんとの年齢差は約60歳。アメコミの『スーパーマン』のような肉体だから「スーパーマン」と呼ぶようになった。現在も崑ちゃんを担当している。

 トレーニングを始めると筋肉痛が出た。あまりにひどかったので、すぐにやめてしまおうと思ったが、スーパーマンの一言で思い止とどまった。

「寝てる筋肉が起きてる証拠です。筋肉が騒ぎ出してるだけだから、心配しなくていいですよ。その痛みが筋肉になりますから。じきにお腹も凹んできます」――。

 

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