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【対談】歴史を学んで失敗を恐れなくなりました

大の土方歳三ファンの大林素子さん。アイドル時代に、歴史専門家との語らいを綴った対談本『歴史のじかん』を出版された山崎怜奈さん(乃木坂46卒業生)。学び深まる秋、歴史を愛する聡明なお二人に、その豊かな魅力を語っていただきました。
(『潮』202312月号より転載。撮影=富本真之)
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土方オタクの〝痛い歴女〟だった

大林 山崎さんの著書『歴史のじかん』(幻冬舎)をとても楽しく読ませていただきました。あれだけ豪華な専門家の方と対談されているなんてすごいですね。

山崎 ありがとうございます。あの本はテレビ番組(「乃木坂46 山崎怜奈 歴史のじかん」)を書籍化したものですが、本当にありがたい機会をいただきました。当時、私はアイドルをやっていたのですが、写真集は一冊も出していないんです。歴史の本を一冊出して、アイドルを卒業したという……。()

大林 もともと歴史は好きだったんですよね。

山崎 父が歴史の本を読んだり、大河ドラマを観たりすることが好きだったので、その影響を受けたようです。小学5年生から大河ドラマを観るようになりました。最初に観たのは「篤姫」(2008)だったと思います。

大林 私は地元が東京の小平市で、新撰組がご当地ヒーローだったんです。だから子どもの頃から、新撰組愛を植え付けられてきた気がします。私は新撰組のなかでも土方歳三様が大好きで、完全に土方オタクです。以前はよく、自分のことを「痛い歴女です」と紹介していました。()

山崎 今でいう推し活ですね。

大林 初舞台で北条政子をやり、さまざまな舞台で歴史上の人物をやらせていただいたりで、いろんな時代に興味をもっていますが……。基本はとにかく土方歳三様が大好きで、それが高じて今は会津若松にも住んでいます。

山崎 それはすごいですね。でも人って多面性をもっているから「この人のここは素敵だけど、ここは無理!」って思うこともあると思うんです。

たとえば私は、坂本龍馬のフットワークの軽さや行動力はすごいと思うけど、実際にはちょっとついていけないと思います。土方歳三に対してそんな思いはありませんでしたか?

大林 私の場合、嫌なところは目をつぶっています()。土方歳三様は私にとっては百点満点ですが、彼がもっと柔軟性のある人だったら、もっと長生きできただろうと思うこともあるし……。でももしそうだったら、逆にここまで惹かれなかったとも思います。

 

自由に解釈できる余白こそが面白い

山崎 人は年を重ねると価値観や物の見方が変わりますよね。大林さんは土方歳三への見方が変わるようなこともなかったのですか。

大林 土方歳三様が好きという一点は、一貫して変わらないですね。でも新撰組に対する見方は、さまざまな専門家の先生のお話を伺い、新しい知識を得るなかで変わっていったところはあります。新撰組は幕府側から見るか、薩長側から見るかで真逆の存在になりますからね。

山崎 歴史は基本的に、勝者の視点で書かれるものですよね。すべての人にとっての正義なんてないし、ある人たちにとっての正義のもと、犠牲を被(こうむ)った人たちもたくさんいるわけで……。

大林 そう。だからいろんな本を読めば読むほど、なにが真実なのかがわからなくなってきます。だから私はある時期から、本を読み漁ることをやめてしまったんです。その代わり、自分が今まで現地に足を運び、見聞きしたことによって得たイメージこそが事実なんだと、勝手に思い込むことにしています。

山崎 なるほど。私は大河ドラマや歴史小説は、必ずしも史実通りである必要はないと思っています。これまで正しいと思われていた史実も塗り替えられていくものだし、よくわからない不透明で曖昧な部分を想像して楽しんだほうが、歴史は面白い気がするんです。

大林 いやー、大人ですね。()

山崎 歴史は自分でいかようにでも解釈できる、余白こそが面白いと思うんです。大河ドラマの脚本家さんも、具体的な会話が資料として残っていないからこそ、想像をふくらませて魅力的なせりふや台本が書けるんだと思います。

大林 司馬遼太郎さんの小説などもそうですよね。

山崎 ええ。ただ司馬遼太郎さんの作品はあまりにも影響力が強すぎて、作中の坂本龍馬がそのまま歴史上の人物像だと思い込んでしまっている人も多いですよね。

大林 そうそう。でも山崎さんの歴史の楽しみ方を伺い、すこし羨ましく思いました。私はわりと真実を求めたい派なものだから……。あまりにも史実と違う内容だと嫌になってしまって、途中で読むのをやめた本もたくさんあります。

山崎 私は専門家ではないし、知識もあまりないので……。真実の追求は専門家の先生にお任せして、無責任に楽しんでいるだけなんですけどね。()

憧れの人物の行動を追体験

大林 私が芸能界の仕事をしていて一番良かったと思うのが、歴史ファンの憧れともいえる偉い先生がたや、歴史上の人物の子孫に会って直接話を聞ける機会をいただけたことです。色々なご縁から、会津では土方歳三様のご子孫である土方愛さんから話を伺ったり、一緒に仕事をさせていただいたりしています。九代目会津藩主松平容保公のご子孫で、十四代目の殿にあたる松平保久さんは、今や飲み友達です。()

山崎 私も徳川家の現在の当主の方を取材させていただいたことがあります。 徳川家に代々受け継がれている資料を保管している倉庫で、家系図が書かれた巻物を見せてもらいながら話を伺いました。こちらも長い年月を経て受け継がれてきたものへのリスペクトをもって発信していかなくてはと、身が引き締まる思いでした。

大林 山崎さんはお若いのに歴史に対するしっかりした考えをもって発信されていて、すばらしいと思います。ちなみに山崎さんには推しの歴史上の人物はいないのですか?

山崎 私は江戸川区の出身で、土方歳三のようなご当地ヒーローもいなかったので、残念ながら大林さんほどの熱烈な推しの人はいないですが……。『歴史のじかん』でとりあげている人物でいえば、蒲生氏郷や渋沢栄一は好きですね。 太宰治にはまったく共感できません()。幕末では勝海舟などはとても面白い人物だったと思います。

大林 私は歴史上の人物が辿った場所へ行くことが何より好きなんです。会津は今では観光地としてきれいに整備されているところが多く、たとえば、萩(山口県)などは場所によっては、手の入れられていない当時の雰囲気がそのまま残っている場所もあります。そんな場所に行くと、やっぱりテンションが上がりますね。

山崎 土方歳三ゆかりの地はすべて回られたんですか?

大林 土方様が生まれた日野市にはじまり、京都や函館など、彼が辿った場所は何度も巡っています。墓参りにはこれまで、全国各地の記念碑も含めて何十回も行っています。そして新撰組の聖地、会津通いをしているうちに、そこに1年の3分の1くらい住むことになってしまいまして()。土方様が入った東山温泉に入り、彼が見上げていた空を見ながら、その時々の彼の心境に思いを馳せることが好きなんです。

山崎 自分が憧れている人がどんな景色を見て、何を考えていたのか体験したくなりますよね。

大河ドラマに誘われて

大林 山崎さんは最近、どんな場所に行かれましたか。

山崎 城巡りも好きで、一人でお城に登っては「この城の石垣は野面(のづら)積みだから、あの城より前に造られたものだろう」なんてブツブツ言っています。() 姫路城の挟間(さま/壁から鉄砲や弓で攻撃するための穴)を眺めて歩きながら「この城は絶対、攻め落とせないな」と思ったり、彦根城では「この橋は落ちるしかけになっているから、こっちへ行ってみよう」なんて考えたり、ロールプレイング的な楽しみ方もしています。

大林 面白いですね。そういった意味でいうと、私は建築物自体にはそれほど興味はないかもしれません。やっぱり興味があるのは人間ですね。山崎さんはとくに好きな時代などありますか?

山崎 今は平安時代から鎌倉時代あたりに興味がありますね。鎌倉時代のことはもともとよく知らなかったのですが、大河ドラマの「鎌倉殿の13人」が面白くて、興味が湧きました。 また2024年の大河ドラマが紫式部を主人公にした「光る君へ」に決まったということもあって、最近は平安時代の本を現代語訳でよく読んでいます。とくに紫式部と清少納言の二人の文章を読むと、感情表現の違いが面白いです。紫式部は日記に名指しで辛辣な悪口を書いています。いっぽう清少納言は悪口ほど面白いものはないけど、人を傷つけることがあるし、誰かに聞かれれば自分も困る、だから言い方には気をつけなくてはいけないよね〜、なんてことを書いています。それを読んで、紫式部より清少納言のほうが一枚上手だと思いました。()

大林 たしかに。私も昔好きで、よく読んでいた時期があります。

同時代の評価はあてにならない

大林 『歴史のじかん』を読んで一番感心したのが、山崎さんが歴史から学んだことを、ご自身の生き方に活かしていることです。

山崎 歴史が面白いのは、時代を超えていろんな人の経験から学べることだと思います。とくに私が一番学んだのは、人間は他人の目など気にせず、自分の信念を貫いたほうがよいということです。昔の人は他の人と違うことや人に反対されることを恐れず、信念を貫いた人が多いですよね。

大林 たしかに……。土方歳三様がまさにそんな人でした。

山崎 また、今は評価されて英雄のように思われている人が存命中は、けっこうはちゃめちゃだった場合も多いですよね。野口英世は女性関係が奔放でスキャンダラスな話も多かったけど、現代ではお札になるような偉人とされています。吉田松陰は当時、犯罪者として牢屋に入れられていましたが、現代では近代日本の礎を築いた人物を育てた偉人として評価されています。

大林 人間の評価って、大きな時間軸で見ないとわからないところがありますからね……。

山崎 結局、その人の本当の偉大さって同時代の人にはよくわからなくて、後の世の人によって評価されるものだと思うんです。それに偉大な業績を残した人も、その過程ではたくさん失敗をしています。だから失敗を恐れる必要なんてない。他人の目なんか気にせず、好きにやりたいことをやったほうがいい。歴史を学んだことでそう思えるようになり、楽に生きられるようになりました。

大林 なるほど。アイドルにとどまらず、幅広い分野に挑戦してフィールドを広げている山崎さんの活動の源には、歴史での学びがあるんですね。

山崎 私は自分よりかわいくてスタイルのいい子ばかりのアイドルグループのなかで、みんなと同じことをしていても絶対に勝ち目はないと思いました。だから治外法権のような、誰も目指さない場所へ進んだだけなんですけどね。()

「いじめた奴を見返してやろう」

大林 じつは私、子どもの頃の夢はアイドルで……。 だからアイドルの世界で活躍されていた山崎さんのことは、心から尊敬しています。

山崎 そうなんですか! 初耳です。もともとバレーボールはどのようなきっかけで始めたのですか?

大林 私は小学校6年生のときに身長が170cmもあったから、ずいぶんいじめられました。家に引きこもって、死のうと思ったことすらあります。アイドル歌手になりたいと言ったら「お前みたいに大きな奴には無理だ」と言われ、私の夢はあっけなく破れました。そして「私を馬鹿にし、いじめた奴をいつか見返してやろう」と、背が高いほうが有利なバレーボールを始めたんです。もともとスポーツ自体、たいして得意でもなかったんですが……。

山崎 そうだったんですね。

大林 ただ山崎さんの話を伺い、私も現役選手時代、自分を土方歳三様に投影させることで、勇気づけられていたことを思い出しました。バレーボールを長年やっていると、キューバのような圧倒的に強いチームと戦う時は、勝負はやってみないとわからないと思いながらも、悲観的になるものです。でもオリンピックでは日の丸を背負っているわけですから、そんなことは口が裂けても言えません。とにかく死に物狂いで戦うしかありませんでした。その気持ちは滅びゆく徳川幕府への忠義心から、最後まで死に場所を求めて戦い続けた土方歳三様と、通じるところがあった気さえします。()

「歴史の真実」は永遠のテーマ

山崎 なるほど。やはり大林さんの人生に、土方歳三の存在は大きな影響を与えているんですね。

大林 今や会津との二拠点暮らしをしているくらいですからね()。会津には、幕末については通説とは異なる話もいっぱい残っていて、すごく面白いですよ。会津の方から話を聞く度に、歴史の真実って何なんだろうと考えてしまいます。それは永遠のテーマで、正解はないのかもしれません。でもいずれ、会津若松を案内するコーディネーターのようなことがやれたらいいなと思っています。

山崎 それはすてきですね。私、今まで縁がなくて、新撰組に関してはあまり詳しくないんです。 ぜひ大林さんに、会津を案内していただきたいです。

大林 ぜひぜひ。今度遊びに来てくださいね!

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スポーツキャスター、俳優
大林素子(おおばやし・もとこ)
1967年東京都生まれ。 バレーボール全日本のエースアタッカーとしてソウル、バルセロナ、アトランタと3度オリンピックに出場。引退後は、スポーツキャスターの他、俳優として舞台を中心に活躍中。現在、会津若松市観光大使を務めている。今年5月バレーボールV2リーグ、ブレス浜松のGMに就任。

タレント
山崎怜奈 (やまざき・れな)
1997年東京都生まれ。2013年、「乃木坂462期生として活動開始。20年、慶應義塾大学卒業。227月、「乃木坂46」を卒業。現在TOKYO FM 「山崎怜奈の誰かに話したかったこと。」などでラジオパーソナリティを務める他、多数のテレビ番組にも出演中。著書に『歴史のじかん』。

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