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対談 「出る杭を応援する」日本へ――若者政策の未来を語る

若者特有の社会課題を政策に反映するには? 若者に街づくりにかかわってもらうためには?  若者のポテンシャルを引き出す政治について、教育学者の末冨芳氏と公明党衆議院議員の中野洋昌議員が今後の展望を語り合います。(月刊『潮』2024年2月号より転載。撮影=富本真之)

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見えづらい若者の困難

中野 日本の未来を考えるとき、子ども政策はもちろんのこと、その先の世代である若者政策のさらなる充実が重要です。末冨先生は日本の若者が置かれている現状と若者政策の課題について、どのようにご覧になっていますか。

末冨 いまの日本は若者の約8割が高校卒業後に大学・短大・専門学校に進学します。残りの2割は進学できず、また進学した人のなかにも苦しい経済状況に置かれている若者がいます。あるいは、中高生のころから虐待や貧困などによってリスクが高い環境に身を置かざるを得なかった若者たちもいます。まず、そうした厳しい状況に置かれる若者に焦点が当たりづらい社会状況であることを指摘したいと思います。

中野 最近では繁華街にたむろする若者たちとして、東京のトー横キッズや大阪のグリ下キッズなどが取り沙汰されますが、彼らが集まるのは家庭や学校に居場所がないことも背景にあると思います。

末冨 そうなんです。しかし、えてしてメディアは彼らを面白おかしく取り上げがちで、その背景にある困難に目を向ける人が少ないことを危惧しています。経済問題や居場所、さらに就労やハラスメントの問題など、若者が抱える不安やリスクを直視せず、若者特有の社会課題がなかなか政策に反映されてこなかったのが、これまでの私たちの社会だと思います。

 その点でも20234月にこども基本法が施行された意義は大きい。こども基本法には、「こども」は何歳から何歳までといった年齢規定が置かれていません。それによって子ども政策と若者政策が切れ目なくつながり、若者特有の課題を権利の視点から若者自身の参画によって改善していける法律ができたことは素晴らしいです。あとはこの理念法に、いかに血を通わせていくか、いよいよ若者政策を拡充していく時期に来たと受け止めています。

中野 私は2012年に初当選したのですが、当時は34歳で公明党のなかで最年少の国会議員でしたので、とりわけ青年政策には力を入れてきました。そのなかで若者が抱える問題になかなか光が当たらない社会の現実を常に感じてきました。

末冨 若者は社会的には一人前の大人だと見なされて、より弱い立場だと思われる子どもや高齢者の陰に埋もれがちですね。しかし、当たり前ですが若者は大人への移行期であったり、または大人になりたての存在です。いわば「弱い大人」なのだという認識が大事であると思います。

 

若者の手取りをいかに増やすか

中野 末冨先生がおっしゃった若者の困難を誰がどう支援するのか。そうした問題意識から、公明党青年委員会として2016年から始めたのが若者向けの政策アンケート「ボイス・アクション」でした。公明党がこれまで実現してきた給付型奨学金の拡充や、携帯電話料金の引き下げ、不妊治療への保険適用などは、いずれもこの「ボイス・アクション」で聴いた若者の生の声が発端となっています。

 いまの若者は、経済的な理由から結婚や出産を諦める人が少なくありません。先に切れ目ない子ども政策と若者政策という話がありましたが、公明党が202211月に発表した「子育て応援トータルプラン」では、「若者が希望をもって将来の展望を描ける環境整備」を5つの基本的な方向性のうちの1つに位置付けました。

末冨 私がこれまでに公明党にお願いしてきたことの1つに、大学などの負担軽減があります。授業料だけでなく入学金・受験費用含めてです。日本は高等教育にかかる費用が非常に大きく、そのことが結婚や出産を躊躇させる要因の1つだからです。高等教育の無償化の拡充によって負担は軽減されたものの、中間層の多子世帯などはまだまだ厳しい状況にあります。実は中間層こそ進学する意欲やなりたい職業があっても進学を断念する実態があるといわれています。低所得層はもとより、中間層への支援を拡充していくことが必要であると思います。

中野 おっしゃるとおりです。コロナ禍中では、アルバイトができなくなった高校生が受験すらできないという話もありました。

末冨 他方、私が公明党にお願いしてきた受験料・受験前の学校外学習費用の補助はこども家庭庁の頑張りもあり実現しました。公明党は奨学金の企業による代理返還制度も推進してくださっていますが、とにかく若者の手取りをいかに増やしていくかが重要だと思います。

中野 私も高校・大学時の貸与型奨学金を、国会議員になったあとも返済し続けました。奨学金を借りることの不安は大きいですね。

末冨 昨年5月に政府が策定した「こども未来戦略方針」が、若者の経済面に関して前向きなプランになっているのは、公明党が掲げた「子育て応援トータルプラン」の影響があったからだと思います。

中野 こども未来戦略方針における「加速化プラン」の予算規模は当初3兆円といわれていましたが、高等教育・貧困・児童虐待防止などへの支援策を拡充して3兆円半ばまで積み増すことができました。高等教育の部分もまさにいま諸々の具体的な制度を検討してもらっているところです。

 

若者政策に特化した部会の設置を

末冨 実は現下の日本の大きな課題は、若者に特化した法律や会議体がないことなんです。

中野 子ども・若者育成支援推進法(以下:子若法)も子どもとセットですね。仕組みとしてはこども家庭庁が若者政策を所管することになってはいますが、その上でのご指摘ですね。

末冨 そうです。必要なのは若者を支える法体系や政策体系なんです。こども家庭庁ができた反面、その裏で子若法の会議体の後継がなくなってしまいました。こども家庭庁は、基本政策部会がその役割を担うと言うのですが、同部会には若者政策の専門家が現状いません。あるいは、どの部会でも若者自身が参画しているとはいうものの、若者政策が論じられているかと言えば、そうでもないという実態があります。

 なので、いまこども家庭庁に提案しているのは、若者政策に特化した部会の設置です。そこに若者自身はもちろん、専門家や支援団体、地方自治体などに参画してもらう。そうすることで、日本各地の自治体で若者政策が展開していくよう国が応援するべきです。好事例は、それこそ中野さんの地元である兵庫県尼崎市ですよね。

中野 そうなんです。以前から「Up to You!」というユースカウンシル(若者協議会)事業を行っており、中高生が市の課題を解決するための提言を行うなど、子どもや若者の社会参画を推進しています。この取り組みはこども家庭庁からも注目され、「Up to You!」のメンバーの大学生が一人、同庁の審議会の委員になっています。

末冨 尼崎市は若者の居場所としてのユースセンターを設置していて、私もかかわったのですが、昨年の11月には若者期の心身の健康や性の悩みを相談できるユースクリニックを開設しました。全国各地に児童館があるように、各地にユースセンターが設置されるのが理想です。そのためにはやはり国の仕掛けが必要です。

 室橋祐貴さんが代表を務める日本若者協議会は、若者が社会課題の解決に参画する仕組みの実現を目指していますが、活動のもとはヨーロッパのユースカウンシルです。尼崎だからできるのではなく、尼崎でやってきたことを全国的に展開していくことが重要です。

 そのときに気をつけなければならないのは、大人の側が若者をよく理解することです。若者は挑戦する意欲が強く、努力ができる一方で、若さゆえのリスクも抱えている。家族の問題や、経済的な問題、異性間の問題などです。そこをしっかりと支えながら、彼ら彼女らの力を引き出していくことが大切です。

 

若者の参画を促すためには

中野 おっしゃるように、若者の社会参画を促すためには、さまざまな仕掛けや工夫が必要だと感じています。例えば会議体にいきなり呼んで意見を求めても、若者の側も何を言ってよいのか分からなかったりします。

 その意味では、世代の近いユースワーカー(若者の成長を支援する取り組みを専門的に行う人)のような役割の人々に、上手に若者の意見を引き出してもらう必要があるのかもしれません。若者に上手に街づくりにかかわってもらえれば、地域は必ず活性化します。

末冨 具体的なことを言えば、地方議会では自治体に対しての提案能力を持つ若者会議や若者協議会のような組織を設置するという方法があります。自治体・政党でもリバースメンター制度(若手が先輩や上司に助言や指導を行う仕組み)を取り入れているところもありますよね。それらの施策を講じる際には、同時に若者を守る仕組みが必要です。社会のことを十分に知らないがゆえに、不適切な発言をしてしまうケースも十分に考えられますので、非公開にするなどして若者を守る必要があるのです。

 尼崎以外では山形県遊佐町(ゆざまち)の少年議会が有名です。尼崎と同様のプロジェクト型の事業で、子どもたちが実現したいことに予算が割り振られます。公明党にはぜひとも、こうした取り組みを推進していただきたいです。公明党の特徴は、どこの議会にあっても超党派の合意を目指すところにあります。自党だけ利するという発想がない。そうした態度が、若者を守り、参画を通じて力を引き出していくことにつながると思うんです。

 

被選挙権年齢の引き下げも論点

中野 地方議会は生活に身近な課題を取り扱うので、しばしば民主主義の学校といわれたりしますよね。その点、若者の参画は地方から進んでいくのが理想的かもしれません。尼崎では、スケートボードで遊べる場所がないことに困っていた若者たちが市にその旨を提言したんです。その声を受けて、市は簡易のスケボー場を設置するなど、検討を進めています。

末冨 若者の参画というテーマだと、被選挙権年齢の引き下げも大きな論点になります。

中野 2016年に選挙権年齢を18歳に引き下げた際、公明党の青年委員会としては被選挙権年齢の引き下げも主張しました。やはり、自分たちと同じ世代の人が立候補すれば、関心が高まると思います。もちろん、実現するためには乗り越えなければならない議論がいくつもありますが。

末冨 私も被選挙権年齢は引き下げたほうがよいと思っています。同世代に関心を持つというのは、私の娘の言動を見ていても実感します。自分たちの代表を選ぶというのは間接民主主義の基本ですからね。

 日常的に大学生と接していて驚いたのは、投票をしない若者の理由でした。政治のことがよく分からないのに投票するのは失礼だと考えている若者もいるんです。全員がそうではないものの、真面目であるがゆえに投票に行かないというのには驚きました。若者の政治リテラシーの向上のためには主権者教育が重要ですが、それと同じくらい被選挙権年齢の引き下げは効果があると思います。

中野 若者の政治への関心を高めるための取り組みとして、公明党は冒頭に述べた「ボイス・アクション」のほかに、若者の声を直接聴くための「ユーストークミーティング」を2016年から行ってきました。あるいは、青年委員会としては、若者担当大臣の設置や、市議会への若者の参画なども提言してきました。

 まさにいま議論していることは、子育て世帯ではない若者世帯や単身世帯の支援です。「若者・おひとりさま応援宣言」(仮称)という取り組みとして進めています。まずはSNSなども活用してしっかりと若者世帯や単身世帯の声を聴き、ニーズを的確に把握していきたいと思います。

末冨 若者はアクティブな存在だと思われがちですが、支援に関しては行政の側が積極的に手を差し伸べていく姿勢が大切です。

 

公明党はさらに攻めるべき

中野 若い世代の方々は、少子高齢化や経済・財政の状況などを、本当に真面目にご覧になっていると思います。その分、将来不安や世代間対立を煽る言説に惑わされてしまう人も少なくないのかもしれません。そこは、私たち政治家が持続可能かつ安心していただける政策をきちんと打ち出していく必要があると思っています。また、人口減少社会でもまだまだ成長できるという希望を若者に抱いていただけるよう、政治の側が具体的なビジョンをしっかりと描いていかなければなりません。

末冨 高齢化が進んだ国ではイノベーション(技術革新)が起きにくいという研究結果があるそうです。つまり、日本は世界一停滞しやすい国になってしまっている。若者の力をいかに引き出すかは、超高齢社会である我が国にとっての至上命題です。出る杭を応援する社会にならなければなりません。

 公明党はこれまで小さな声を聴き、政策として実現してきてくださいました。今後はより一層、政権与党として若者をエンパワーメント(力を与える)していただきたいと思います。戦略性を持ってその取り組みができるのは、世代やジェンダーの面で多様であり、安定感もあり、かつ粘り強い公明党だけだと思います。他党は「出る杭を応援する」と言いながらも、旧態依然とした〝おじさん政治〟が出る杭を打ってしまっています。日本の若者政策を前に進めるためには、公明党にはさらに攻めていただく必要があります。若者が伸びれば、大人も必ず伸びますから、我が国もよい方向に変わっていくはずです。

中野 ありがとうございます。若者のポテンシャルを引き出す政治を、これからも全力で取り組んでまいります。(119日収録)

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教育学者・日本大学教授
末冨 芳(すえとみ・かおり)
1974年山口県生まれ。京都大学教育学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。博士(学術・神戸大学大学院)。専門は教育行政学、教育財政学。文部科学省中央教育審議会委員等を歴任。著書に『教育費の政治経済学』など。

公明党衆議院議員
中野 洋昌(なかの・ひろまさ)
1978年京都府生まれ。東京大学教養学部卒業。米コロンビア大学国際公共政策大学院修士号取得。国土交通省・課長補佐を経て、2012年、兵庫8(尼崎市)から衆院議員に初当選。青年委員会青年局長代理、経済産業部会長。