【てい談】青年世代が考える、この国の問題点と大人たちの責任
2024/03/05「いま、若者が政治に期待すること」は一体何か。日本若者協議会代表理事の室橋祐貴氏、「NO YOUTH NO JAPAN」代表理事の能條桃子氏、公明党衆議院議員の河西宏一氏の3名による、若者の期待に応える政治について談論した特別てい談を掲載します。(月刊『潮』2024年4月号より転載。撮影=富本真之)
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旧態依然とした政党と政治報道
室橋 今回のてい談は「いま、若者が政治に期待すること」がテーマですが、はじめに私が抱いている問題意識を共有したいと思います。それは、日本の政党や政治報道があまりにも旧態依然としたままではないかというものです。
政党に関しては未だに中選挙区制の時代の構造を引きずってしまっているように思います。それは個別の議員が特定の業界に利益誘導をしてその業界団体などの票を固めていくという〝議員主導〟の政党です。自民党も民主党系政党も議員の個人商店が連なっているような政党になっていて、そうすると全体ではなく一部分にとっての最適の政治しかできないんです。
日本で炭素税などのカーボンプライシング(企業などが排出するCO2に価格をつけ、排出者の行動を変化させるために導入する政策手法)が進まないのも原因は同じです。炭素の排出量に価格がつけられるので古い産業の族議員は反対しますが、そこで徴収されたお金は新しい産業に落とされるので全体最適としてはよいはずです。それなのに部分最適を優先して反対する。日本の多くの問題は、この部分最適に収斂(しゅうれん)されます。それは、政党がせいぜい5年くらい先の特定の集団の利益を守るという古い構造のままだからです。
政治報道も中選挙区制のときのままです。あくまで政局報道が中心で政策的な議論が抜け落ちている。自民党の派閥に政治部の番記者が張り付いているのが典型例です。マスメディアにおいて、かろうじて政策的な議論を扱うのは政治部ではなく社会部であり、社会部は政治以外にも扱うべきテーマがあるので、どうしても政策的な議論が深まらず、国民にほとんど政策の話が伝わらないんです。
河西 今のお話は、一人一人の議員が〝何のため〟に政治をしているのかという点で、今般の自民党派閥による政治資金問題に通じるように思います。公の立場にありながら、自分のための政治になっていたのではないか。理念よりも利害が先行し、現状維持に甘んじる構造的悪循環に陥っていたのではないか。今国会でもその点をもう一度厳しく問い直すべきです。〝何のための政治か〟を掘り下げることが、若者の政治参画の土台になるはずです。
利害の自民党と理念の公明党
能條 政党の話を聞いて思い出したのは、デンマークに留学したときのことです。私がデンマークの政治が面白いと思ったのは、同国の各党が議員政党ではなくて組織政党だったからなんです。日本の組織政党といえば公明党と共産党ですよね。組織政党は既存のグループから代表を選んでいるので、いわゆる地盤・看板・カバンに左右されません。ゆえに理念をベースに政策を進めることができるんです。それが国民にとっては分かりやすいので、私のような外国人もデンマークの政治は面白いって思えたんです。
それに比べて、自民党の場合は理念ではなく利害がベースになっています。自公連立は、利害の自民と理念の公明という組み合わせによって補完し合っている面があると思います。河西さんから自民党派閥の政治資金問題の話がありましたが、連立を組んでいるという点で公明党も先頭に立って改革を進めなければならないはずです。
メディアについては室橋さんの言われるとおりで、私は政治に関する活動をしているはずなのに、取材してくれるのはいつも政治部ではなくて社会部なんです。政策的な議論を巻き起こすためには、審議会レベルからきちんと報道しなければ国民からすると誰がどこで何を決めているのかも分からないはずです。現時点では、政策的な議論を終えて決まりきった施策について政治部が政局的に報道するか、社会問題に発展した大きな話題を社会部が報道するかといった感じです。マスメディアの大きな問題だと思います。
室橋 議員主導の政党は候補者を公募で集めますが、まずはあれをやめたほうがいいと思うんです。スウェーデンでは13歳から35歳までのユース党があって、そこで他薦された人たちが将来的に議員になっていくんです。公明党も他薦ですよね。やはり、なりたい人が議員になるのではなくて、周囲からなってもらいたいと思われる人が議員になるべきです。他薦であれば、自分の利害よりも公益のことをきちんと考えられる人が議員になる。あるいは、ユース党出身者は、議員になった時点で政策のプロのようなものですが、日本の公募で候補者を立てる政党の場合はほとんどが素人です。
将来に対する不安と脱・性別役割分業
河西 先ほど申し上げたように、利害に固執した政治というのは、すなわち現状維持の政治です。個人的には、この現状維持の政治が、社会に急速な変化を要請したコロナ禍によって決定的に通用しなくなった気がしています。だからこそ、理念の政治がしっかりと旗を掲げなければなりません。
目先の利益を優先させた現状維持から希望は生まれないからです。とくに若い世代の方から「これから日本が歩むべき針路はどうあるべきか」明確なビジョンを政治に求めるニーズを強く感じます。公明党は今、石井啓一幹事長を中心に「2040ビジョン」の策定を進めています。2040年には、高齢者人口がピークを迎え、社会保障制度の維持など、この国のあり方が大きく問われています。
能條 同じ若者世代でも政治に対するニーズは多様化しています。なので、すべての若者から共感を得られる政策というのは難しいのですが、抽象的なことで言えば2つの事柄についてはほとんどの若者に共通する感覚があると思っています。1つは将来に対する不安であり、もう1つは「男は仕事、女は家庭」に象徴されるような性別役割分業からの脱却です。
将来不安に関しては、公明党の視野にも入っているベーシック・サービスなんかは共感を得られやすいと思います。性別役割分業に関しては第三号被保険者や選択的夫婦別姓の問題を前に進めなければならないと思います。性別役割分業の問題を前に進めようとすると、これまで専業主婦だった人は生き方を否定された気がするかもしれませんが、あくまで若者たちが安心して生きていくための制度改革の話ですので、否定しているわけではまったくありません。
閉塞的で抑圧的な社会への抵抗
河西 これまで都内の20代、30代の方々との少人数の懇談を続けてきたのですが、確かに将来不安と性別役割分業への関心はとても高いと実感しています。その上で感じるのは、若者が自ら社会を変えていこうと思える環境づくりが急務だということです。自らテーマを設定して、時には政策提言も行っていく。若者が主体者となって政治を動かす社会構造をつくらないと、課題の深刻化のスピードに対して変革が追いつきません。
公明党は2016年から「ユース・トーク・ミーティング」を全国各地で開催してきましたが、今後は、政治家が若者の意見を聞くだけではなく、若者が自ら政策立案のプロセスに関与できる仕組みを構築したいと考えています。奨学金返済の問題にしろ、親の介護の問題にしろ、解決しなければならない若者の課題は山積しています。
室橋 不登校や子どもの自殺が増えていることと若者が性別役割分業から脱却しようとしていることは同根だと思うんです。つまり、閉塞的で抑圧的な社会への抵抗です。個人的には人権保障の観点から、主語の主体者を変えなければならないと感じています。「国」や「企業」といった大きなまとまりを主語にしてそこに国民をはめ込んでいくのではなく、「個」を主語にして「国」や「企業」などが個々人をサポートしていく。欧州はそうです。
上から下という現状のパターナリスティック(家父長制的)な社会構造を転換しないと、本当にこの国は大変なことになってしまいます。政治家は個々人の人生には介入せずに、ベースだけを整えてくれればいいんです。
河西 おっしゃるように欧州と日本とでは、人権保障の考え方がまったく違いますよね。
室橋 街の風景もそうで、欧州では高層ビルやコンクリートの構造物が少ないので、あたりまえのように空が見られるんです。そうしたところにも欧州の人間中心の考え方が表れているような気がしています。
お金は出すけど口は出さない
能條 若者が自ら政治を動かすためには、大きく2つのことが大切だと思っています。1つは被選挙権年齢の引き下げで、もう1つは若者団体の財政支援です。
若者からすると、生きてきた時代が違う政治家から「あなたの意見を聞きましょう」と投げかけられても、なかなか本音を言えないものです。また、意思決定の場に若者がいないことも大きな問題です。理想は同じ時代を生き、さまざまな文脈を共有している人が、若者の代表者として各政党にいることです。ただでさえ、国会議員も地方議員も高齢化が進んでいるので、まずは被選挙権年齢を選挙権年齢と同じ18歳に引き下げてもらいたいと思います。
他方、若者団体に関しては、その持続可能性が課題です。若者は団体がないとなかなか声が上げられません。ところが、学生のうちはボランティアで活動できていても、就職したり、家庭を持ったりすると活動ができなくなり、団体そのものを継続することが難しくなるという現状があります。
ちなみに、ノルウェーは人口が550万人に満たないのですが、若者政策に40億円の予算が割かれているんです。しかもノルウェーを訪問して驚いたのは、政府から財政支援を受けている若者の環境団体が、国を訴えているというんです。それでも政府は助成金を止めようとはしない。日本では考えられません。
河西 欧州では、ユースカウンシル(若者協議会)に対する国のかかわり方が非常に抑制的で間接的だと聞いています。要は、お金は出すけど口は出さない。
室橋 意思決定の場に若者を送り込むためには、まずは権力側の人々が権力の委譲をしなければなりません。被選挙権年齢の引き下げも、つまるところはそういう話なんです。若者や子どもについては、これまで権利保障という視点がすっぽり抜け落ちていて、弱者とか未熟者とかの扱いしか受けてこなかった。今後は、この権利保障の視点がとても大事になってくると思います。
能條 若者団体に関しては、東京では少しずつ増えてきているものの、関西圏ではまだまだ数が少ない現状があります。若者にはお金もなければ人脈もない。勉強や仕事、家事・育児など、他のこともやりながら活動をしなければならない。だからこそ公的な助成が必要だというのが欧州の考え方です。日本政府もその考え方でしっかりと若者団体を支援してもらいたいと思います。
河西 おっしゃるように、権利保障の視点はとても大切です。日本の国民主権の考え方は、戦後に天皇から国民に主権が移譲されたものの、その後のアップデートに乏しいと思います。さらに、学生運動を受けて当時の文部省が出した「1969年通達」で高校生の政治活動を「教育上望ましくない」とされてしまった。権利保障の面では更新どころか、後戻りしてしまったわけです。若者と子どもがきちんと権利を行使していく社会を着実に実現しなければなりません。
そのためには、若者団体の財政支援が大切ですし、被選挙権年齢の引き下げも大切です。そして、何より冒頭にもあった公益のために働く政治家が大切です。こうした話をすると、保守的な政治家からは秩序が壊されるといった声が聞こえてきます。もちろん秩序は大切ですが、低成長と多様化の時代にあっては、秩序を保つ〝管理型〟の政治から、国民をエンパワメント(権限委譲)する〝信頼型〟の政治にシフトしたほうが、当然イノベーションの力も増していく。
OECD(経済協力開発機構)でもとくに子育て教育支援が充実しているスウェーデンでは、若者の約7割が何らかの若者団体に所属し、投票率も同程度に高い。その背景には、若者団体への手厚い公費助成制度があります。一方、日本の現在地は、今年度の補正予算で、国内外の若者団体の調査研究費がやっと盛り込まれたものの、その額は1000万円という状況です。これでは若者は振り向きません。何としても、こども家庭庁には壁を打ち破ってもらい、欧州のような若者団体への公費助成の制度化を実現したい。
皆で若者を支えて未来を開いていく
能條 若者や若者団体といったときに、なかなか具体的な顔が思い浮かばない人が多いと思います。その理由は、言うまでもなく若者でいられる時期が限られているために、若者や若者団体の入れ替わりが激しいからです。なので、まずは支援すべき若者像をしっかりと想像していくことが大切だと思います。
繰り返しになりますが、特に重要なのは被選挙権年齢の引き下げです。民主主義は代表制が確保されないと信頼が高まりません。若者が政治参加しやすい環境を整備しておけば、私も想像できないようなことを次世代の若者たちが実現してくれるはずです。
室橋 2023年4月に施行された「こども基本法」は、さまざまな若者団体や市民団体が動いたことのひとつの成果です。やっと日本にもこどもと若者の権利を大事にしようという流れができつつあるので、あとはそのスピードを速めて、裾野をさらに広げていくことが大切だと思います。
河西 若者に資源を投じることで、世代間の対立を生むのではなく、むしろ青年期の人々を先頭に、経験豊かな高齢者の方々や、行動力のある壮年期の方々も活躍の幅をさらに広げながら、互いに支え合う。そんな共生社会を目指したいと考えています。そこから、持続可能で、激動の時代を乗り越えるしなやかな日本社会の姿を創造していきたいですね。
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日本若者協議会代表理事
室橋祐貴(むろはし・ゆうき)
1988年神奈川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。在学中からIT起業家として活動を開始。2015年11月、若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」を立ち上げる。
「NO YOUTH NO JAPAN」代表理事
能條桃子(のうじょう・ももこ)
1998年神奈川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。同大学院経済学研究科修士課程修了。デンマーク留学をきっかけに、若者の政治参加を促進する団体「NO YOUTH NO JAPAN」を2019年に設立。
公明党衆議院議員
河西宏一(かさい・こういち)
1979年新潟県生まれ。東大工学部応用物理学科を卒業後、パナソニックに入社。公明党職員を経て、2021年10月衆議院議員総選挙(比例東京ブロック)で初当選。党青年委員会副委員長。