公明党が「本気の政治改革」に取り組む理由
2024/06/05いまだ出口の見えない、政治資金問題の再発防止に向けた政治資金規正法の改正問題。
特別委員会の理事を務める中川康洋衆議院議員による寄稿です。
(月刊『潮』2024年7月号より転載。記載内容は5/14時点のものです。サムネイル写真は中川議員Xより)
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「罰則の強化」と「透明性の確保」
今年で結党60年の節目を迎える公明党にとって、〝清潔な政治〟の実現は原点であり、一丁目一番地の政策です。ゆえに自民党派閥の政治資金問題を受けて、本年1月18日に他のどの政党にも先駆けて「公明党政治改革ビジョン」を打ち出しました。具体的な法案要綱も、他党に先駆けて4月19日に発表しました。
どんなに良い政策であっても、国民の皆様の信頼がなければ政策を前に進めることはできません。故に公明党は何よりも国民の政治への信頼を取り戻すために、どの政党よりも真剣に改革に取り組んでいます。
一部にこの問題を政局の文脈で語る向きもありますが、大事なことは二度とこのような〝政治とカネ〟の問題を起こさせないために、実効性のある改革を推し進めることです。1月に打ち出したビジョンには大きな柱が2つあります。「罰則の強化」と「透明性の確保」です。
「罰則の強化」では、いわゆる「連座制」の強化を盛り込みました。これは、会計責任者が収支報告書の不記載・虚偽記載で処罰された場合に、政治家(政治団体代表者)の監督責任を問うものです。収支報告書が法律に基づいて作成されていることを示す「確認書」の提出を代表者に義務付け、確認がしっかりとできていない場合には刑罰を科し、公民権停止となります。
もう一方の「透明性の確保」では、①政治資金パーティー券の購入者の公開基準を「5万円超」に引き下げ、支払いを預貯金口座への振り込みのみに限定する、②政策活動費は受け取った議員が明細書を作成し公開する、③政治団体間の資金移動は一定以上の寄付で支出公開範囲を拡大する、④第三者機関の活用を検討する――などを盛り込みました。
公明党は今回だけでなく、2009年にも秘書ら会計責任者に対する政治家の監督責任を強化するための政治資金規正法改正案を国会に提出しています。その年は民主党(当時)の鳩山由紀夫元首相の資金管理団体による偽装献金事件、小沢一郎元代表の資金管理団体が土地取得を巡り政治資金収支報告書に虚偽の記載をしたとされるいわゆる「陸山会事件」など〝政治とカネ〟の問題が相次いで発覚していたのです。
当時野党であった私たち公明党は、国会審議で実現を再三迫ったものの、民主党政権の鳩山、菅、野田歴代三首相は、口では成案に向けて前向きな答弁を繰り返すものの、まったくリーダーシップを発揮せずに審議未了で廃案となってしまったのです。
そのときの苦い経験から、今度こそ「秘書がやった。自分は知らない」といった政治家の言い逃れを許さない仕組みをつくらなければならない。政治家が言い逃れできてしまうような既存の法律の不完全性を改めるためにも、「罰則の強化」と「透明性の確保」を打ち出したのです。
しかし、公明党が4月19日に要綱案を発表したあとも、自民党はなかなか独自案を出してきませんでした。問題の当事者である自民党が案を出さないのであれば議論のしようがありません。
我が党としては、実務者協議においてその点を強く強調し、さらに4月22日の衆院予算委員会で、赤羽一嘉衆議院議員から岸田文雄首相に「真剣に法改正を実現する覚悟があるのなら、すぐにでも自民党案を提示すべきだ」と迫りました。そうしてようやく、4月23日に自民党案が出されたのです。
しかし、自民党案の主眼はあくまで「再発の防止」であり、そのために「罰則の強化」こそ掲げているものの「透明性の確保」は時間がかかる問題であるとして後回しにしようとする姿勢が見受けられました。
そうしたなかで、5月6日に首相から週内に与党案をまとめるようにとの指示がありました。それによって自民党も重い腰を動かし、我が党としてもこの首相の指示を重く受け止め、与党案の取りまとめに向けて議論が進んでいきました。
公明が主導した与党案の取りまとめ
そして5月9日、自民公明両党として、政治資金規正法改正案の概要を取りまとめました。取りまとめにあたって、私たちは公明党の案をどこまで具体化できるかということに特にこだわりました。結果、与党案には公明党の案がほぼそのまま盛り込まれ、自民党案では検討項目、協議事項に留めようとしていたものの多くを与党案に記載し、今後の議論の俎上に載せることができました。
「罰則の強化」については、自公のあいだでいわゆる「連座制」を強化することで一致しました。
「確認書」提出の義務化は自民党案にも入っていましたが、最初に提案したのは公明党です。
「連座制」については、一部の学識者などから会計責任者が代表者を貶めるために意図的に不記載・虚偽記載を行った場合などの議員の不逮捕特権との兼ね合いなどが指摘されています。簡潔に言うと、秘書単独の不正、あるいは秘書が政治家を陥れるための冤罪などの場合でも政治家が連座制によって逮捕されてしまうのではないかとの懸念です。
確かに公職選挙法における連座制はそうした連帯責任を規定していますが、今回の政治資金規正法における連座制は仕組みが異なるので、秘書への処罰がそのまま政治家への処罰とイコールというわけではありません。説明や確認書の署名など必要な手続きを経て政治家の責任が判断されます。
「連座制」の第一義は、議員を逮捕することではなく、未然に不正を抑止することです。政治家は選挙によって国民から選ばれた立場であることも考慮し、不正への抑止力を高めていきたいと思います。
「罰則の強化」については自民党と一致できたものの、「透明性の確保」についてはなかなか一致点が見出せませんでした。公明党が掲げていた①パーティー券、②政策活動費、③政治団体間の資金移動に関する改正案について、自民党はいずれも具体的な案を出さず、ただ「検討項目」と記していたのです。④の第三者機関に関しては、記載すらありませんでした。
実務者協議では何度も「これでは改革と言えない」「自民党として信頼を回復できなくなってしまう」と促したものの、なかなか意見を変える気配がありませんでした。
しかし、譲れない部分は譲れません。とりわけなかなか一致しない「透明性の確保」については、公明党案の実現を再三にわたって強く迫りました。その結果、パーティー券については「購入者の公開基準を引き下げ(金額は継続協議)」、政策活動費は「議員が使途を報告し公開(詳細は継続協議)」、政治団体間の資金移動は「年間1000万円以上の寄付で支出公開範囲を拡大」、第三者機関は「活用検討」という形で、与党案に盛り込むことができました。
ギリギリまで「合意文」として案を作成するつもりでしたが、パーティー券の金額や、政策活動費の詳細については最後まで妥結しませんでしたので、あくまで「取りまとめ」としての与党案という形になりました。
パーティー券の額について、公明党は「5万円超」を、自民党は「10万円超」を、それぞれ主張しています。公明党が「5万円超」にこだわるのは、今般の政治資金問題の根本的な原因が「20万円超」という高額基準にあったからだと考えているからです。一方の自民党としては、活動の原資にかかわる金額であるために簡単には引き下がれないようです。
政党から議員個人に支給される政策活動費については、自民党が最初に出してきた案は、政党が議員に支出する場合に、その項目を公開するというものでした。しかし、それでは「目的の公開」にしかならず「使途の公開」にはなりません。ここは私どもも強く迫り、与党案は「議員が使途を報告し公開」としました。
政治の信頼を回復するために
政策活動費に関して看過できないのは、5月12日に報道されたフジテレビ「日曜報道 THE PRIME」の誤報です。番組では、2022年に公明党から政策活動費として684万2854円が支出されたと報道されましたが、この額は党政務調査会の活動費であり、すべて支出先とその目的を公開しています。公明党は改正が議論されている政党から議員個人への報告義務のない政策活動費の支出を一切行っていません。
第三者機関については、先述のとおり自民党案には記述すらありませんでしたが、与党案では公明党が主張したとおり「活用検討」として盛り込みました。自民党は、与党案に入れずに協議事項にしておこうとの意見でしたが、公明党はこの段階で与党案に入れることに強くこだわりました。
検討すべき内容としては、第三者機関の設置先や権限、規模など多岐にわたります。内閣府に設置すべきか、立法府か、それとも独立機関にするか。権限は勧告までなのか、調査や処分も行うのか。どれだけの予算と人員を割くのか、といったことを検討しなければなりません。
今般の改正は内閣が提出する閣法とは違って議員立法であり、政治資金規正法はすべての政党や議員にかかわる法律です。したがって、与野党協議を経てすべての政党が提出者となるのが理想です。
与党案を取りまとめた段階で、公明党執行部として与野党協議の重要性に言及したのは、政局的な意味合いではありません。あくまで、今般の法改正が議員立法であり、すべての政党や議員にかかわる法律だからです。
これまでは、大きな改革に消極的だった自民党に強く迫る形で与党案を取りまとめてきました。今後は、野党を含めての協議が始まります。消極的な自民党が衆議院で議席の過半数を持っている状況下において、どれだけ政治改革を前に進めることができるか。国民の信頼を取り戻すために、どの政党よりも真剣に取り組むのが公明党の役割だと自覚しています。
繰り返しになりますが、今般の政治資金問題は自民党の派閥による問題です。公明党は政策活動費の支出すらしていません。先日、あるマスコミの関係者からこんなふうに尋ねられました。「中川さん、公明党が起こした問題でもないのに、どうしてこんなに真剣に政治改革に取り組むんですか」と。
私たちは今回の問題で著しく失われた国民の政治への信頼を取り戻したい、ただその一点です。そのために私たちは自公協議に参画して、譲れないところは譲れないと強く主張してきました。今後も国民の皆様に胸を張って政策を提案していくためにも、この問題は避けて通れないのです。
連立与党の立場から自民党に言うべきことはしっかりと言いつつ、野党との議論にも対峙していくというのは確かに大変なことです。しかし、私たちがここで匙(さじ)を投げてしまうことで、法案が成立しないことになってしまえば、それこそ国民の皆様に顔向けできません。何としても今国会で各党の合意形成によって法案を成立させるべく、公明党が議論をリードしてまいります。
今後も〝清潔な政治〟の実現を党是とする公明党が、政治改革のイニシアティブ(主導権)を握っていく決意です。
(この記事は五月十四日に書かれたものです)
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公明党衆議院議員
中川康洋(なかがわ・やすひろ)
1968年三重県生まれ。創価大学法学部卒業。(財)ひの社会教育センター勤務、国会議員秘書を経て四日市市議会議員、三重県議会議員を歴任。2014年、衆議院議員に初当選(比例東海ブロック)。現在2期目。党中央幹事、国対筆頭副委員長、総務部会長。