今こそ求められる平和への連帯(世界平和フォーラム in バルセロナ)
2024/06/25ルクセンブルクに拠点を置く「シェンゲン平和財団」が毎年開催している「世界平和フォーラム」。
それは、世界各地で平和構築に関わる研究者、ジャーナリスト、宗教指導者、政治家、市民らが、経験やアイデアを共有する場だ。第15回は、2023年11月、3日間にわたりスペインのカタルーニャ州バルセロナ市で開かれ、バルセロナ大学を中心とする5つの会場で、60以上のさまざまなイベントが行われた。
開会式では、カタルーニャ民謡「鳥の歌」(カタルーニャの偉大なチェロ演奏者パブロ・カザルスが1971年の国連総会で平和の祈りを込めて奏でた曲)とジョン・レノンの「イマジン」が演奏され、参加者はこの会議を通して、世界が心をひとつにして平和の道を歩む決意を示した。
(取材・文=工藤律子 撮影=篠田有史 月刊『パンプキン』2024年7月号より抜粋)
▲オープニングセレモニーは、バルセロナ大学のパラニンフ・ホールで開催。
ホール内は、学問や歴史にまつわる絵画に囲まれている
▲「ユース・バルセロナ世界平和会議」の代表
アレクサンドラ・トーレスさんは、
平和構築における子どもや若者の声の重要性を訴えた
バルセロナ大学で難民問題に向き合う
世界では、暴力や貧困、気候変動などによる命の危機を前に、故郷を離れざるを得ない人が後を絶たない。そんな現実に私たちはどう向き合うべきか。
「アフリカの貧困地域や難民キャンプでの暮らしを支えるには、ひとつの方法を皆に当てはめても駄目。各人や各部族の文化や習慣、問題を踏まえて寄り添わなければ」。
南スーダンなどで人道支援活動をしてきたJ・アロンソさんは、そう訴える。約60年続いた内戦に終止符を打ったばかりの南米コロンビアで平和構築に携わるM・ブエノさんも、「コロンビアも、混血と先住民と黒人、あるいは都市と農村生活者など、歴史や文化、社会環境の異なる市民が形づくる国。各生活圏に適した平和構築を進めなければ、対立は解消できない」と話す。
一方、地中海で移民・難民の救助活動を行うA・シャエールさんは、「2018年まではイタリア海上警備隊が私たちと連携していましたが、今はむしろ救助を妨害している。欧州は、世界人権宣言を忘れている」と、憤る。
支援側が自分の立場ばかり優先することが、人権侵害を助長しているという声に、コロンビア人研究者のM・セルナさんは「客観性をもちうる大学こそが対話を提起すべき」と語った。
▲セッション「平和、大学、開発、そして難民」
バルセロナ大学連帯財団のリカルド・コネーサさん(左端)
の司会で「連帯財団」のJ・アロンソさん、
NGO「オープン・アームズ」のA・シャエールさん、
南米コロンビアの和平交渉に関わったM・ブエノさんと
M・セルナさんが、それぞれの経験を語った
▲バルセロナ大学連帯財団の代表シャビエル・ロペスさんが、
安全のために母国を離れなければならない若者を
サポートする事業について説明
▲バルセロナ大学の歴史は15世紀にさかのぼる
「バルセロナ王立芸術サークル」で平和を考える
1881年よりバルセロナを中心とするカタルーニャ州の芸術家とその作品が集い、国内外との交流を深めてきた場で、平和を考えるユニークなイベントが開かれた。
注目されたのは、世界的に知られるカタルーニャの建築家アントニ・ガウディをモチーフにしたコンサート、「ガウディ、光と希望と平和の泉」。ピアニストの鈴木羊子さんがガウディをイメージして作曲した「光の泉」などが演奏され、司会を務める建築家のホセ・マヌエル・アルムサーラさんが、サグラダ・ファミリアを例に、ガウディが作品にちりばめた「人間の内なる光への敬愛」と平和のメッセージを語った。
同じ建物内では、世界各地で人びとが協力して描いた「平和のための象」の作品にも出会えた。
▲セッション「ガウディ、光と希望と平和の泉」
建築家ホセ・マヌエル・アルムサーラさんの司会で、
ガウディをイメージしたミニコンサートが開かれた
▲セッション「平和のための象」
プロジェクトで描かれた象
▲プロジェクトのために象を描く女性。
描きたい人はだれでも参加できる
(芸術サークル内のアトリエにて)
▲バルセロナ王立芸術サークル
旧市街に建つ16世紀の屋敷を改装した建物にある
つながりが生み出す「平和の橋」
「カタルーニャ建築家協会(COAC)」を会場に開かれたセッション「 PauWa(パウワ):メタバースの世界で広島とバルセロナにかけられた平和の橋」では、インターネット上の仮想空間メタバースを使って広島とバルセロナをつなぎ、アートにふれるプロジェクトPauWa(カタルーニャ語の平和=Pauと日本語の和=Waを組み合わせた名称。パンプキン2023年7月号にも登場)が紹介された。プロジェクトで作られた「バルセロナ王立芸術サークル」と「イノベーション・ハブ・ひろしま Camps」の仮想空間には、アーティストや高校生などさまざまな人のアート作品が並び、私たちはそこへ自分のアバターを送り込んで展示を楽しんだり、出会う人と交流したりできる。
会場では、このプロジェクトをけん引し作品も提供するバルセロナ在住のイラストレーター、來嶋千歩(きじま・ちほ)さんと、広島生まれでVR(バーチャルリアリティ)を製作したイノベーション・ハブの星山雄史(ほしやま・ゆうし)さんが、オンライン参加したジャーナリストの弓狩匡純(ゆがり・まさずみ)さん(美術を学ぶ広島の高校生が被ばく者の体験を絵に描くプロジェクトを取材)らと共に、PauWaに込めた平和への思いを話した。
セッション後、自宅で話を聞いた來嶋さんは、プロジェクトのために描いた作品で、イノベーション・ハブが起こす技術革新と時代も国境も超える平和への愛を、水や時の流れのような色の動きで表現したと語った。また、こんな思いも口にする。
「出会いとつながりがこのプロジェクトを生んだのです」
▲バルセロナ市内の自宅のダイニングで、
作品作りを語る來嶋千歩さん
「アナログが好き」という目の前のテーブルには、
PauWaプロジェクトの試作品が置かれていた
▲作品には、水彩に近いカラーインクや
色鉛筆、コーヒーなども使われる
▲自宅に飾られた作品
「カタルーニャの人はゴールドが好き。
私もバルセロナに来てから好きになりました」
▲セッション「PauWa:メタバースの世界で
広島とバルセロナにかけられた平和の橋」
PauWaでVRを製作した星山雄史さん(右)が話をした
▲「次世代と描く原爆の絵」プロジェクトの作品は語りかける
「だれでも平和のメッセンジャーになれる」と、弓狩匡純さん(中央上)
▲会場となったカタルーニャ建築家協会(COAC)
外壁にはピカソが平和への願いを込めた絵が***********************