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生活者の利益を重視する公明党の役割はとても大きい

紆余曲折を経ながらも改正にこぎつけた政治資金規正法。
社会学者の西田亮介氏と公明党石井幹事長との対談では、今回公明党が政治家の言い逃れを絶対に許さないという強い覚悟で臨んでいたことが語られます。
(月刊『潮』2024年8月号より転載。)

 

現実的かつ理に適ったプラン

西田 これまで幾度も繰り返されてきた〝政治とカネ〟の問題は、もはや日本政治の宿痾(しゅくあ・長い間治らない病気)と言ってよいでしょう。長く続く国民の政治不信もそのことと無関係ではありません。

 公明党は今般の政治資金問題のみならず、過去の政治改革の折にも、重要な役割を果たしてこられました。政治資金規正法の改正などの政治改革は、問題の当事者が立法府の政治家である以上、一足飛びに進まないのが実際のところです。そのなかで、本年(2024年)1月18日に公明党が他党に先駆けて発表され、最終的に規正法改正の骨子となった「政治改革ビジョン」は、実に現実的かつ理に適ったものだったと認識しています。

石井 ありがとうございます。公明党は今年の11月に結党60年の節目を迎えます。党名に表れているように、清潔な政治の実現は結党当初からの党是です。今回は自民党の派閥から起こった問題で、国民の皆様に大きな政治不信を招いてしまいました。私たちはそのことを重く受け止め、与党から政治改革の声を上げていかねばならない。それが私たち公明党の一貫した思いでした。

西田 公明党が当初から主張していた会計責任者だけでなく議員も責任を負う、いわゆる連座制の導入は、罰則強化の面もさることながら、政治家本人に対する相当程度の抑止力になるでしょう。議員自ら収支報告書の内容を確認したことを示す「確認書」の提出を義務付けましたが、政治家に自分がしっかりと管理しなければならないと強く問題意識をもたせることは非常に重要です。

石井 最後まで交渉が続いた政治資金パーティー券購入者の公開基準や、政策活動費の問題などに関心が向きがちでしたが、再発防止という意味ではご指摘いただいた国会議員の監督責任の強化と罰則の強化が一番重要なところだと思っています。もちろん、改正案のどの項目も大事な論点ではありますが、今回公明党が特にこだわったのは、これまでのように政治家に「会計責任者がやった」「自分は知らない」という言い逃れを絶対に許さないという点です。

西田 そもそも国会にはこうした問題が起きたときに政治家の道義的責任を審査し、勧告を行う政治倫理審査会が衆参両院に設置されているのです。それがほとんど機能していないことが、今般の改革の渦中で露呈しました。公明党には今後、政倫審が実効的なものになるように主導していただきたいと思います。

石井 今回の問題でも、政倫審に出席した当事者から先述のような「自分は知らなかった」という弁明に終始する姿が見受けられました。非常に残念なことですが、これまではそれで通用してしまっていたのです。ご指摘のように現在ある機関にどう実効性をもたせていくかも重要です。私たちも工夫のしかたはあると思っております。

まさに今やるしかない

西田 今後の課題の1つに、第三者機関を、いつどのように設置するかがあると思います。過去にあまり類例のないものですので難しい面もあるとは思いますが、現時点での見通しはいかがでしょうか。

石井 法文上、第三者機関は政策活動費のみならず、政治資金の収入と支出全般をチェックする機能をもたせられると見ています。時期については、今般の法改正の大半が施行となる2026年1月1日には設置されている状況が望ましいですね。具体的な制度設計は、大筋の方向性をまず政党間で議論し、詳細を関係省庁で詰める形で進んでいくと思います。

西田 機関のあり方を立法府だけで検討すると、第三者機関という呼称が適切なのかという問題があります。とはいえ立法府の自律の観点から、一義的には国会に設置することが好ましいでしょう。そこに有識者や監査の専門家を巻き込んで、不正防止の実効性をもった仕組みづくりがあわせて必要だと考えます。

石井 第三者機関にどのような権能をもたせるかは今後の重要な論点です。大いに参考にさせていただきます。

西田 冒頭にも述べたとおり、政治とカネの問題は日本政治の宿痾です。どうしても定期的にこの問題が出てきてしまう。同時に、この問題は社会的な関心が高いときにしか進まないという現実もあります。裏を返せば、問題が起きた時にできうる限りの改善をすることが大事なのだと思います。その意味では、まさに今やるしかない。政治資金規正法だけではなく政治改革全体をどれだけ前に進められるかが重要です。

石井 私たちは政治家の監督責任の強化を、2009年時点で訴えていました。その時は当時政権を担っていた民主党を含めた反対によって実現しませんでしたが、公明党は結党以来、与党にあっても野党にあっても、政界浄化の旗を他のどの政党よりも高く掲げてきた強い自負があります。

 今回の法案を取りまとめるにあたっても、自分たちの問題であるにもかかわらず及び腰な自民党に幾度も強く迫りました。与党協議における合意形成を含めて、終始、公明党が議論を牽引し、改革の方向性を導き出すことができました。

西田 この問題のみならず、こうした改革のときは、国民の理解がしっかりと追いついているかどうかも重要です。メディアの問題でもありますが、各政党が改革の中身を発信し、メディアはそれを比較検討し、解説すべきです。公明党をはじめ各政党が切磋琢磨したアイディアを国民に示し、国民との議論を深めていってもらいたいと思います。

急速な少子化と改正子育て支援法

石井 政治資金規正法の改正に世間の注目が集まった今国会ですが、子ども・子育て支援法が改正されたことも、大きな成果の1つです。今年10月分から児童手当の所得制限を撤廃し、支給期間を「高校3年生年代まで」に拡大します。また、第三子以降は月3万円に増額することになりました。

 2025年度からは、両親がともに育児休業を14日以上取得した場合、受け取れる給付金を育休前の手取りの「10割相当」に引き上げます。また、2026年度からは、就労要件にかかわらず柔軟に保育を受けられる「こども誰でも通園制度」が実施されます。

西田 公明党は2022年11月に「子育て応援トータルプラン」を発表しました。子ども・子育て政策に関する〝支援に切れ目のない〟ビジョンはとても興味深い提言だと思います。ただ、昨今の急速に進む少子化に対してそれで十分かどうかというのは、大いに議論の余地があると思います。

石井 この国の未来を思えば、2023年に過去最低の1.20となった合計特殊出生率とどう向き合うかは極めて重要な政治課題です。そのためには、子育てにかかる費用の支援を抜本的に改革する必要があります。例えば、0歳から2歳までの保育料無償化や私立高校の授業料無償化の所得制限を早く撤廃しなければなりません。

 また、大学や専門学校といった高等教育の支援も充実させたいと思っています。社会の晩婚・未婚化や、賃上げにも取り組まなければなりませんし、働き手を何とか確保する必要もある。人口減少の局面にあっていかに社会の活力を維持していくか。これが内政における最大の構造的な課題の1つです。

西田 日本はもはや、人口減少を避けることができない段階に来ています。結局のところ、合計特殊出生率が人口置換水準を上回らない限り、人口は増えません。ただ、それを達成している先進国は、この種のテーマでよく言及される北欧含め実はほとんどありません。イスラエルくらいです。そうした状況下において、改正子ども・子育て支援法は大きな第一歩ですが、十分ではない気もします。今後どれだけの成果が出せるかをしっかりと注視していきたいと思います。

結婚・育児のポジティブな面に光を

西田 ご指摘された社会の晩婚・未婚化も大きな課題です。生涯未婚の人が増えていますし、非正規や低賃金を理由に晩婚となる人も少なくありません。また、最近は「子育て罰」という言葉が浸透するなど、子どもをもつこと自体が負担だとする価値観も見受けられます。

 当たり前ですが、人生には多様な選択肢があり、結婚や出産をどう考えるかも個人の自由です。その上で、現代は子育ての負担などのネガティブな側面に光が当たりがちなことが気になります。子育てに負担感があること自体は否定しませんが、結婚や子育てが人生に喜びや充足感をもたらす面もあります。社会が結婚・子育てのポジティブな面にもっと積極的に光を当てていくことが大切です。

石井 そのとおりです。結婚や育児に希望がもてる社会を実現するために必要な支援や保障を行っていくことは政治の重要な役割です。

 社会全体で見たとき、少子化の大きな問題は労働力不足を助長し、社会保障を揺るがしかねないことです。日本は2043年頃が高齢者数のピークとなることが分かっています。ただ、その間にも人口は減り続ける。高齢者は増えて人口が減るわけですから、一人当たりの負担が増える。ここを何としても乗り切らないといけません。

 その1つの対策として、今国会で成立したのは改正出入国管理法です。この改正の柱は、これまでの外国人労働者の技能実習制度を廃止し、新たに育成就労制度を設けた点です。新制度では3年で「特定技能」の技能の水準を取得することができます。「特定技能一号」であれば5年の在留資格を取得でき、ステップアップして「特定技能二号」になれば、在留資格の更新の必要がなくなります。つまり、育成就労の3年と合わせると、最低でも8年間は日本に滞在することができる。これが労働力の確保につながると考えています。ゆえに今後は、とりわけ地方部において、外国人の皆さんとどう共生していくかが大事なテーマになっていきます。

外国人と共生し地域社会を守る

西田 人口を魔法のように急激に回復させることなどできません。社会を維持するためには、外国人の活用と自動化・機械化を両輪で進めることが重要になっていきます。移民に対しては反対意見が根強くありますが、そもそも日本は2015年のOECD(経済協力開発機構)の外国人移住者統計では世界4位と、すでに事実上の移民大国です。

 外国人が増えることで日本の在り方が変わることを懸念する声もありますが、すでに少子高齢化によって地域の行事が成り立たなくなるなど、地域社会や文化の面で存続が危ぶまれています。であるならば、外国人を排除するのではなく、共生をして地域の行事や文化を守っていく形を模索することが望ましいというのがぼくの考えです。

石井 国立社会保障・人口問題研究所の長期予測によると2070年の日本の人口は8700万人で、そのうち約1000万人は外国人だとされています。外国人との共生は避けては通れない課題なのです。

西田 今後、中国をはじめとした周辺国で日本を上回るような急激な高齢化が進むと、新興国の労働力の争奪戦が起きます。現在のような円安の状況が続いてしまうと、外国人に来てほしくても来てくれない事態さえ起こりえます。そうしたリスクを織り込む意味から、外国人の活用は自動化・機械化との両輪で進めていかなければならないのです。

 懸念しているのは、現下の共生の施策が機能不全に陥っている点です。例えば、日本語が満足に話せない子どもが、学校でいじめの対象になるケースがある。それで学校に行かなくなると、余計に十分な教育が受けられず、まともに職に就けなくなったりします。そうすると、日本に対する不満、ひいては治安の悪化につながりかねません。外国人との共生については、すでに日本各地でグッドプラクティス(優れた取り組み)となる事例があるわけですから、それらをきちんと政策に昇華していただきたいと思います。

石井 共生よりもトラブルの事例がどうしても話題になりがちですが、おっしゃるとおり良い先行事例はたくさんあります。その一方で、現実問題として地域によって様々な課題やご苦労もあると思いますので、そうした声を丁寧に吸い上げ、各自治体とともに今後の共生の施策を作り上げていきたいと思います。

一人の小さな声に普遍的な課題が

西田 公明党は、広く生活者の利益に関心を寄せる政党です。実のところ、日本においてそうした政治勢力は極めて少ない。自民党は大企業に目が行きがちですし、野党は一般の生活者の利益拡大というよりも、イデオロギーにかかわる主張をしがちです。それゆえ、公明党の日本政治における役割はとても大きいと思います。

石井 中道を掲げる公明党は右左のイデオロギーに偏らず、国民が求めていることを捉えて政策を組み立てています。そういった意味では、私たちは連立政権のなかでも自民党だけでは果たせない重要な役割を担っていることを自覚しています。

西田 生活者利益の話でいうと、昨今の野党が目を向けがちなコストカットの問題があります。自治体においても歳出改革や歳出削減を掲げる首長が増えてきている印象です。もちろん、無駄な出費は減らすべきですが、行政のコストカットは決して生活者に望ましいことばかりではないはずです。

 いたずらに自治体が行政コストをカットすれば、当然行政サービスの量や質が低下します。そのときに困るのは結局、住民です。余力のある住民は自らの意思で移動することもできますが、いわゆる経済的弱者とされる人々はサービスが低下した自治体に住み続けなければならない。生活者の利益にきちんと目を向けなければ、コストカットによってかえって負のスパイラルに陥ってしまうのです。

石井 コストカットが目的になると、本当に必要なものまで削減してしまいかねません。合理性や機能性のためのコストカットは否定されるべきものではありませんが、その中身をよく検証し政治的メッセージとしてのコストカットには注意しなければなりません。

西田 おっしゃるとおりです。むしろ、企業や大学を含め必要なところに適切な投資をしていく、そうした合理性や機能性に国民の関心が向くような新たな政治的トレンドが生じることを願います。それがひいては、広く国民の利益増進につながっていくのだと思います。

石井 公明党の特徴は、市井(しせい)のなかに分け入って多様な声を聴くところにあります。一人の小さな声に普遍的な課題が潜んでいることが多々あります。だからこそ〝小さな声を聴く力〟が大切なのです。引き続き、どこまでも現場主義で、足と耳で皆さんの声を聴き、政策を磨いていきたいと思います。

西田 公明党には、全国各地の地方議員と国会議員の連携によって、なかなか気づかれない社会課題を見つけ、解決してこられた実績があります。今年で結党から60年の節目を迎えられるとのことで、ますますの発展と国民へのさらなる貢献を期待しています。

 

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日本大学危機管理学部教授/東京工業大学特任教授
西田亮介(にしだ・りょうすけ)
1983年京都府生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。博士(政策・メディア)。専門は公共政策の社会学。著書多数。


公明党幹事長/衆議院議員
石井啓一(いしい・けいいち)
1958年東京都生まれ。東京大学工学部土木工学科卒業。建設省(現・国土交通省)を経て衆議院議員。現在、10期目。公明党政務調査会長、国土交通大臣などを歴任。

 

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