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世界宗教は必然的に「与党化」する【書籍セレクション】

世界宗教の条件として、佐藤優氏が挙げたのは「宗門との訣別」「世界伝道」「与党化」の3つであった。
若き青年たちとともに「創価学会の世界宗教化」という現在進行形の現象を題材にしながら、「世界宗教の条件とは何か」に迫っていく――。

書籍『世界宗教の条件とは何か』(佐藤優・著)より抜粋。本書は、2017年9月~12月にかけて創価大学にて行われた課外連続講座をまとめたものです。

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世界史から考える「世界宗教化」

 私はキリスト教徒で神学者ですから、自らが信じるキリスト教の世界宗教化のプロセスに、強い関心があります。しかし、「キリスト教の世界宗教化」はとうの昔に完成していますから、私はそれを歴史として学ぶことしかできません。

 一つの大きなメルクマール(指標)として、西暦313年にローマ帝国のコンスタンティヌス帝が発した「ミラノ勅令」が、キリスト教の世界宗教化の端緒と考えられています。それまでローマ帝国ではキリスト教は非合法な宗教として弾圧されていましたが、「ミラノ勅令」によって公認・合法化されました。そして、ローマ帝国の統一後に全ローマで公認され、「国教」になっていくのです。

 言い換えれば、ミラノ勅令によって、キリスト教はローマ帝国において「与党化」したのです。

 これもあとでくわしく論じますが、「与党化」は世界宗教化の要件の一つです。

 しかし、ローマ帝国の時代ははるか昔ですから、どんなに歴史書で学んでも、私はその当時のことを「実感」としては感じられません。つまり、キリスト教がどのように世界宗教化していったかを、我が事として体験することはできないのです。

 それに対して、創価学会の世界宗教化は、21世紀のいま、本格的に始まったばかりです。私はその世界宗教化の過程を、同時代人として逐一見て体験することができるわけです。キリスト教神学者である私にとって、これほどかけがえのない体験はありません。それが、私が創価学会に強い関心を抱いている理由の一つなのです。 

 じっさい、創価学会の世界宗教化プロセスをくわしく追うことによって、私のキリスト教理解は以前よりも深まりました。なぜなら、学会の世界宗教化からのアナロジー(類推)によって、キリスト教の世界宗教化プロセスもいっそう深く理解できるようになったからです。

 それまで歴史書の記述としてしか理解できなかったことが、「ああ、そうか。キリスト教の歴史の中で起きたあの出来事は、現代に即して言えばこういうことだったのか」と、実感として理解できるようになったのです。

 そう感じるのは、おそらく私だけではないでしょう。キリスト教やイスラム教の専門家で、創価学会に深い関心を寄せている人は世界中にたくさんいます。彼らの中には、「現在進行形の世界宗教化」の稀有なモデルケースとして、創価学会に関心を向けている人も多いはずです。
(中略)

世界宗教は必然的に「与党化」する 

 パウロが直接成し遂げたわけではないけれど、パウロの行動によって土台が築かれ、その死後に花開いたことがあります。それは、さきにも述べた「キリスト教の与党化」です。

 パウロが亡くなったのは紀元65年ごろであり、「ミラノ勅令」によってローマ帝国でキリスト教が公認されたのは313年です。したがって、パウロの功績とするにはやや無理があります。しかし、キリスト教がローマ帝国において影響力をしだいに強め、ついには国教となるまでの過程は、パウロの行動と論理があってこそ生まれたものと言えるでしょう。パウロは「ローマの信徒への手紙」第13章でキリスト教徒に国家とむやみやたらと対峙すべきではないと説きました。

 そして、当時世界最強の帝国であったローマ帝国で公認されたことが、その後の世界宗教化を大きく後押ししていくのです。

 この「与党化」も、世界宗教になるための条件の一つです。世界宗教である以上、各国の「与党」と結びつくのは当然で、「野党」に当たる少数派勢力と結びつくほうがむしろ不自然であるからです。

 私はかねてそのように主張しているのですが、日本ではなかなか理解されにくい面があります。というのも、日本人はとかく「宗教というものは、政治などという世俗の動きとは無縁であるべきだ」という偏見を抱きがちだからです。それは日本国憲法の政教分離原則に対する根深い誤解とも結びついているのですが、ここでは措きます。

 私は逆に、「真の宗教は信者の人生そのものと丸ごと結びつくものであり、そうである以上、人生から政治だけを切り離すことは不可能だ」と考えます。宗教者が政治活動にも手を伸ばすのは、むしろ当然のことです。

 ローマ帝国によるキリスト教の公認を「与党化」の例として挙げましたが、現代においては、メルケルらを擁するドイツの「キリスト教民主同盟(CDU)」が長年与党でありつづけていることが、顕著な事例として挙げられます(当時 ※編集部注)。キリスト教が世界宗教であるからこそ、それを基礎とした宗教政党であるCDUも、必然的に「与党化」したわけです。

 また、日本においては、創価学会を支持母体とする公明党が1990年代末以降、自民党との連立政権という形で「与党化」していることが、その例といえます。

 日本では公明党が与党の一角を占めるようになったことについて、「権力にすり寄ってけしからん」といった、的外れな批判がよくあります。しかし、創価学会の世界宗教化という流れがここ20年来にわたり加速していることを考えれば、公明党が与党化したのはむしろ必然と言えます。つまり、創価学会の本格的な世界宗教化と公明党の与党化は、コインの両面のように密接にリンクした出来事なのです。

 ではなぜ、世界宗教の与党化は必然的なのでしょう?

 一つには、世界宗教というものが、「反体制的ではなく既存の社会システムを認めたうえで〝体制内改革〟を進めていく」という共通の特徴を持っているからです。もちろん、創価学会もしかり。創価学会の国際的機構である各国の創価学会インタナショナル(SGI)を見ても、その国の国体(国の基礎的な政治の原則)に触れるような行為は決して行わず、既存の社会のシステムにすんなり溶け込んでいます。

 そして、世界宗教が体制内改革を標榜するものである以上、その改革を進めるためにいちばん力を持った存在である与党と結びつくのは必然なのです。

 以上説明してきた「宗門との訣別」「世界伝道」「与党化」の三つは、世界宗教が備えねばならない「三大条件」であると、私は考えています。そして、創価学会も見事に三つを兼ね備えているのです。

 

『世界宗教の条件とは何か』佐藤優著、定価:1320円(税込)、発行年月:2019年10月、判型/造本:四六並製/232ページ
商品詳細はコチラ


第1章 世界史から考える「世界宗教化」
第2章 他宗教の「内在的論理」を知る
第3章 創価学会「会憲」の持つ意味
第4章 世界宗教は社会とどう向き合うべきか
第5章 世界宗教にとっての「普遍化」とは
第6章 エキュメニズムーー宗教間対話の思想


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作家・元外務省主任分析官
佐藤 優(さとう・まさる)
1960年東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。 2002年背任容疑で逮捕。 05年、『国家の罠』(毎日出版文化賞特別賞)で作家デビュー。潮新書 「対決!日本史」シリーズ(安部龍太郎氏との共著、小社刊)ほか著書多数。 

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