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作家たちの放課後「なにげに文士劇」いざ、旗揚げ!

2024年11月に大阪で開催される、なにげに文士劇2024 旗揚げ公演。
文士劇とは文士(作家)がおこなう芝居のこと。大阪では実に66年ぶりの開催となり、注目を集めています。
澤田瞳子さん、朝井まかてさん、蝉谷めぐ実さんに登場いただき、文士劇旗揚げの舞台裏や準備に取り組む様子を語っていただきました。
(月刊『潮』2024年9月号より転載。撮影=富本真之

※記事の最後に講演の情報も掲載していますのでぜひご覧ください。

 

墓参から始まった文士劇プロジェクト

澤田 私は2021年7月に直木賞をいただきましたが、その3カ月後の10月にまかてさんが柴田錬三郎賞を受賞されました。そこで「葉室麟さんのお墓参りに出かけて受賞のご報告をしよう」という話になりました。

朝井 葉室さんのお墓は九州にあるので、ふだん書斎にこもりきりの私にとっては遠出です。葉室さんに献盃して、いろいろおしゃべりして。すると、気持ちがとても解放されたといおうか。

澤田 私たちが九州までお墓参りに行くと聞いた髙樹のぶ子さんと東山彰良さんも駆け付けて、墓参の後、髙樹さんがフグ料理屋に招待してくださったんですよね。

朝井 小説を書くひとと一緒に過ごす時間がしみじみと慕わしいといおうか、ちょっとハイになったといおうか、ふと「文士劇やりたいなあ」と口走ったら、髙樹さんが「昔は盛んだったわね」とおっしゃって、「いいね」「やろう」と。でも普通はそこで終わるんです。何年か経って、「そんな夢も見たね」と酒の肴になる。

蝉谷 そこに「なにげに文士劇」の淵源があったんですね。私が初めて文士劇の話をお聞きしたのは、『おんなの女房』で吉川英治文学新人賞をいただいた、その授賞式の後の二次会でした。
 朝井さんと澤田さんが来てくださって、そのときに文士劇の企画が進んでいるとお聞きして。「文士劇」とはプロの俳優ではない作家や画家などの文化人による素人芝居のことですよと説明もいただいて、ふんふんと聞いていたら、蝉谷さんもどうですか、と。でも、その時はまだ実感としては、夢みたいなお話でした。



朝井 一念発起してからは早かったですよ。黒川博行さんが加わってくださったのが大きかった。最初に大仕事をすすっとなさって、あとは現場に任せると。あんなボス、小説やドラマの世界にしかいないと思ってたら、いました。

澤田 黒川さんを巻きこんで「なにげに文士劇」の実行委員長に就任してもらい、東山さん、まかてさんと私の4人で実行委員会を立ち上げました。

朝井 演劇のプロも続々と集まって、私たちの志を面白がってくれたんです。まずは劇場を押さえないと延び延びになって実現しないから本番の日を決めなさい、とアドバイスを受けました。で、サンケイホールブリーゼ(大阪・梅田)を仮予約するという賭けに出て、「なにげに文士劇」の旗揚げ公演(24年11月16日)を開催することに。出版社の編集者さんたちは、マジですか?って。(笑)

蝉谷 大好きな作家の先輩たちが演劇をされると聞いてテンションが上がり「もちろん観に行きます!」と言いましたが、まさか自分が出演するとは思いもしませんでした。「本当にやるの……? 大丈夫かな、私が出演して……」とドギマギしているうちに、どんどん話が進んで今に至ります。

66年ぶりの開催 大阪での文士劇

蝉谷 盛岡市では、岩手県在住の作家の方々が毎年文士劇を行っておられますね。1949年から62年まで続いてから一旦途切れ、95年に復活して今に至ると聞きました。

朝井 盛岡文士劇は30年近く続いていますけど、ほかの地域では「文士劇」と聞いてもご存じない方も多いよね。

澤田 1997年に、日本推理作家協会創立50周年を記念して東京で文士劇が開かれたことがあります。赤川次郎さんや内田康夫さん、北方謙三さんや大沢在昌さん、宮部みゆきさんや東野圭吾さんをはじめ作家が42人も出演したんです。あのころはユーチューブもなければサイン会も少なく、動く小説家を目で見られる機会はめったにありませんでした。しかも1回きりの公演だったので、1100席の東京・よみうりホールのチケットが5分で完売したんです。

蝉谷 澤田さんはその公演を観に行かれたんですか。

澤田 当時学生だった私はチケットが取れなくて、NHKのBSで放送された公演を観ました。皆さんすごく楽しそうだった様子をよく覚えています。

朝井 東京では明治時代から文士劇があって、三島由紀夫さんや石原慎太郎さんが出演して大変に人気を集めた時代がありました。
 その活況に刺激を受けた関西の作家たちが「風流座」という劇団を立ち上げ、上村松篁さん(日本画家)や小磯良平さん(洋画家)ら画家も舞台に立ったんです。私たちの旗揚げは、その最後の大阪公演から66年ぶりになります。

東野圭吾のデビュー作『放課後』を演劇化

澤田 「なにげに文士劇」の出演者は作家や書店員などです。文士劇をやろうと言い始めた初期に演劇関係者に相談したところ「素人だと現代劇は難しいですね。作家が舞台に出てきただけで笑ってもらえる時代劇がいいですよ」とアドバイスを受けました。
 ところが時代劇はカツラから履き物から全部お金がかかります。「予算がかかりすぎるから時代劇は難しいね」と言っていたところ、東山さんが「だったら学園モノはどうかな。作家がセーラー服と詰め襟の学生服を着て出てきたら、それだけで笑ってもらえるじゃない」と言うんです。

朝井 あれは名案だったね。

澤田 すると黒川さんが「ほな東野の『放課後』(デビュー作)はどうや」と言うんです。東野さんと黒川さんはデビューがほぼ同時期でして、非常に仲良くしてらっしゃるのです。黒川さんが「ワシが頼んだるわ」と交渉役を引き受けてくださり、東野さんからご快諾いただきました。

蝉谷 『放課後』は10代の頃に読みました。高校で起きる不可解な事件を描くストーリーに沢山の伏線が張られていて、ミステリーのおもしろさがこれでもかと詰まっている。この作品が演劇として上演されたとき、どのような仕掛けがなされるか、今から楽しみです。

澤田 私が最初に『放課後』を拝読したのも、蝉谷さんとほぼ同じ時期です。私は女子校出身なので(同志社女子中学・高校)、当時は生徒側に思い入れをもって作品に接しました。今読み返してみると、いつの間にか登場人物の高校生の年齢をはるかに超えて、主人公である教諭(前島)より上の年齢になっちゃった。「時間の流れによって環境はこんなに変化するんだな」と不思議な気持ちになりながら、『放課後』の世界観をあらためて噛み締めているところです。
 おもしろいことに、『放課後』の表紙画を描いたのは黒川雅子さん(画家、黒川博行夫人)、そしてこの本の装丁を担当したのは黒川博行さんなのです。

朝井 ねらったわけではないのに、『放課後』公演にパズルのピースがピタピタッとハマっちゃった。
 「起承転結」で言うところの「起」と「結」がトントン拍子で決まった。私はプロットも何も決めずに小説を書いていますが、今回は「起」と「結」はある。でも、その間がない(笑)。公演本番の「結」は絶対に動かされへんから、もう懸命に下拵えをしています。

準備は全部手弁当 裏方は作家だらけ

澤田 学生時代の文化祭は当日はもちろん楽しいですけど、準備している間のドタバタがもっと楽しいんですよね。今がまさにそういう感じです。

朝井 連載の締切が迫って蒼ざめながら、文士劇の準備も同時進行。そういえば女子高生のときも、授業中にこっそり文化祭の準備してたなあ。(笑)

蝉谷 こうしてお話をしている間も、朝井さんの手元のスマートフォンが絶え間なく……!

朝井 原稿を書きながらメールやLINEで返信して、また小説の世界に戻る。これが不思議なもので、戻れる!

澤田 お芝居って、予想以上にやるべき仕事が多いですよね。

朝井 プロのみなさんの助力をたくさんいただいてるんだけど、作家たちの手作りの部分も多い。これほど自前の文士劇は初めてやないかしら。でも素人やから迷走する、脱線する。巻きこんじゃった瞳子ちゃんや蝉ちゃんは迷惑かもしれんけど。

蝉谷 とんでもないです! 連絡を頂く度、ワクワクしています!



澤田 「演者やスタッフに脚本を配る」と決まってから、さて印刷会社はどこがいいのか。表紙はどうするのか。「みんなでサインの寄せ書きをして表紙に印刷しよう」というアイデアが出て、「だったら紙はちゃんとしたのを使わないとね」と話してたら、まかてさんが「脚本はワラ半紙じゃないの?」と言ったのがおかしかったです。

蝉谷 袋綴じのヤツですね!

澤田 まかてさんが「それをホチキスで留めるんやんな」って。

朝井 みんなから失笑されました。

現役作家が舞台に 待望のキャスト発表

澤田 まかてさんはこの3人の中で唯一文士劇に出た経験者です。

朝井 大阪で文士劇をやることが決まってから、東山さんと瞳子ちゃんと3人で高橋克彦さん(作家、盛岡文士劇発起人)のところへご挨拶にうかがったんです。すると「じゃあ誰か、来年の盛岡文士劇に出なさいよ」「へ? 滅相もない」と3人でうろたえた。

澤田 すると東山さんが「まかてさんは高校生時代に演劇部にいらっしゃったんですよね」と絶妙な合いの手を入れて、まかてさんが盛岡文士劇で丁稚奉公することになりました。(2023年12月公演)

蝉谷 私も中学と高校時代に演劇部に所属していました。でも、今は作家として舞台に立つことで、今後作品を書くときに見えるものがあるんじゃないかと。そこも楽しみです。

朝井 いいお話だなあ。

澤田 良かった。それだけでも開催する意義がある。



朝井 小説執筆もじつは頭だけではなくて身体的なものやけど、舞台でどんな身体表現ができるか。それに芝居はチームワークやから、このメンバーにしかできない舞台があるはず。キックオフの決起集会でも撮影現場でも、つくづくと、いい面々なんですよ。みなノリがよくて、明るくて。このチームを、客席のみなさんにも楽しんでいただきたいです。さて、ここで3人のキャストの発表です!

蝉谷 決起集会では「私はイヌの役で」とお伝えしましたが……!

朝井 イヌどころか、蝉ちゃんは非常に重要な高校生の役です。

澤田 私は国語の先生、朝井さんは学校の校務員です。

朝井 ふふふ。「千と千尋の神隠し」の湯婆婆(ゆばーば)みたいにやろうかな。

澤田 まかてさんはキャラを絶対濃く仕上げてきますよ。蝉谷さんは出演者の中で一番若いし、演劇部出身なので楽しみです。

蝉谷 わあ、身震いが……。

朝井 東山さん、湊かなえさん、上田秀人さん、一穂ミチさんも重要な役どころですよ。

澤田 黒川さん、門井慶喜さんの出演も楽しみです。髙樹さんがセーラー服を着たら似合うだろうなあ。

作家から編集者までが乗る「文化の船」

澤田 デビュー前の私は「小説家は黒子だ」と思ってきました。作品を読者にお届けするのが作家の仕事であって、本人が前面に出なくてもいいと思っていたのです。だから作家デビューできたら自分の顔は隠して、人前に出る用事があるときはパンダの着ぐるみに出てもらおうと思っていました。
 講演を依頼されたら着ぐるみと原稿を送って「あとはよろしく」と頼んで、スタッフに中に入ってもらって原稿を読んでもらえばいいや、と思っていたんです。
 ところがデビュー作(『孤鷹の天』)が中山義秀文学賞の候補になったとき、「近影を送ってください」と言われて着ぐるみの写真を送る根性はありませんでした。以来、着ぐるみ作家になるタイミングを逸しました。

朝井 それどころか、役者として。

澤田 でもそのおかげで、今まで知らなかったお芝居の世界の住人になれて、毎日とても楽しんでいます。読者の皆さんはお気づきかもしれませんけど、私は物語を書くときに、キャラクター個人よりも、人物を取り巻く背景を描きこむのが好きなんです。
 今回の文士劇を作るうえでも、裏方では書類の提出だの窓口での受付だのお金の振込だの、事務的な手続きが山ほどあります。その裏方の世界を当事者としてのぞけるのがとても楽しいんです。

朝井 裏方のドラマは、まさに小説ですよ。山と谷ばかりでね。ときには不本意なこと、悔しいこともあって、心の中で、いつか書いてやる! って叫んでる。(笑)

蝉谷 物凄く読んでみたいです!

澤田 すでに同業者の作家が大勢「大阪まで観に行く」と言ってくれています。一日限りの文士劇は、客席が華やかになりそうです。

蝉谷 客席に作家が大勢ひしめく一日限りのステージですね。

澤田 私たちが若いころに比べて、今の若い人たちにとって本は手に取りづらいものになりつつあるのかもしれません。作家、本の装丁を手がける画家、書店員や編集者まで、みんなで読書という「文化の船」に集まれたことは出版文化の底上げにつながるはずです。今回の文士劇が大成功したら、第2回、第3回もやりましょう。その時はぜひ図書館の司書さんにも出演してもらいたいなと画策中です。

朝井 たくさんの人たちが応援してくださって、本当に有難いです。だから数年に一度でも続けたい。続けてこそ、文士劇というジャンルがいつか文化になる。願いもこめて、舞台に立ちましょう。

 

なにげに文士劇2024 旗揚げ公演
2024年11月16日(土)16時開演
大阪・サンケイホールブリーゼ

原作:東野圭吾『放課後』  脚本・演出:村角太洋
出演:黒川博行、朝井まかて、東山彰良、澤田瞳子、一穂ミチ、上田秀人、門井慶喜、木下昌輝、黒川雅子、小林龍之、蝉谷めぐ実、髙樹のぶ子、玉岡かおる、百々典孝、湊かなえ、矢野隆

 


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配役・チケットのお申込みは公式HP
(チケット販売:9月1日12時~)
https://nanigeni-bunshigeki.com/

 

作家
澤田瞳子(さわだ・とうこ)
1977年、京都府生まれ。同志社大学文学部文化史学専攻卒業。同大学大学院博士課程(前期)修了。2010年『孤鷹の天』で小説家デビュー。2021年に『星落ちて、なお』で第165回直木賞を受賞。

作家
朝井まかて(あさい・まかて)
1959年、大阪府生まれ。甲南女子大学文学部卒業。2008年に『実さえ花さえ』で作家デビュー。2014年に『恋歌』で第150回直木賞を受賞、21年に『類』で第34回柴田錬三郎賞を受賞。

作家
蝉谷めぐ実(せみたに・めぐみ)
1992年、大阪府生まれ。早稲田大学文学部で演劇映像コースを専攻。2020年に『化け者心中』で小説野性時代新人賞を受賞し、小説家デビュー。2021年に同作で中山義秀文学賞を受賞。

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