平和のために いま私たちができること(LiLiCo×サヘル・ローズ)
2024/09/06アフリカの4人の女の子に食費や教育費の支援を続けるLiLiCoさん。
日本の児童養護施設や難民の子どもたちの支援に力を注ぐサヘル・ローズさん。
平和をテーマに「私たちができること」を語っていただくのに
ふさわしいお二人のトークの始まりです。
(月刊『パンプキン』2024年8月号より転載。取材・文=富樫康子|撮影=本浪隆弘|ヘア&メイク=深山健太郎〈サヘル・ローズさん〉)
世界に目を向けて“関心”のスイッチをオンに
LiLiCo 平和といえば戦争のことを考えるよね。私は、戦争は人間の言葉から始まると思う。日常の中での平和が大事なのかなって。
サヘル 本当にそうです。日本は表面上は平和に見えても、若い人の貧困や高齢者の孤独死も増えていて。苦しくても声を上げられない、上げ方がわからない人がいるはずなんです。
LiLiCo ちっちゃい島国に1億2000万人くらい住んでいても孤独を感じるなんて、ありえない! サヘルちゃんは、いろんな国で子どもたちのための活動をしているんだよね。
サヘル 私自身が子どものときに養母に助けられ、可能性を信じてもらえて、今の私があるから。難民の子どもたちにも可能性があることを伝えたくて、活動を始めました。この前はアフリカのコンゴや、南スーダンから逃れてきた子たちに会いにウガンダの難民居住地に行きました。電気や水も通っていない場所で、支援の手はとても足りません。日本のあるメディアで紹介してもらいたくてお願いした、「いま、アフリカを取り上げる理由は何ですか?」と言われてしまって、悲しくなりました。
LiLiCo 日本の人たちは海外から学ばなきゃいけないことがもっといっぱいある。現状を知らないから「理由は何?」って言っちゃうのよね。
サヘル 自分たちの考え方次第で、心の中に平和って生み出せるんですよ。そうすれば、外に向ける意識も変わってくると思います。
LiLiCo 本当に。平和と戦争は、心の中の問題なんだろうね。
サヘル 人間の“無関心”が戦争を引き起こしているんじゃないでしょうか。ロヒンギャ問題、南スーダン、イエメンなど、日本であまり報道されていない国でも戦争は続いています。知らないことは悪いことじゃないけど、知ろうとしないのは戦争に加担していることになると思うんです。
LiLiCo この間も、Jアラートが鳴ったけど、気にも留めない人が多くて驚いた。警告が出ていたのが違う地域だったからかもしれないけど、無関心な人は意外と多いよね。
サヘル 日本の人は花火がきれいと言うけれど、私たちは日本に来て間もないころはその音が爆撃の音に聞こえて怖かった。だから、花火が美しいと感じられることの幸せをかみしめてほしいんです。今の世の中は当たり前じゃないんだって。そして、平和のために“関心”というスイッチを入れてほしいと思います。
LiLiCo それと、“自分の頭で考える”っていうのも必要だと思う。よく「LiLiCoさん、私どうしたらいいですか?」と問題を相談されることが多いのよ。自分なりに精いっぱいアドバイスはするけど、それをもとに自分だったら、どうするのがいちばんいいかを考えてみてほしい。
サヘル 「帰宅難民」って言葉を聞きますよね。安易に難民って使うのは、私は苦手なんですが。でも、あの瞬間は確かに家に帰れず不安な経験です。だから、本当の難民の人たちはどんな感覚なんだろうと意識するだけで“関心”のスイッチはオンになると思います。
LiLiCo ニュースを見ても、他人事にしないで「自分に起こったかもしれない」と思って見てほしいね。
お隣さんと仲がいいと いざというときに助け合える
LiLiCo 考えることと同じくらい行動が大事。私たちが身近にできることといえば、お隣に住んでいる人と仲よくすること。私の住むマンションの人は皆、仲がいいの。災害のときとか、何かあったときにも助け合えるよね。
サヘル 「こんにちは」のあいさつからでもいいですよね。
LiLiCo そうそう。あと、家庭でのコミュニケーションも平和の一歩だよね。以前、家の天井の電球が切れたとき、夫は身長が191センチあるから、私が新しい電球をすぐ下に置いておいたの。何も言わなかったら、1週間置きっぱなしだったね(笑)。言わなくてもわかる、なんてことはない。
サヘル そうですね(笑)。
LiLiCo 夫は外で私の話をずっとしているみたいなの。「私にも言ってよ!」って言うと「照れくさいじゃん」って。言わないから、家の中でけんかが始まるんです。「アイラブユー」なんて無理に言わなくてもいいけど、褒め合える家庭がいいよね。
サヘル これが平和ですよね。LiLiCoさんみたいに自分の意見をはっきり言える人は素敵です。私の母は行動の人。コロナ禍の時期、仕事が全部キャンセルになって私は不安でした。でも母は強かった。「大丈夫よ。これで時間ができたじゃない。今まで時間がないから、やりたいことができないって言っていたでしょ」と言ってくれて。それで初めて映画を撮ったんです。私は孤児院で育って、日本には児童養護施設があるけれど、そこで過ごした経験がある少年少女たちに主人公になってもらった映画です。
LiLiCo それが今年完成した映画『花束』だよね。必ず観るよ。
サヘル うれしいです!
行動して、経験値を積めば知恵が出せるようになる
LiLiCo 去年の11月にJ-WAVEのトークセッションで、世界で支援活動をしているサヘルちゃんの話が聞けたでしょ。あのあと、私もネパールでの学校造りに着手したの。
サヘル すごい!
LiLiCo 生放送の仕事があるから、私は開校式にも行けない。でも行けないなら、知恵を出せばいいのよ。現地にWi-Fiは通っているから「ビデオ通話で参加します」って言ったら、周りの人たちは「そんなアイデア思いつかなかった」って。
サヘル 行動して、経験値を積んでいくと、A案、B案と知恵が出ますよね。
LiLiCo 私はZ案くらいまで用意できるもん(笑)。
サヘル 日本にいても、消費者として、児童労働に依存したカカオを使うチョコレートじゃなくて、農家の人に利益が還元されている商品を選べば、平和貢献につながりますよね。
LiLiCo ダイヤモンドは紛争地域では資金源になっている場合があるのよね。私が今日身に着けているのは“ラボグロウン”といって、ラボ(研究室)で作られたダイヤ。紛争の背景がないからだれも傷つけていないのよ。
サヘル 私は難民キャンプに行くたび、“私一人では、全員を助けることができない”っていう気持ちと葛藤していました。でも、自分が消耗していたら、周りの人を大事にできないんです。いま、社会情勢も経済も厳しく、一人ひとりが抱えているものが大きい時代です。だからこそ、疲れてしまったときはまず自分を励まして、再び元気になって、世界のことを学び続けたり、自分に何ができるかを諦めずに挑戦し続けてほしいです。
LiLiCo まずは自分が太陽みたいに輝かなきゃね。日本にいても平和のためにできることって、考えればたくさんあるって感じました!
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サヘル・ローズ
1985年、イラン生まれ。7歳まで孤児院で過ごし、8歳で養母と共に来日。舞台『恭しき娼婦』で主演。主演映画『冷たい床』ではミラノ国際映画祭など、さまざまな映画祭で受賞。近年では演出、映画監督と、表現者として活動の幅を広げる。個人で国内外問わず支援活動を続け、2020年にはアメリカで人権活動家賞受賞。初映画監督作品『花束』も上映中。
https://hanataba-project.com/
LiLiCo(りりこ)
1970年、スウェーデン生まれ。父がスウェーデン人、母が日本人。89年芸能界デビューし「王様のブランチ」で映画コメンテーターとしてレギュラー出演。トークイベントやインタビュー、J-WAVE毎週金曜日の生放送ラジオ「ALL GOOD FRIDAY」では稲葉友さんとナビゲーターを務めるなど、幅広く活躍中。今年3月に「HAPPY WOMAN賞」を受賞。6月に映画界に貢献したとして「淀川長治賞」を受賞。