「子どもたちに本を届ける」――公明党の役割は果てしなく大きい
2024/10/10本は人を育てる。公明党も関わった読書推進の取り組みとは――。
合同会社未来読書研究所 田口幹人共同代表にお話を伺った。
(月刊『潮』2024年11月号より転載)
子どもが本を嫌いになる理由
「書店のない町が増えている」「人々の本離れが進んでいる」――。こうした書店・出版をめぐる悲観的な声を聞いたことがある方も多いでしょう。実際、この20年間に書店の数は半減しています。
2000年、私は書店員として働く傍ら、「未来読書研究所」を立ち上げました。ここでは読書や書店・出版についての調査や企画など、本に関するシンクタンクのような仕事をしています。同時に、未来読書研究所で集めたデータやエビデンス(証拠)を踏まえながら、子どもたちの読書推進を実践する事業をつづけています。22年にはその事業を法人化し、特定非営利活動法人「読書の時間」を設立しました。
「未来読書研究所」にしろ「読書の時間」にしろ、私が目指しているものは二つしかありません。それは「未来の読者をつくる」「まちに本がある場所を増やす」です。
書店業界、出版業界にいると間違えてしまいがちなのですが、「読者」と「本を買う人」はイコールではありません。図書館で本を借りる人も当然、読者です。
「もっと本を買ってもらうように」とばかり考えていては、読者人口は増えていきません。未来読書研究所は、「どうすれば読者人口が増えるのか。なぜ本を読まない人が増えているのか」を研究しようという問題意識から出発しました。その目線はつねに未来の読者――子どもたちに向いています。
「本が嫌い」という小学6年生の生徒を対象に、なぜ嫌いになったのかの調査を進めたところ、その原因は次の三つに集中していました。3位「自分の読書体験を他人に笑われた」、2位「読みたくない本を読まされた」、そして1位「なぜ本を読まないといけないのかを教えてもらったことがない」です。
「音読を友達からからかわれた」といった日常の出来事に、私たちが関与することはできません。しかし、1位と2位の理由に対しては何かできることがあるはずです。
私たちはこうしたデータを基に、先生や司書の方に向けた読書教育の講演や、子どもたちへの授業、ワークショップなどをつづけています。さらに、筑波大学付属小学校で国語教諭をしている白坂洋一先生に監修していただきながら、読書推進プログラムのカリキュラムもつくりました。
たとえば、子どもたちに「自分の興味の向こう側には必ず本がある」と知ってもらえるような授業を行っています。本に馴染みがない子どもたちでも、必ず何か興味をもっていることがあります。そこを本への入り口にするのです。
もし「野球」が好きなら――ひとくちに「野球」といっても、じつにさまざまな本があります。図書の分類法である日本十進分類法(NDC)の区分から考えると、「スポーツ」としての野球の本はもちろん、統計や物理など「自然科学」として野球を扱った本、「文学」としての野球などもありそうです。そうして図書館を探してみると、いろいろな野球の本に出合えるのです。このように「自分が興味をもっていることについて、必ず何か本がある」ということがわかれば、きっと「読みたい本」が見つかるはずです。
また、ワークショップでは「本を読む意味」について、みんなで考える時間もつくっています。結論から言えば、100人いれば100通りのやり方があるのが読書です。だからこそ私たちは、「正しい読書」を教えるのではなく、「いま自分が本を読まなければならない理由」をともに考える、ということを大事にしています。
とくに小学生や中学1、2年生ぐらいまでは、「自分はどう思うのか」「自分は何者なのか」をしっかり見つめることが必要です。図書館で、棚から本を取り出し、読む。読みながら、「書いてあることは本当かな」「この内容について自分はこう思う、こう感じる」と考えたり、理解したりする。このように読書には「その人をつくる」力があるのです。
まちに本がある場所を増やす
先述したように、私は「まちに本がある場所を増やす」ことを目指しています。書店数の減少にともなって、街に一軒も書店がない地域が増えており、「子どもが一人で歩いて行ける範囲に本のある場所がある」という環境が失われるのは大きな問題です。ただ、本がある場所というのは、なにも書店に限りません。
公共図書館や学校図書館、あるいは子ども食堂や学童保育の現場、駅の待合室、理髪店、そしてラーメン屋だっていい。本との出合い方は、売ったり買ったりするだけではありません。貸し借りしたり、時間つぶしに手に取ったりして出合うことだってある。子どもたちが行くところに、本がある場所を増やす。そのために本を届けていく。これを徹底的にやろうと取り組んでいるのです。
私は、書店はあくまで小売業であり、文化施設ではないと思っています。ただ、書店が担える役割、書店のもつ価値はもっと掘り下げようがあると考えています。
たとえば総合書店は、言論の自由・表現の自由をもっとも体現した空間の一つだと言えます。というのも、総合書店には、委託制度を利用した出版社から取次会社を介して商品が"自動的に"配本されます。だからこそ、いろいろな人の意見が集まってくるのです。
本には作者の見たいもの――「真実」が詰まっています。一つに定められる「事実」と違って、「真実」は作者ごとに、本ごとに異なっています。個人書店や図書館の本棚には、店主や司書の考え方に基づいて仕入れられた本が並びます。それはそれでとても重要なことなのですが、しかし、総合書店の本棚には誰のフィルターも通さない、たくさんの「真実」が並んでいる。その空間に無料で入れて、本棚をじっくり眺められて、気に入った一冊を買える。これは総合書店の最大のメリットだと思います。
もう一つ、これからの書店が担うことができるものに、文化共生の拠点としての役割があります。近年、日本に移り住む外国人が増加しており、そのトレンドは今後もつづいていくはずです。そうすると、外国人との共生をどうするのかという課題が浮上します。そこで、移住してきた海外の人々のための書店が必要となるのです。
共生を考えるうえで、日本社会の側が適応しなければならない側面は多々あります。同時に、移住してきた人々にも日本社会にマッチしてもらいながら、コミュニティをつくっていくことが重要になります。その入り口こそ「識字」(読み書き)であり、そのための拠点が書店になるのです。
最近は、日本のマンガを楽しむうちに日本語を習得した海外の若者がたくさんいます。マンガや絵本といった本は、海外の方が日本語の読み書きを学ぶうえでとても役に立つはずです。
「桃太郎」でも「かぐや姫」でもいいのですが、日本の昔話の絵本が日本語版、英語版、韓国語版等々で揃っていて、日本人も外国人も本を通じて話し合える。そんな空間を地域でつくっていくことがこれからの日本には大切だと思います。なかんずく、それを担えるのは書店なのです。
若者の読書量を増やした「朝読書」
昨今、「若者の読書離れ」が指摘されています。ただ、歴史を振り返ると、この言説が最初に出てきたのは1977年で、当時の若者はいまや60代です。つまり、現役世代はみな「読書離れ」と言われてきたのです。
「離れた」というからには、若者の読書量を経年で見る必要があります。実際に子ども、若者の読書量の推移を追いかけていくと興味深いことがわかります。なんと2000年以降、小・中学生の読書量はむしろ増加してきているのです。当時、既に書店数の減少が始まっていたのに、どうして読書量が増えているのか。
そこには、公明党の読書推進運動がありました。公明党は2000年に、女性委員会のもとで「子ども読書運動プロジェクトチーム」(当時)を設置。子どもが本に親しむための運動を推進していきます。とくに私が重要だったと感じるのが「朝の読書」です。授業が始まる前の10分間、各生徒が自分の好きな本を読むという「朝読書」の取り組みは1980年代に起こり、徐々に広まっていきました。そして、公明党が推進し、2000年当時に5000校程度だった実施校数は現在、2万5000校以上にまで増えています。
これまで申し上げてきたように、読書というのは「人づくり」です。成果は見えにくく、しかも長い時間を必要とします。しかし、その「人づくり」こそ公明党が伝統的に大事にしていることなのだと思います。公明党の皆さんは、いまでも子どもたちの読書のために動いてくださっています。
学校図書館と教育格差の問題
2023年、NPO法人「読書の時間」は行き詰まっていました。子どもたちの読書推進を考えるうえで、学校図書館は重要な役割をもっています。学校図書館がしっかり整備・運営されていれば、そこは子どもたちが本と出合える最も身近な場所になります。
しかし、学校図書館の図書購入のための予算が年々減少しているのです。学校図書館の行政は地方交付税交付金で賄われており、予算には議会決裁が必要です。つまり、学校図書館の図書購入費として措置された地方交付税交付金でも、行政・議会の判断でほかの目的に回されてしまうことがある。交付金のうち実際に図書の購入に使われた割合は2015年度から7年連続で減少していました。
私たちNPOが何とかしようと思っても、行政と議会の側で「学校図書館を適切に運営しよう」という機運がない限り事態は進展しません。教育委員会や他党の議員に声をかけていましたが、なかなか前に進まなかったのです。
そんななか、出版関係のツテを辿って公明党の佐々木さやか参議院議員を紹介していただきました。佐々木議員と面会し、学校図書館の意義と私たちの問題意識を伝えたところ、今度は同じく参議院の竹谷とし子議員を紹介していただき、チームをつくりましょう、とすぐに話が進んだのです。
学校図書館は本来、文部科学省が定めるガイドラインと図書標準に基づいて運営されます。図書標準とは学校図書館が整備すべき蔵書冊数の標準を、それぞれの学級数に応じて定めたものです。
問題は、この図書標準が1993年に策定された数値を未だに用いているということです。いくつかの自治体に尋ねたところ、図書標準を満たしていることを理由に図書購入費の使用割合が低かったり、図書標準を下回らないように古い本を廃棄せず、蔵書の更新を怠ったりする例が見られました。
93年当時と、少子化が進んだ現在とでは学級数は大きく違います。時代を経るなかで、本に書いてある情報が古くなったり、本が汚損や破損したりすることもあります。にもかかわらず、予算がつかず、学校図書館の新陳代謝が行われない自治体の多さに驚きました。
乱暴な計算になりますが、予算額を生徒数で割れば、一人当たりの公的な図書購入費がわかります。つまり、「一人当たりの予算額が低い街で生まれた子どもは、ほかの地域より本と出合える可能性が低い」と考えられます。読書は人づくり、という考え方に立ち戻るならば、これは教育格差の問題と言えます。私たちが学校図書館を重視しているのは、学校図書館を通じて子どもたちに本を届け、格差を是正したいからなのです。
公明党の役割は果てしなく大きい
こうした問題意識を佐々木議員、竹谷議員にお伝えしたところ、23年6月に公明党女性委員会での勉強会を開催させていただきました。オンラインの開催で全国各地の地方議員の方々を中心に多くの公明党議員が参加されたようです。すると、勉強会の後から、千葉や埼玉、沼津、尾道、帯広……と全国各地で公明党の議員の方が動いてくださったとの報せが届くようになりました。
私たちのほうから担当の地方議員を紹介してもらい、事前に打ち合わせして議会質問を行った地域もあります。それ以外にも、ある自治体では一般質問をしたり、別の自治体では予算委員会で質問したり、市へのヒアリングをした議員もいたり……と。学校図書館の実態調査や予算措置のために、各地の公明党の地方議員の方々が自分の持ち場で草の根的に動いてくださっていたのです。
予算に関わることですので、多くはすぐに結果が出るものではありません。それでも既に「図書購入の予算が200万円上がった」「倍増した」という自治体が出てきています。ですから今度は、草の根的に動いてくださったケースを含めて、もう一度全国の公明党議員の皆さんと勉強会を開きたいと考えています。地域ごとの課題の違いや各議員の取り組みを集約して学び直し、次のステップにつなげていきたいのです。
私が未来読書研究所を立ち上げてから20数年間、変わってこなかった問題が一気に進展しています。「子どもたちに本を届ける」という点から言えば、今回、公明党の皆さんに担っていただいた役割は果てしなく大きいと感じています。これからも読書を通じた人づくりという考え方を共有しながら、ぜひ一緒に取り組んでいただきたいと考えています。
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未来読書研究所代表
田口幹人(たぐち・みきと)
1973年岩手県生まれ。「第一書店」勤務を経て、実家の「まりや書店」を継ぐ。同店を閉じた後、「さわや書店」に入社、同社フェザン店統括店長に。2019年に退社、合同会社「未来読書研究所」の共同代表に。NPO法人「読書の時間」理事長も務める。著書に『まちの本屋』などがある。