【潮12月号の読みどころ】民衆こそ王者――池田大作とその時代

一生忘れないよ 沖縄で３万人の文化祭が開かれた時のことである。沖縄県知事の西銘順治、元知事の屋良朝苗らをはじめ来賓は4500人。琉球放送でもテレビ放映された。「私たちは人文字の皆さんのそばの席に座っていました。文化祭が終わった後、壮年、男子部の5人で恩納村の沖縄研修道場へ向かいました」（中嶋瞳） 嘉手納（かでな）でバスを乗り換え、谷茶（たんちゃ）の丘のバス停で降りた。沖縄研修道場は、米軍の「核ミサイルメースB基地」跡地に立つ。広島に落とされた原爆の約70倍の威力を持つメースB。その発射台は取り壊さず、池田の提案で、「世界平和の碑」として活用されることになる。あいにく池田は他の会合に出ていた。5人は夜の勤行をして帰ることにした。勤行の最中、与論の有志が来ている報告を受けた池田から、待っている、という一報が届いた。 研修道場の中に、喫茶コーナーが設けられられていた。池田は与論の5人を迎え、「学校の先生かい？」と尋ねた。5人はそれぞれ「いえ、役場です」「飲料水の販売です」「保育園の先生です」「ドライブブインを経営しています」「役場です」と答えた。 与論島には川がない。水道の設備は。人口は。飛行機は。ここまで何時間かかるか。奄美大島から与論島までは何時間か……懇談で池田はさまざまなことを尋ねた。はきはきと応じる様子に「立派だ。こんな立派な男子部がいたのか。与論の五軍師だな」「あとで与論の広布のために勤行しよう」。中嶋が「先生を与論にお迎えするには、どうしたらいいでしょうか」と質問すると〝これまでの倍の戦いを〟と明快な指針を語った。しばらく激励が続いた後、食事をゆっくり食べるよう言い残して外に出た。 ――小さな島だが、支部をつくることができた。その喜びと感謝を伝えに来たのだが、逆にここまで歓迎されるとは想像していなかった。5人は食事もそこそこに外へ出た。「池田先生は幹部の方々と、ミサイルの発射台跡を見上げながら、ブロンズ像を置く構想を語り合っておられるようでした。そして私たちを振り返って、『もう食べたの？』と言われたのです」 中嶋は「あの一言を聞いた時……」と言って、しばらく言葉を詰まらせた。「日本と世界を舞台に駆け回っている指導者が、あんなに激励してくださったうえに、そんなことにまで心遣いをされるのか、と。いま思い出しても胸がいっぱいになります」。建設の中に戻ってからも、励ましは続いた。野田俊成は「仏間で一緒に勤行した後、『きょうは彼岸だから、全員の先祖の回向をしました』と。さらにピアノを弾かれました。『春が来た』『うれしいひな祭り』『荒城の月』など8曲でした。最後に弾かれたのは『熱原の三烈士』でした」と述懐する。「別れ際に1人ずつに握手されたのですが、5人それぞれに違う言葉をかけられました。私には、じっと目を見つめて『お題目だよ』と。あの一言がぼくの人生の原点です」（野田俊成）「私は君たちのことを一生忘れないよ」。池田はそう言って5人と別れた。帰途に就く5人を、スタッフの1人が追いかけてきた。大成功で終わったばかりの文化祭で、池田が背広につけていた胸章を「与論の男子部の部長に」との伝言だった。その場で元井の胸に大きな勲章がつけられた。 5人のうちの1人、向井豊は2001年に亡くなった。池田の提案で、桜が植えられた。場所は――恩納村の沖縄研修道場だった。4人は再び池田との出会いの場所に赴き、桜を囲んで題目を唱えた。「君たちのことを一生忘れないよ」という一言の重みを、それぞれが感じた。この5人の中から、3人の支部長が誕生した。（P.153-156） 手漕ぎ船に乗って 法華経を信ずる人は 冬のごとし。 冬は必ず春となる。（御書1253㌻、新1696㌻） 与論から40キロほど北東の沖永良部島――今年90歳になる山下利子は、40年以上、聖教新聞を配達してきた。和泊（わどまり）町の自宅に、池田がこの一節を綴った色紙が大切に飾ってある。「朝、池田先生に『これから配達させていただきます』と挨拶して、配った後は『終わりました』と。池田先生は逝去されたけれど、毎日、先生と対話しているので寂しくないです」 沖永良部で最初の学会員は中山昌高だった。1954年、大阪で信心を始めた。奄美大島のすぐ南にある加計呂麻島では、茂野弥三郎が折伏を始めた。彼も大阪で日蓮仏法に巡りあった。「最南端を守る」と題する手記に、南極の捕鯨船で働くことを夢見て、水産大学を目指したが、重い結核に苦しんだ青春の日々を綴っている。大阪に住む姉から呼ばれ、府内の病院で療養した。その姉が創価学会員だった。折伏され、〈すべてを科学にたよろうとする当時の自分には納得できず〉、悩んだ。しかし、〈……たどるところは学会の座談会場であった〉。「不思議にも1カ月でバリバリの健康体になってねえ。よーしと、（昭和）31年に勇んで島へ戻った。弟と2人で折伏やりだしたんです」と語り残している。「父は『大阪での池田先生の戦いがすごかった』と話していました」と次男の大志は述懐する。「『ここ（大阪の病院）にいたら故郷が遅れてしまうから、帰ってきて折伏を始めた』と。池田が大阪で初めて御書を講義したのは1954年9月である。〈教学の浸透を第一歩〉に定め、池田が起こした弘教の大波は、奄美の島々の岸辺にも達していった。〈奄美大島の南には加計呂麻島があり、さらに、その南方に与路島や請島がある。草創期、与路島の同志は、加計呂麻島や請島へは、手漕ぎ舟で弘教に通った。また、奄美大島の古仁屋（こにや）で開かれる会合に、手漕ぎ舟に乗って出かけた。4、5人が同乗し、数時間がかりで海を渡っていくのだ。皆、雨合羽を着て乗り込むが、波が高ければ、水しぶきで服は水浸しになる。舟を漕ぐ腕は痛み、体は疲れ果てる。しかし、「ひと漕ぎするたびに宿命転換に近づく」と、励まし合い、荒波を越えていった。自分たちを運ぶために、自分たちで漕ぐことから、〝お客なし舟〟と言って笑い合った〉（P.160-162） 背骨に鋼鉄の「筋金」を入れた人材に 2回目の衛星中継では、非暴力の闘士ガンジーの戦いに触れた。「……ある伝記作家は、当時のインドの大衆について、こう書いた。『彼らはガンジーに敬意を払ったが、その教えは拒絶した。ガンジーの体は神聖に保ったが、彼の人格を冒瀆した。殻は賛美したが、中身は踏み潰した。彼を信頼したが、彼の主義には信頼を寄せなかった』と。 学会も、いかに発展しても、広宣流布への真実の『精神』を失っては、何にもならない。形ではない。中身である。正法の『魂』である。どこをとっても、みずみずしい『学会精神』が、強く清らかに流れている。脈打っている。そうした『本物の学会』を『本物の同志』の手で、いよいよ立派につくり上げ、広げていかねばならない。そして未来永劫に、一切の悪の侵略や支配、抑圧を許してはならない。それらから大聖人の仏法を、また牧口先生、戸田先生の精神を守りぬいていってこそ、真実の学会である。 インドは、なぜ独立できたのか？ 複雑ないきさつや議論は、時間の都合もあり、本日は省かせていただく。その本質の一点のみふれておきたい。初代の首相ネルーは、言った。『ガンジーはわれわれの姿勢を正し、背骨に筋金を入れた』と。背にまっすぐ筋金を入れ、胸を張り、立ち上がった民衆。卑屈にかがめた背中には、侵略者らもやすやすと乗ることができた。しかし、もはやそうはいかなかった。 今、私も学会員の皆さんが、背骨に鋼鉄の『筋金』を入れた人材に育ってほしいと願っている。これが、現在の私の眼目の作業である。そのためには、私は妥協もしない。何ものも恐れないし、屈しない。卑劣な策謀等にも目もくれない。純粋にして、強靭なる金剛のごとき『学会精神』をきざんだ、骨格太き『勇者』を厳としてつくり、厳として残していく。それこそが、広宣流布の〝死命を制する″最重要事であるからだ。」（P.176-177）

【潮12月号の読みどころ】民衆こそ王者――池田大作とその時代

連載ドキュメンタリー企画　
民衆こそ王者――池田大作とその時代　「魂の独立宣言」篇（5）

こちらの記事も読まれています

【潮プラス特別企画】日本政治の今と、公明党の使命

民衆こそ王者――池田大作とその時代　〈識者の声〉一覧

月刊『潮』が見た60年　年代別一覧

【潮12月号の読みどころ】民衆こそ王者――池田大作とその時代

連載ドキュメンタリー企画 民衆こそ王者――池田大作とその時代 「魂の独立宣言」篇（5）

こちらの記事も読まれています

【潮プラス 特別企画】日本政治の今と、公明党の使命

民衆こそ王者――池田大作とその時代 〈識者の声〉一覧

月刊『潮』が見た60年 年代別一覧

連載ドキュメンタリー企画　
民衆こそ王者――池田大作とその時代　「魂の独立宣言」篇（5）

【潮プラス特別企画】日本政治の今と、公明党の使命

民衆こそ王者――池田大作とその時代　〈識者の声〉一覧

月刊『潮』が見た60年　年代別一覧