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イケディアンの誇りを胸に世界へ!(インド・創価池田女子大学ミーラ・ムルゲサン学長)

 今年9月、インド・創価池田女子大学のミーラ・ムルゲサン学長一行が来日した。同大学は、インド南東部の都市チェンナイに2000年に開学。70名の学生と6名の教職員からスタートした。25年の歩みを経て、現在では17学部、約1300人の学部生・大学院生が学ぶ教育機関に発展している。今回が初来日となる学長に、同大学が目指す女性教育の意義を聞いた。
(『パンプキン』2024年12月号より抜粋。取材・文=鳥飼新市 写真=雨宮 薫)

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創価大学を訪れたミーラ・ムルゲサン学長

 我が大学でも卒業生の名を銘板に刻みたい

 毎日、朝夕の2回、創価池田女子大学は学生たちと全教職員による「母」の曲の合唱に包まれる。

「インドの学校では毎朝の朝礼で祈りの歌や言葉を唱和する習慣があります。私たちの大学では池田大作先生の『母』以外に考えられません。『母』の詩が開学のきっかけになったのですから」

 ムルゲサン学長は同大学の名誉創立者である池田名誉会長のことを敬意と親しみを込めて、池田「センセイ」と呼ぶ。

「母は穏やかな心の象徴です。直接、平和につながる心です。『母』の曲を歌うことで、平和な心に満ちた爽快な気持ちで一日をスタートし、一日を締めくくるのです。そのことで常に母への思い、平和の意志、そして建学の精神を全員で再確認し共有しています」

 学長の今回の来日の最大の目的は、同じ〝建学の精神〞を共有する創価学園・創価大学の訪問にあった。訪問の感想を聞くと、
「学生と教員の絆が強く、とても大きなインパクトを受けました」
 と、話す。学生たちの元気な歓迎に驚いたのだ。

「学生たちが、大らかな広々とした心で、伸び伸びと自由に学んでいることがよくわかりました。その中で人間性も培われていくのだと思います」

 何人かの卒業生とも会った。みんな仲よく、何年経っても母校を忘れず、母校に恩返ししたいという気持ちにあふれていたことに感銘を受けたそうだ。

 特に強く印象に残ったのが、全卒業生の名前を刻んだ銘板だったという。

「1期生からの卒業生の名前が、各期ごとに刻まれていました。卒業生たちがこの銘板を見て、また決意を新たに出発する。こんなに素晴らしい伝統はないだろうと非常に感動しました」

 帰国したら、すぐにでも卒業生の銘板製作に着手したい。そんな勢いで、学長は話すのだった。創立から25年。すでに創価池田女子大学の卒業生は7000人になろうとしている。


大切なことは常に学び続けること

 ムルゲサン学長は、創価池田女子大学開学時の教員の一人である。設立準備から大学建設に関わってきた。同大学の創立に尽力したクマナン議長との出会いが、人生の転機になった。

「私の専門は生化学です。他大学で教鞭を執っていたのですが、クマナン議長が語る池田先生の教育思想や〝慈愛・献身・無私の奉仕〞という創立の理念、何より創価教育の精神に則った女子大学をインドでもつくりたいという議長の熱い思いに共感したのです。このとき私は、生涯、教育者としての道を歩もうと心に誓いました」

 学長は、クマナン議長を通して池田名誉会長とその思想を知ったのだった。

「創価教育の精神とは、人間としていかに生きるべきかという〝価値創造〞の精神です。私たちは、本学を学問の探求だけではなく、人生のうえで直面する課題や困難と向き合い、乗り越こえていくために必要な正しい価値観を培う人間教育の最高学府にしたいと挑戦を続けてきました。クマナン議長を師匠と仰ぐ私にとって、池田先生は偉大な師匠の師匠でもあるのです」

 池田思想が革命的だと思った点は二つだ、と言う。一つは教育や対話の力によって平和を実現できるという強い確信である。

「そこにしか確かな平和の道はないと、その平和思想に衝撃を受けたのです」

 もう一つは、教育こそが女性の最大のエンパワーメント、すなわち女性のもつ力を最大に引き出す力になっていくと常に強調している点だ、と話す。

「池田先生は、女性教育こそが人類の未来を決定づける大きな力であるとおっしゃっています。だから私も、学生たちにいちばん大切なことは常に学び続けることだと話しているのです。大学を卒業してからも生涯学び続けてほしいと強調しています」

 

「学生第一」が最も大切なモットー

 ムルゲサン学長は、勤勉な父と子ども思いの愛情深い母のもとで育った。そんな両親の献身的な生き方から「飽くなき向上心」を学んだという。

 しかしインドでは、まだまだ男尊女卑の思想が根深く、農村部では女性の識字率が65%と、女性が教育を受けることに抵抗を示めす人も少なくない。同大学でも、家族からの理解が得られず、学問を断念せざるを得ない学生もいる。

 開学当初、クマナン議長やムルゲサン学長は、そうした家庭に出向き、粘り強く女性教育の重要性を訴え続けた。時には、クマナン議長が私財を投じて貧しい家庭の子どもの進学を支援することもあるそうだ。

 このことからもわかるように、教職員全員が学生を最優先に考える「学生第一」が、最も大切にしているモットーなのだという。

「教員は学生を我が子以上に慈しみ、大切にしています。学生も教員を慕ってくれています。こうした家庭的な雰囲気、絆こそが、学生第一のモットーの表れであり、本学の教育の真髄であるとも考えているのです」

 同大学は地域に開かれた大学でもある。学生や卒業生たちは自らが学ぶだけではなく、社会貢献の一環として地域の学校に行き、出張授業も行っている。大学で学んだ精神や価値観を地域にも役立てようと、子どもたちを育んでいるのである。

 それは同時に女性教育への偏見を打ち破る力になり、教え子の中から同大学に進学する若者も生まれているのだ。

 

「イケディアン」とは他者に貢献できる人

 創価池田女子大学で学んだ女性たちは自らを池田名誉会長の思想を実践する「イケディアン」と誇り高く呼ぶ。

 クマナン議長は、「イケディアン」とは、何より〝幸福な人〞のことだと語っている。彼女たちが目指す「イケディアン」とは、どんな女性像だろうか。

 「私は、本学での学びを他者のために役立てられる人、他者に貢献する人生を歩んでいける人になってほしいのです。自分の夢や目標に向かって歩みながらも、世の中で起こっている出来事に無関心にならず、利他の心、慈愛の心をもってよりよい世界を実現するために行動をする。それが『イケディアン』が目指す使命だと思っています」

 ムルゲサン学長は、そう言う。そして、そうした女性を育てることに同大学の使命もある、と語るのだった。

「すべての人は等しく教育を受ける権利があります。教育によって自分の力を最大限に引き出し、発揮する機会を得ることができるのです。ただ、ガンジーも言うように、男性と比べて女性の場合は教育の恩恵が家族全体、社会全体に広がっていきます。その意味で女性に豊かな教育の機会を与えることが、家庭や地域、やがて社会を変える大きな力になるのです」

 その自覚に立つからこそ、「さまざまな困難を抱えながらも勉学の道を貫き通す学生が多いのです」と、学長は話す。

 たとえば、夫の理解が得られず卒業まで学び続けることが厳しくなった学生がいた。彼女は教員と友人たちの励ましに力づけられて困難に挑み続け、ついに卒業を勝ち取ったという。その後も学問を続け科学者になり、今はアメリカで活躍しているそうだ。

 また別の学生も、家族から高等教育を受ける許しを得ることが難しい環境の中で粘り強く挑戦を続けて入学。創価大学への交換留学プログラムを勝ち取ったという。日本で大学院まで進んだのだった。

「この2人のように、本学では家族や一族の中で高等教育を受ける初めての女性となる学生が大半です。しかし、彼女たちが巣立ったあとの社会での働きぶりや存在によって、インド社会も女性教育の重要性に対する理解を深めているのです」

 これまで同大学では、弁護士や、ITエンジニア、科学者、スポーツ選手など多彩な人材を輩出している。就職率が非常に高いことも自慢だという。

 インドの地で多くの「イケディアン」の活躍が輝いている。

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ミーラ・ムルゲサン学長
インド、タミル・ナドゥ州タンジャーヴール生まれ。1989年マドラス大学卒業。91年同大学より理学修士号、93年研究修士号を取得(生化学)。2021年MGR教育研究機関より博士号取得(人文科学)。専門は臨床生理学、医化学。27年間、生化学分野で教鞭を執る。教員として2000年のインド・創価池田女子大学の開学を支え、同大学生化学部長、副学長を歴任。2023年6月より現職。

 

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