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上手な「言い換え」で円滑なおつきあい

何気なく使った言葉なのに、相手を傷つけたり、誤解を生んだりすることがよくあります。そんな気をつけたい言葉を上手に「言い換える」ことで、人間関係がグンと改善できる、そんな言葉を紹介します。
(月刊『パンプキン』2025年1月号より転載。取材・文=長野 修)

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「言い換え」の大切さ

「あの人とはどうも反りが合わない」「うちの上司は苦手」など、職場や地域における悩みごとの多くは、人間関係に関するものです。それを大きく左右するのは、言葉。何気ない一言が相手を傷つけたり誤解を生んだりすることで、人間関係が壊れることさえあります。

自分の意思をはっきりと言葉で伝える文化のある欧米とは異なり、私たち日本人が育ってきた「察する」文化の中では、言わなくても相手はわかってくれるだろうとか、あいまいな言い方でも伝わるだろうと思うことがあります。しかし、それこそが、すれちがいや誤解を生む原因となることが多いのです。そのようなリスクを含む言葉を別の言葉に「言い換える」ことで、誤解を防ぎ、円滑なコミュニケーションができるようになります。

手前味噌で恐縮ですが、拙著『よけいなひと言を好かれるセリフに変える 言いかえ図鑑』が好評をいただいております。その中で取り上げたセリフの「言い換え」を実践することで、周囲との人間関係が改善されたとか、会話が増えたというような喜びの声がたくさん寄せられています。日常生活の中で何気なく使っている自分の「言い方の癖」を少し変えるだけで、人間関係は大きく変わる可能性を秘めているのです。

大きく分けてポイントは三つ

1.ネガティブ表現からプラスの表現に

たとえば、試験など大事なことに臨む相手に対して、がんばってほしいという思いから「失敗しないようにがんばってね」と励ますよりも、「成功するように祈っているね」と言うほうが、相手の気持ちは前向きになります。ネガティブ表現には、相手を心配する気持ちが含まれていることも理解できますが、より前向きな言葉を使ったほうが、自分も相手も気持ちがよいものです。

2.否定形ではなく肯定形で話す

これは、「○○しないでね」と否定形を使うのではなく、「○○してね」と肯定的な言葉を使うのです。

たとえば、「約束忘れないでよ」と言うと、自分が信用されていないような印象を与えるので、「約束覚えていてね」と言いましょう。ほかにも、たとえば、「ご存じないと思いますが」という言い方は、相手を見下したような印象を与えるので「ご存じかもしれませんが」という言い方に変えましょう。否定形は、極力使用しないことが大切です。

3.あいまいな表現から具体的な表現に

たとえば、「ちゃんとやってください」と言われても、言われたほうは何をどうしていいのかわからず混乱します。また、「できれば早めにお願いします」と言われてしまうと、各人の時間感覚の違いによって締め切り時期が異なってしまい、トラブルの原因となります。こうした場合は、「○○までにお願いします」と具体的に言いましょう。あいまいな表現は、ビジネスの現場ではトラブルのもと。特に指示や注意は、具体的に明言することが大事です。

どうすれば言い換えが身につくか。まずは、自分が使いがちなよくない言葉をいくつかピックアップして、よりよい言い方に言い換える練習を意識的に行うことです。その積み重ねの中で、徐々に言い方が変わっていきます。

「言い換え」を実践してみよう!

日常生活で使いがちなよくない言い方をピックアップし、その「言い換え」を学んで、実践しましょう! 言い換え方を大野さんに教えていただきました。

つまらない物ですが→気持ちばかりですが

贈答品を渡すときなどによく使う「つまらない物ですが」という言い方はネガティブ表現。謙遜した言い方として使う人が多いですが、受け取った側の心情は複雑です。こういう場合は「気持ちばかりですが」とか「おいしいから買ってきました」などと、ポジティブな言い方に変えたほうが、受け取るほうも贈るほうも気持ちがよいものです。

大丈夫です→わかりました/できません

「大丈夫」という言葉は、もともと「わかりました」「できます」という意味で使われることが一般的でしたが、最近は「いりません」とか「できません」といった断り文句として使われるケースが増えてきました。誤解やトラブルのもととなるので、できるときには「わかりました」、できないときには「できません」とはっきり答えましょう。

仕事はうまくいっているの?→最近どう?

これは、「はい」か「いいえ」の答えしか返せない、いわゆるクローズドクエスチョン( 閉ざされた質問)といわれているもので、相手を追い詰めてしまうデリカシーのない聞き方です。相手の状況や状態を聞きたい場合には、話したいことを相手が選択できる「どう?」というオープンクエスチョン(開かれた質問)で聞きましょう。

噓でしょう?→本当ですか?

驚くような話を聞いたときに、「噓でしょう?」と思わず言いますが、よく考えてみれば、これは相手の言うことを否定しています。何度もこの言葉を繰り返されると、相手は話を続ける気がうせてしまうでしょう。「本当ですか?」と肯定的な聞き方をすることで、「本当なんです。それでね……」と話を続けやすくなります。

これ、なんとかしてよ→○○の部分がわかりにくいから、変えてください

こうした上司からの漠然とした指示や命令は、言わばむちゃぶりです。具体的な指示がないので、部下が何度やり直しても上司の意にかなうことができず、パワハラにもつながりかねません。指示というものは、「この部分をこうしてほしい」「ここをこういうふうに変えてほしい」と具体的に言わなければならないのです。

検討します→検討して来週中にお返事します

「検討します」は、やんわりと断るための社交辞令として使う場合と、前向きに検討したいときに使う、二つのケースがありますが、これが混同されて使用されるために、誤解やトラブルが生じます。社交辞令はやめ、断る場合は「今は難しいです」と答え、前向きに検討する場合は「来週中にお返事します」など具体的に答えましょう。

初対面の人・久しぶりの人と会う場合
初対面の人とのコミュニケーションの仕方は、それがどういう集まりなのか、どういう背景なのかによって異なりますが、相手との距離の詰め方は急がないほうがよいです。会っていきなりなれなれしくするのは、何か裏があるのではないかと思われてしまい、逆効果。また、いきなり「ご主人のお仕事は?」などとプライベートの話に踏み込こむことも避けましょう。自分が聞きたいことは先に自分のほうから開示して、もし相手が乗ってこなかったら、その話題は嫌なのだと判断できます。

数十年ぶりに友人と会う場合は、特別親しかった幼なじみは別として、いきなり昔のようなタメ口で接するのも避けたほうがよいと思います。年月の経過と共に相手の価値観も変わっているかもしれないからです。時間の経過と共に気持ちがほぐれれば、少しずつ昔の感覚で話すようにすればよいと思います。

 

なぜ○○してくれなかったの?→○○してほしかった

「なぜやってくれないの?」とか「何度同じことを言わせるの?」という言い方は、"質問形"で相手を問い詰めながら責める言い方です。こういうときは、「○○してほしかった」と、"自分は"どうしてほしかったのかを伝える"アイメッセージ"で気持ちを伝えましょう。そうすれば、相手は素直に返事がしやすくなります。

そんなことないですよ→ありがとうございます

日本人は謙遜を美徳とします。「かわいいですね」「すごいですね」などと褒められたときに「そんなことないですよ」とか「全然駄目ですよ」と言いがちですが、謙遜も度を越すと嫌みに聞こえます。こういう場合は素直に「ありがとうございます」と言い、そのうえで「○○のおかげです」と感謝すると感じがよくなります。

勉強しなさい→勉強しよう

子どものいる家庭ではよく出てくるセリフですが、このセリフでやる気を出して勉強する子はほとんどいません。親の「 押しつけ」は、子どものやる気をそいでしまいます。「押しつけ」ではなく後ろから背中を押すような「○○しよう」に変えましょう。ポイントは、親自身が自分の仕事などに子どもと一緒に取りかかることです。


それでいいんじゃない→いいですね

「それでいいんじゃない」と「いいですね」は、一見両方とも相手を肯定しているように思えますが、実際に言われるとまったく違う感じがします。「それでいいんじゃない」は、「まあ、その程度でもいいけれど」という投げやりなニュアンスが含まれています。相手を褒めるときは、「いいですね!」とストレートに言うことが大切です。

寒いので風邪などひかないように気をつけて→寒さに負けず元気でお過ごしください

年末年始のあいさつについてふれておきます。この時期のあいさつとしてよく使うのが「寒いので風邪などひかないように気をつけてください」というセリフ。相手の健康を気遣うあいさつなので悪くはないのですが、少しネガティブ表現です。もう少しポジティブに「寒さに負けず元気でお過ごしください」と言ったほうがより明るくなります。

今年もいろいろご迷惑をおかけして申し訳わけありませんでした→今年もいろいろ助けていただき心より感謝しています

年末のお礼をするときに、「今年もいろいろご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。これに懲りず来年もよろしくお願いいたします」などと言う場合がありますが、過度な謙遜は卑屈な印象を与えます。「今年もいろいろ助けていただき心より感謝しています。来年も変わらずおつきあい願います」と前向きなあいさつにしましょう。

今年は嫌なことから解放されるといいですね→今年は楽しいことがたくさんあるといいですね

いろんな困難や問題に苦しんできた相手をねぎらうつもりであいさつしているのだと思いますが、これもネガティブ表現で、つらかったことを引きずるようなイメージがあります。この場合は、ポジティブに「今年は楽しいことがたくさんあるといいですね」と言ったほうが、未来に対して前向きな気持ちをかき立ててくれるはずです。

日常会話とは異なる書き言葉の注意点
話し言葉の口語体と書き言葉の文語体は異なる言葉ですが、SNSの普及によってその境界があいまいになり、礼儀から外れたような印象を与えることがよくあります。書き言葉では、話し言葉で用いる「やっぱり」「ちょっと」などの促音は避け、「やはり」「少し」という言葉に変えましょう。また、「ラ抜き言葉」もふさわしくありません。

なお、メールで文章を書く場合には、過度に丁寧である必要もないし、かと言って簡素すぎてもいけません。たとえば、初対面の相手に対して「突然メールをお送りして大変申し訳ございません」とあいさつをしがちですが、「突然のメールで失礼します」程度のシンプルさでよいと思います。逆に、朝一番のチャットでいきなり「この件どうなっていますか」と言うのも失礼ですから、「おはようございます」など簡単なあいさつを冒頭に入れるのがよいですね。

 


教えていただいた方は…
大野萌子(おおの・もえこ)さん
一般社団法人日本メンタルアップ支援機構代表理事、公認心理師、産業カウンセラー。企業内カウンセラーの長年の経験を生かした、人間関係改善スキルを得意とする。コミュニケーションの行動変容に関する研修を、内閣府をはじめ、大手企業などで6万人以上に実施。著書は『よけいなひと言を好かれるセリフに変える 言いかえ図鑑』など多数。