月刊『潮』が見た60年 2001-2005
2023/03/31新大久保駅に散ったわが息子よ!
辛潤賛(故・李秀賢氏の母)
秀賢はいつも私たちに、『韓国と日本の架け橋になりたい』と言っていました。正義感の強い子で、ホームから落ちた人を見ていられなかったのでしょう。たとえ少しでも息子の願いが叶えられたのかもしれないと感じたのは、ここ(留学先の日本語学校)で行われた通夜と告別式のときです。たくさんの方が参列してくれましたが、私は息子の知人や友人だとばかり思っていたのに、実は見ず知らずの方たちが大勢来てくださっていたのです。しかも初めてお会いする日本の人たちが、「あなたの息子さんの勇気に感動した」「日本人の一人として本当に申し訳ない」と、あの子の死を心から悼んでくださいました。秀賢がどんなに日本を愛し、日本人に愛されていたか、それを思うと涙が止まりません。(『潮』2001年4月号より抜粋)
アフガン空爆はまだ続いている
中村 哲(ペシャワール会医療サービス院長)
ニューヨークのテロで亡くなった人たちへの追悼は世界中で行われている。しかし、アフガニスタンへの空爆で亡くなった人々に対する哀悼がどこかの国で行われたという話は聞かない。飢えをかかえながら、空爆下を逃げ惑い、肉親を亡くした多くの人たちが、テロリスト予備軍にならないという保証はどこにもないのである。アフガニスタンというのは、もともと統一された行政機関が全国をきっちり管理するというスタイルの国ではなかった。いわば地域地域で地方自治が確立されており、そのうえに一応、統治者らしきものが君臨していたにすぎない。いま行われている援助というのは、そういう国に日本や欧米諸国のようなモデルをつくろうとする試みだといえる。現地から見れば、壮大かつ愚かな作業である。/その意味では、いま行われている復興支援も本質的には空爆とそう変わらない。(『潮』2002年7月号より抜粋)
耕一、ノーベル賞おめでとう
田中春江(化学者・田中耕一氏の母)
耕一がノーベル賞をもらったことは、最初テレビのニュースで知りました。「田中耕一」という名前が出たので、同じ名前の人だと思うとったら、本人から電話があったんです。私はもうびっくりして、「ほんとけ」といっただけでした。/小さいころの耕一は、とくに目立つようなことは何もない子供でしたね。/成績は、飛び抜けていいのもなければ、飛び抜けて悪いのもなかったと思います。/とくに変人だとも思わなかったけど、凝り性だったから、一途なところがあったんかもしれない。なんか集中すると、二つ用事があったら、まず一つ忘れてきたりとかね。(『潮』2002年12月号より抜粋)
中国は日本の美術の「恩人」です
平山郁夫(東京藝術大学学長・日本画家)
ヨーロッパに留学したときにハタと気がついたのは、先輩もみんなヨーロッパに留学したわけですが、文化のあまりの違いに絶望して国粋主義になる人と、逆に無国籍主義者になる人の二派に分かれるんですね。なぜかというと、日本人は「分母」も「分子」も皆日本で判断しているんです。けれども、私は仏教美術を勉強したおかげで、東洋というものが「分母」にあって、日本はその「分子」であるという考え方を持っていましたから、イタリアのルネサンスがすごいといっても、それは全ヨーロッパという「分母」の上の「分子」であって、そう考えれば、日本は分相応によくやっている─、そう思ったわけです。(『潮』2003年1月号より抜粋)
※文芸評論家・作家の加藤周一氏との対談のなかで。
「アメリカ帝国」の野望と無謀
寺島実郎(三井物産戦略研究所所長)
イラク攻撃は何ゆえに不条理であり不必要なのか。私たちはまず第一に、この戦争を正当化するためのアメリカの論理が大きく変化してきていることに気づかなければならない。というのは、「9月11日テロ事件」が起きたとき、アメリカがキーワードにしたのは「テロとの戦い」であった。その標的がオサマ・ビンラディンであり、アルカイダであり、タリバンであり、アフガン攻撃であった。イラク攻撃のシナリオもその延長線上にあったわけである。しかしイラクについては、過日のパウエル国務長官の国連での報告を含めて、「9月11日テロ事件」への直接的な関与は今日に至るまで検証されていない。ところが、そのうちに「テロとの戦いとしてのイラク攻撃」ということがいわれなくなり、いつの間にか「大量破壊兵器」という言葉がキーワードになって、湾岸戦争の際の大量破壊兵器廃棄に関する国連決議に違反しているということを理由に、イラクを攻撃するという話になってしまった。(『潮』2003年4月号より抜粋)
・肩書は基本的に掲載当時のものです。また、一部敬称を略しています。
・一部、現在では不適切な表現がありますが、時代背景を尊重し、そのまま引用しています。
・一部、中略した箇所は/で表記しています。
・表記については、編集部で現在の基準に変更、ルビを適宜振り、句読点を補った箇所があります。