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〝宗教二世問題〟と子どもの権利(下)

 2023年4月、いよいよ「こども家庭庁」が発足。日本の子ども政策の大きな転換点を迎えました。子どもたちの明るい未来を考えるうえで、大切な視野とは。「子どもの声をどう政治に反映させるか――。宗教二世問題と子どもの権利について」(末冨芳氏)を転載します。(『潮』2022年11月号より、全2回の2回目)

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宗教二世をどう支援すべきか

 現在メディアを賑わせている〝宗教二世〟の問題と子どもの権利の関わりについても述べておきたいと思います。大前提として、旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)のケースは宗教の問題ではなく、カルト(反社会的な集団・組織)の問題です。憲法に保障される信教の自由は、子どもの権利と同様に絶対に守らなければなりません。そのうえで、子どもの権利を守る観点から考えれば、カルト教団の二世は今のところ誰かに相談できる環境にないことが一番の問題です。

 あまり知られていませんが、宗教活動において、子どもたちに対する暴カ・断食などの虐待行為やネグレクト(育児放棄)、不登校の強制、宗教儀礼の強要など、家庭内で明らかな人権侵害が行われている場合、その子どもは児童相談所が扱う案件として、直ちに保護対象になります。

カルト教団における宗教二世問題は、当事者が相談さえできれば大半のことは虐待認定ができ、既存の社会的養護の仕組みに繋げることができるのです。実際にオウム真理教や幸福会ヤマギシ会におけるケースでは、虐待が告発され、自治体や児童相談所が対応した例があります。

 今回事件を起こした山上徹也容疑者は、大学への進学を諦めざるを得なかったと報道されています。子どもの進学先を制限することは虐待に当たります。もし彼が、高等教育無償化の恩恵が受けられる世代であったならば、と胸が痛みました。普通に学んで、友だちをつくりたいという子どもたちの切実な願いに寄り添う政策が何より大切です。

今後は、公明党が推進した教育無償化の適用を広げていくことはもちろん、虐待認定できない微妙なケースについては、子どもの権利侵害を監視する子どもコミッショナー・オンブズパーソンの創設、あるいはピアサポート(同じような悩みをもつ人たち同士で相談したり、支え合ったりする活動)の体制構築も検討すべきだと思います。

 宗教二世の権利を守るという点でも、旧統一教会の問題について、本質を見誤った人たちの暴論は決して看過できません。じつは、「こども家庭庁」という名称を無理矢理に旧統一教会に結びつけ、教団の意思が政治に反映されたとの批判をする人が少なくないのです。子どもと家庭を社会全体で支えるために議論を重ねてきた人々の努力を知ろうともせず、イメージだけで無責任に騒ぎ立てる言動は非常に残念です。

 

宗教へのバッシングは筋違いの議論

 あろうことかカルトの問題を宗教の問題とはき違え、創価学会を支持母体とする公明党へのバッシングが起きていることには憤りすら覚えます。憲法や国内法を蔑ろにし、自らに都合の良い主張だけを繰り返す反社会的団体と、憲法や国内法を遵守して対話を推進する団体とを同等に扱うのは、まったく筋違いです。道路を逆走する車と、交通ルールを守って走行する車ほどの違いがあると言えばわかりやすいでしょうか。

 先にも述べましたが、公明党は一貫して弱い立場の人に寄り添い、声なき人たちの人権をこの国の政治の中に位置づけてきました。今回のような、結果として社会的弱者の人権を蹂躙するような団体とは、まさに正反対の存在です。

さらに政教分離の観点から同党を批判する人がいますが、憲法20条に則り、誰よりもその原則に真摯に向き合い、国民への説明責任や透明性の担保に努めてきたのは公明党です。同党と創価学会は、選挙支援などの協議の様子について、公式サイトや機関紙などでつぶさに発表する公開原則を貫いています。この姿勢は、宗教団体から支持を受けるすべての政党が見習わなければなりません。政教分離に関して批判されるどころか、他政党の模範となっているのが公明党でしょう。

自民党はじめ、他の野党も宗教団体との協議内容を公開できるのか。個々の議員が旧統一教会と関係をもっていたこととは別に、各政党はこの点にも真剣に向き合っていただきたいと思います。

 問題の本質を見誤った宗教へのバッシングは、民主主義の理念や人類の文化を根本から否定することにも繋がります。欧州では現在も、キリスト教系の政党が多くの国民からの支持を集め、民主主義を牽引しています。日本では問題が起きるとなるべく話題にしない方向に流れがちですが、旧統一教会の問題は、宗教と政治の関係性などについて、真剣に語り合う良い機会だと思います。

若い世代からの意見や悩みも共有したり、信仰の重要性を改めて発信していくことも躊躇わずに行ってほしい。今回の事件をただの騒ぎで終わらせないためにも、より良い社会にしていこうとのスタンスを皆で共有することが、日本にとって重要な視点だと思っています。

 

〝宗教二世問題〟と子どもの権利(上)はコチラから

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教育学者、日本大学教授

末冨 芳(すえとみ・かおり)
1974年山口県生まれ。京都大学教育学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。博士(学術・神戸大学大学院)。専門は教育行政学、教育財政学。内閣府子どもの貧困に関する有識者会議構成員等を歴任。著書に『教育費の政治経済学』、共著に『子育て罰「親子に冷たい日本」を変えるには』など。