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スペシャルインタビュー 上野千鶴子さん 家族は波風を立てるから成長できる(上)

家族のつながりが苦しい、という声を上げる人が増えています。「家族だからわかり合える」という家族神話の一方、深刻な事件も。女性学の上野千鶴子さんは新聞紙上で母と娘や家族をめぐる悩みに回答し、愛のある明快なアドバイスが好評です。「家族の呪縛」を解くヒントを上野さんにお伺いしました。その一部を特別公開します。
(「パンプキン」20235月号より転載。取材・文=中島久美子 撮影=後藤さくら)

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「家族は仲がよいのが当たり前」「家族って素晴らしいもの」という考え方がまだ強い日本。ドラマやCMなどメディアの世界には理想化された家族の姿が映し出され、〝自分の家族は違う〟という「家族幻想」に悩む人もいる。

 〝家族は仲がいいもの〟と思い込まなくてもよい

「家族は(こうなりたいという)ロールモデルにも(こうなりたくないという)カウンターモデルにもなります。私は自分の親を見ながら、あまりに価値観が違うので、親子でなかったらお友だちにもならなかっただろうと思いましたよ。子どもは親を選べない。たとえばメディアの中にあるのは理想化された家族なので、現実より幻想の方が強いんです」

 上野さんの母親は団塊世代を産んだ親の世代で三世代同居の地方都市の長男の妻。開業医を営む夫と姑に葛藤を抱えながら仕えていた。だが子どもを支配、管理する毒親ではなかった。当時の母親は家父長制の重圧が強く、子どもに干渉する余裕がなかったという。

「家族が苦しいという声が多いのが、団塊世代を親に持つ女性。団塊世代の母親には毒親が多いのです。まずこの時代の高等教育の学歴格差はとても大きかった。大学進学率は男性で20%、女性で5%。女性の進学は親がお金をかけるかかけないかで、決まっていきました。その後、二男、三男と結婚した核家族の妻は、専業主婦の王国を築き、同時にそこに閉じ込められて、そのエネルギーは子どもに向けられました。そこで教育ママが生まれたわけです。自分が受けることができなかった教育を娘に期待する、代理戦争。〝達成要求の代理満足〟ですが、少子化の流れもあり、男の子だけでなく、女の子にも矛先が向かいました。娘たちが母の期待を背負うようになったのが、毒親の生まれる理由の一つですよね。私の母の世代は、私にお嫁さんになる以外の期待を持てませんでしたから」

 母親たちの生まれ育った時代と、子どもたちが生きる時代との価値観の違いが、悩みや葛藤を生むケースが多い。「価値観が違う親との付き合い方は、適度な距離を置くことですね。物理的にも、心理的にも。相手との境界を侵さないように」

 そして、子どもとの接し方をこう語る。「生まれ育つ時代がまったく違う子どもは、いってみれば宇宙人。宇宙人との暮らしを楽しめるか、ですよね。しかも自分が産んだ子どもだから、逃げ隠れできない。だから子どもを産んだ女友だちには〝今、人生長いから、あなたの人生を20年ぐらいつぶしてくれる、生きていく理由をくれる誰かがいて、本当によかったね〟と言っていますよ」

 宇宙人との日々を楽しんだら、その後には、子離れという卒業が待っている。「いつかは卒業しなきゃいけない。親業や教師稼業というのは、ある日、子どもや学生から〝長年お世話になりました。明日からあなたはいりません〟と言われるためにあります。卒業した後の親子は、どうなるか。ある友人は〝世代の違う親友になる〟と言っていましたが、名言だと思いました」

 

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社会学者
上野千鶴子(うえの・ちづこ)
社会学博士。1948年富山県生まれ。東京大学名誉教授。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。女性学、ジェンダー研究の第一人者。京都大学大学院社会学博士課程修了。93年東京大学文学部助教授に。95~2011年、東京大学大学院人文社会系研究科教授。『家父長制と資本制』『おひとりさまの老後』『在宅ひとり死のススメ』など多数の著書がある。

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