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年金繰り下げ受給のメリット・デメリット

ushio情報box 潮マネー講座
(『潮』2023年7月号より転載)

 

年金繰り下げ受給のメリット・デメリット

 年金の受給開始年齢(65歳)が近づいた人から、「繰り下げ受給をすると医療費や介護保険の自己負担の割合が増えるのか」と尋ねられることがあります。

 年金の受給開始の時期を繰り下げて受け取り額を増やしたいけれども、そのために医療費や介護保険料の負担が増えるのは避けたい。どの程度まで遅らせるのが得策か、といったご相談です。
 年金の受給開始時期を、65歳から1カ月遅らせるごとに年金受給額が0.7%増えます。老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方、あるいはどちらかだけでも繰り下げ受給は可能です。
 昨年4月の法改正で最大75歳まで繰り下げることができるようになりました。その場合、年金額は10年間で84%(0.7%×12カ月×10年)増え、倍近い金額になります。


75歳以上の医療費負担は1~3割

 現役世代の場合、医療費の自己負担は3割ですが、70歳を過ぎると、それまでの3割から2割へと下がるのが一般的です。
 75歳からは後期高齢者医療制度の被保険者になるので、自己負担の割合は所得に応じて1割、2割、3割のいずれかに設定されます。
 年齢を重ねるにつれ、医療費がかさむことが多くなるので、できるだけ自己負担の割合を低く抑えたいという気持ちは理解できますが、就労収入や企業年金、民間保険会社の個人年金など、老後の収入がとくに多い人もいます。
 単身世帯の場合は年収383万円以上、複数世帯の場合は合計520万円以上だと医療保険制度の「現役並み所得者」とされ、3割負担となります。
 課税所得が28万円以上かつ年金収入とその他の合計所得金額が、単身者は200万円以上、複数世帯では合計320万円以上だと2割負担になり、それより少ない場合は1割負担と判定されます。

 

介護保険の負担割合も所得に応じて判定

 病気やケガなどで身体が弱り、生活していくうえでの支援が必要なとき、介護保険サービスを利用することができます。介護事業者に支払う利用料は、所得に応じて自己負担が1割、2割、3割のいずれかに判定されます。(上の図参照)
 医療費も介護保険サービスの利用料も、自己負担の割合は所得によって判定されることを知っておきましょう。
 年金受給を繰り下げることで、合計所得金額が変わり、判定に影響する場合もあるでしょう。あらかじめ繰り下げた場合の受給額や自己負担の割合がどうなるかを確認しておいたほうがよいと思います。繰り下げることで自己負担の割合が上がってしまうようであれば、遡って65歳から一括受給し、敢えて年金の増額を避けるという選択もできます。
 一方で、預貯金や年金額、ライフスタイルによって、自己負担の割合が上がっても年金が増えたほうが暮らしやすいと考える人もいるでしょう。ご自分のライフプランや考え方に合わせて検討してください。

 

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文:北見久美子(きたみ・くみこ)
ファイナンシャルプランナー&年金アドバイザー

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