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生前贈与

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(『潮』2024年2月号より転載。イラスト=櫻井通史)

 

 生前贈与の一つに「暦年贈与」があります。贈与税の基礎控除額(110万円)を活用して、年単位で少しずつ、長期にわたって生前から贈与を行い、税負担を減らすという節税対策です。
 昨年、贈与に関する税制が改正されたので、暦年贈与で相続税対策をしようと考えていた人は、見直しが必要になってくるかもしれません。書籍や雑誌でも関連記事が多く取り上げられており、「暦年贈与はもうできない」とか「今日から始めないと不利になる」といった文言に触れて、贈与する側もされる側も漠然と不安を感じている人が多く、影響の大きさがうかがえます。

 

相続税の持ち戻し期間が3年から7年に変更

 この改正を一言で言うと「暦年贈与での相続税対策に制限がかかった」ということになります。

 生前から暦年贈与をコツコツと続けてきたAさんが亡なくなり、相続が発生したとします。これまでは、死亡日以前の3年間に生前贈与した財産だけ「持ち戻し」することになっていました。持ち戻しとは、生前贈与を受けた相続人と受けていない相続人の間で公平を期すために、贈与した財産を相続財産に戻して計算することをいいます。

 今回、持ち戻ししなければならない期間が3年から7年に延長されました。この変更は2024年1月1日以降に受けた贈与から適用されるため、2027年1月からは、相続財産への持ち戻し期間が1年ずつ加算され、2030年からは持ち戻し期間が7年間となります。(図を参照)
 このため、生前贈与は7年以上やっておかないと、相続税対策としての効果はなくなります。ただし、法定相続人ではない孫や子どもの配偶者に贈与する場合、持ち戻しの必要はないので、相続税対策になるでしょう。



相続時精算課税制度の利用も検討を

 こうした暦年贈与の制限によって注目されるようになったのが「相続時精算課税」による生前贈与です。
 これは、相続時に生前贈与した財産もすべて加算して計算するという制度で、累積2500万円(特別控除額)までは贈与税の課税はされません。
 この制度は相続税が軽くなるわけではなく、課税の繰り延べなので、これまで利用する人はあまりいませんでした。
 今回の改正で、毎年110万円までの生前贈与は申告不要で課税されないことになったため、110万円以下を長期間にわたって暦年贈与していくよりも、相続時精算課税の申告をして利用するほうが、相続税の負担が軽くなるケースも多いとみられています。 
 110万円以下の贈与であれば、暦年贈与でも相続時精算課税制度でも申告の必要はありません。
 とはいえ、通帳への記載など贈与したことがわかるようにしておくことは必要です。
 財産の多い人はとくに、税理士などにも相談し、よく理解して正確な知識を得ることをおすすめします。

 

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文:北見久美子(きたみ・くみこ)
ファイナンシャル・プランナー&年金アドバイザー

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