相続土地国庫帰属制度 〜相続した土地を国が引き取る制度〜
2024/04/05ushio情報box 潮マネー講座
(『潮』2024年4月号より転載。イラスト=櫻井通史)
親御さんが亡くなり、実家や山林・田畑などを相続したものの、利用するあてがないとか、管理するには負担が大きいなどという理由で、そのまま放置しているという人は多いのではないでしょうか。資産価値のある不動産であれば、売却にも積極的になれますが、地価が低いとか、利用が難しい土地や家屋の場合、維持するか手放すか、悩ましいところです。
このように、「利用価値が低い」との理由で相続登記がされないまま、所有者不明になる土地が発生することを防ぐため、昨年4月に創設されたのが「相続土地国庫帰属制度」です。
相続した土地にかぎりますが、国に土地を引き渡せる制度です。実家の不動産の扱いに困っている人にとっては朗報かもしれません。
しかし、実際に使うとなると、なかなかハードルが高いのです。国庫に帰属するまでには、申請→審査・承認の手続きが必要ですが(下の表参照)、「申請できない土地」の条件が細かく規定されています。
相続したものの中で、まずネックになるのが家屋です。更地になっていないと申請できないので、高額の撤去費用がかかる場合もあります。
境界が明らかでない土地も申請できません。はっきりしていない場合、境界確定のために測量したり、隣接する地主に境界の承諾を得る必要が出てきます。そのほか、崖地や土壌汚染など、国が保有する場合に管理負担が発生するような土地も承認されません。
負担金の納付が必須
申請できる不動産であっても、無料では引き取ってもらえません。
まず、申請する際に土地一筆当たり1万4000円の申請手数料がかかります。その後、承認された場合は、国がその土地を管理する費用として10年分にあたる負担金(管理費用)を納める必要があります。宅地や田畑であれば原則20万円、そのほか、森林・原野なども面積に応じた規定があります。国に引き取ってもらうにも、このように費用や手間ひまがかかることを知っておきましょう。
最寄りの法務局で早めに相談を
年齢を重ねるにつれ、自分たち世代が亡くなった後のことを考え始めると思います。子ども世代が相続放棄することもできますが、その場合、不動産だけを放棄することは認められず、預貯金などの資産もすべて放棄しなければなりません。ですから、相続放棄できるケースはかぎられそうです。売却は困難と考えられる土地であれば、早めに帰属制度申請に向けて動いたほうがよいかもしれません。
法務省のホームページには、「相続土地 国庫帰属制度のご案内」として詳しい解説があります。少しでも不安があれば、予約をして相談してみてはいかがでしょうか。
申請は不動産のある地域の法務局(本局)にかぎられますが、相談だけであれば、お住まいの地域の法務局でも受け付けています。
相続した土地や家屋に関することは、気力のあるうちに着手できるよう、考えていくことをおすすめします。
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文:北見久美子(きたみ・くみこ)
ファイナンシャル・プランナー&年金アドバイザー
※今回の更新をもって「潮マネー講座」の潮プラスでの掲載は最終回となります。『潮』本誌の「潮マネー講座」はこれまで通り継続しますので、誌面でお楽しみください。