魔法や奇跡が生み出す温かな世界を描く作家の村山早紀さん。かわいい猫たちが登場する小説「夢の言の葉」がパンプキン2026年3月号から連載開始となりました。作品のあらましと共に、猫への思いやご自身がたくさんの物語から得てきたものについて伺いました。
(パンプキン2026年2月号より転載。撮影=水野真澄 構成・文=田北みずほ)
猫が心を込めてつづる人間への手紙
書店と本に関わる人びとを描いた『桜風堂ものがたり』、百貨店を舞台にした『百貨の魔法』など、村山早紀さんは、ささやかな奇跡と魔法の力によって人と人を結び、心が温かくなる物語を次々と世に送り出している。作家になったころから30年以上、猫と共に暮してきたという愛猫家。猫が登場する作品も多く、柔らかな愛らしいしぐさで、物語を優しく導く。新連載の小説も、猫が活躍するストーリーになるそうだ。
「ある事情から、生涯に一度だけ、人間の言葉で手紙を書ける魔法の力を得た猫たちが、心を込めて、だれかに手紙を書く、というお話です」
手紙の相手は、一緒に暮らす人間の家族だったり、もうこの世にはいない、大切なだれかだったり、通りすがりの人だったりする。猫が人間へ手紙をつづるという夢のある物語は、どんなきっかけで生まれたのだろうか。
「ふと、猫が鉛筆を持って、猫背で手紙を書いている情景が浮かんだんです。だれにどんな手紙を書いているのか知りたい気持ちから、小説が生まれました。猫が家にいる方なら、うちの猫は、だれにどんな手紙を書くのかしら、と想像して楽しんでいただけたらと思います」
猫が人間に向けるまなざしは「無償の愛の象徴のように思える」と村山さんは言う。
「日常の中で、気づかれずに注がれている無私の愛、無償の愛というものに憧れます。世界中のだれにも顧みられないままに、優しくひたむきに注がれ続け、やがてその死と共に消えてしまう愛。その純粋さをだれにも知られずに終わる愛でも、確かに宇宙には存在していたのだ──今作ではその尊さを描きたいのかもしれません」
心を明るくしてくれた物語の世界
縦横無尽にストーリーを生み出す村山さんだが、その原点は幼いころから親しんできた読書の影響が大きいという。子どものころから物語を考えること、文字や本を読むことが大好きだった。
「小学校一年生のとき、両親に『お話を考えて書くお仕事ってなんていうの?私はそれになりたい』と聞いたら、それは作家という職業だと教えてもらったんです」
父親が転勤族だったため、転校を繰り返してきた村山さんにとって、本は大切な存在になった。友だちがいなくても、図書室や学級文庫の本を開けば、心だけは違う世界に行って過ごせる。新しい環境になじめなくても、本の世界で休み、息をつくことができた。
そして村山さんは小説に限らず、漫画やテレビドラマ、映画、ゲームなどあらゆる物語にのめり込んできたという。
夢中になってその世界に入り込み、心を遊ばせれば、いつの間にか、つらいことも忘れ、思い悩んでいたことも乗り越えて、不思議と明るい気持ちになっていたという経験を何度もしてきた。
「そういうものを書きたくて作家になりました。私の作品も、だれかの心を癒やし、休ませて、心の支えになれるような、そんな力をもっていたらと願っています」
つぶらな瞳で人間を見つめる猫がどんなことを伝えようとするのか。読み終えたときにはきっと、心に明かりが灯る物語になるにちがいない。
※村山早紀さんの新連載小説「夢の言の葉」は、パンプキン2026年3月号より連載開始。ぜひ、お楽しみください