2026年2月の衆議院選挙で若者はどのような選択をしたのか。日本若者協議会代表理事を務める室橋祐貴氏が、Z世代のリアルを綴る。
(月刊『潮』2026年4月号より転載)
憲法改正への抵抗感がない若者たち
「高市早苗が、内閣総理大臣で良いのかどうか」「そうでなければ、野田総理か、斉藤総理か、別の方か」、まるで大統領選かのような問いかけだが、結果的には最後までこれが争点となり、高市早苗が首相にふさわしいと国民の多くが思ったのだろう。
2月8日に投開票が行われた衆院選は300議席を超える自民党の歴史的大勝となり、中道改革連合は小選挙区で大敗を喫し、存続の危機に立たされている。
だが、高市早苗が良いか、他の党首が良いかの争点で問われたら、自信を持って野党の党首が良いと言える支持者はどれほどいるだろうか。2024年の衆院選においては、政治とカネの問題に注目が集まり、与野党が拮抗する状況を作れたが、立憲民主党への期待が高まったわけではなく、明らかに敵失であった。一方、政治的な基盤が少ない中、党員の支持を受け自民党総裁選を勝ち抜き、女性初の首相となった高市氏が魅力的に映っても不思議ではない。
衆院選は政権選択選挙でもある中、野党はその準備ができていなかった。二大政党制を目指すのか、多党制の中で連立の軸になるのか、その方向性も、野田氏と斉藤氏では言っていることが異なっており、あらゆる点で準備不足であった。虚をついた高市氏の戦略勝ちであろう。
他方で、比例の得票数を見れば、必ずしも自民党が圧勝というわけではない。自民党が約2100万票で、36.7%の得票率を占めたのに対し、中道改革連合は約1000万票の18.2%。これだけを見れば、自民党単独で3分の2を占めるほどではない。ただ、小選挙区においては、野党が割れ、自滅した感が強い。
筆者も含め、前回の衆院選、昨年の参院選を受けて、少数与党となり、多党化の流れが進むのではないかという意見が多かったが、大選挙区制・比例代表制を軸にした参議院選挙ならまだしも、小選挙区制を軸にした衆院選において、多党化を目指すというのは無理があったのかもしれない。とはいえ、国民の投票先を見れば、多様な政党を求めているのは明らかであり、小選挙区制の見直しは必須であろう。
若者の支持が自民党に戻った理由は、これまでも何度か触れているように、強いリーダーシップや女性初の首相であること、若者にとって改革を志向する政党こそリベラルであり、反対の立場に回る政党は保守に見えること、そうした分析から説明することができる。必ずしもリベラル的な価値観が否定されたわけではない。
ただ今回特徴的だったのは、投票の際に最も重視した争点として、「外交・安全保障政策」が高く位置付けられており、世界情勢が揺らぐ中で、防衛環境を整備していくことが重要だと思っている国民が増えたことだ。
戦後、保守・リベラルの最大の違いは安全保障観や憲法改正に対する姿勢であったが、今年1月のダボス会議において、カナダのマーク・カーニー首相が「古い秩序は戻ってこない」と演説をしたように、戦後の社会秩序は大きく変わりつつある。現実的に台湾有事の足音が聞こえてくる中、自国の防衛強化や各国との連携強化、サプライチェーンの見直しによる経済安全保障の確立など、リベラル系の政治家も支援者も認識を改める必要があるだろう。
自民党が単独で衆議院の議席の3分の2を獲得したことにより、今後、憲法改正の議論が進んでいくと思われるが、多くの若者にとって、憲法を変えることに抵抗感はなく、自衛隊の明記に賛成する若者も多い。ここで自衛隊明記=軍拡、戦争に繋がる、という単純な図式を描くようでは、若者からはさらに遠ざかる可能性は高い。
今回の選挙で、リベラル系の議員はほとんど落選し、政権交代の可能性はさらに低くなったが、このまま自民党一強でいいとは決して思わない。どの政党に限らず、同じ政党がずっと与党だと、なかなか大きな政策変更が起こらないのに加え、消極的なテーマが一向に変わらないからだ。自民党で言えば、人権の問題である。
今でこそ、こども基本法が施行され、子どもの権利に関する議論が進められているが、日本が国連の子どもの権利条約を批准したのは、決議されてから5年遅れて1994年。この時の政権は自民党ではなく、非自民・非共産の8党派連立による細川内閣であった。ずっと自民党政権であれば、さらに批准は遅れていた可能性がある。
ここ25年ほどは中道左派である公明党が政権に入っていたからリベラルが重視する政策、再分配の強化やジェンダー政策も一定程度進んだが、連立のパートナーが日本維新の会に変わった今ではそれも難しいかもしれない。
自民党ではできない政策を
この原稿を執筆している時点で、誰が中道改革連合の次期党首になるかはわからない。それでも、日本社会があらゆる人の人権を保障する社会に変わるためには、中道の復活は欠かせない。参議院や地方議員はどうなるか不透明な部分が多いが、ここで再び立憲と公明に分かれるようでは、選挙のための互助会であったと認めるようなものであろう。それこそ再び信頼を獲得することが難しくなるのではないだろうか。
では、どうすればもっと若者の支持を獲得できたのだろうか。いくつか具体的な提案をしてみたい。
まず最も重要なのは、党首の顔だ。SNS、特に動画が主流になっている昨今では、党首が持つイメージの力は大きい。期待を抱かせるフレッシュさや明快さ、普段の振る舞い方など、野党第一党が最も古く見えるようでは票を集めることは難しい。
政策面で言うと、個人的には、消費税減税を掲げたことは失敗だったと思っている。なるべく格差を是正し、人々の選択肢を確保することを重視するリベラル的な価値観を持った政党が、なぜわざわざ減税し、財源を減らすのかが理解できない。低所得対策であれば、低所得者に限って再分配政策(給付付き税額控除など)をすれば良いし、他で財源を作れるのであれば、社会保険料など現役世代の負担軽減策を考えるべきだろう。
そして重要なのは、自民党ではできない政策を打ち出すことだ。人権政策は当然として、国民の関心が高いところでいえば、労働政策、特に労働者の目線に立った政策である。これまでは長期雇用を前提に、企業を守ることが労働者を守ることにも繋がっていたが、最近は転職が当たり前になり、労働者を守る政策を強化する余地は大きい。かつ、経営者の業界団体から支援されている自民党では実施しづらい。
例えば、働き方改革の成果として、労働時間が短くなっていることが良くないこととして報道されているが、共働きであり、高齢者も働くようになっている以上、当然である。本来、固定時間を働けばきちんと生活できるだけの水準の給料を払うべきであるし、収入が足りないから、残業や副業をする、というのは経営者を甘やかしすぎだろう。残業の割増賃金率や最低賃金の引き上げはもちろん、法人税の累進課税も検討すべきだ。
そして、「中道」という言葉は様々な意味を持つのだと思うが、一般の有権者から見れば、「真ん中」以上の意味はない。政党というのは、まずは自分たちの価値観、最も大事にしたいものを政党名にすべきだ。しかし「中道」はあくまで相対的であり、相手によって立ち位置が異なる。それでは結局何を大切にしている政党なのかがよくわからないし、安倍政権を長年見てきた若者たちは、安倍政権をすごい右寄りだとも全く感じていない。高市政権も同様だ。
その感覚が世代によって異なる以上、価値をわかりやすく表現した名前に変えたほうが良いのではないだろうか。
