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村上祥子80代! がんばらない料理ノートエッセー③

人気料理研究家・村上祥子先生のエッセーを特別掲載!食のプロが語る言葉は、日常の食への意識を変えてくれます。
「村上祥子80代!がんばらない料理ノート リアル80代の今、本当に伝えたいこと 第3回」
(『パンプキン』20233月号より転載)
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知人の不調がきっかけで
生まれたたまねぎ氷

 私は東京オリンピックが開催された昭和391964)年に結婚しました。岡山~東京間で新幹線が開通、新幹線の食堂車には電子レンジを搭載。インスタント食品や栄養ドリンクが市場に出回り、日本は高度成長期に入ります。そして、食欲にまかせて食べた結果、成人病(生活習慣病)の誘因に……。

 久しぶりに会った知人が「どうもねぇ……」と言いながらソックスを脱いで足の爪を見せてくれました。赤紫色です。「心臓も時々キュッと締め付けられるよう……」と言います。

 大学で病態栄養指導講座をもっていた私は糖尿病が進行中の症状と見抜きます。改善に効果的な食材を探したところ、1990年にアメリカ国立がん研究所が発表した「デザイナーフーズ・ピラミッド」を見つけました。野菜のファイトケミカルをがん予防の面で重要度が高い方から順にピラミッドに図示したものです。

 ファイトケミカルは野菜の健康パワーの成分です。植物が外敵や紫外線から身を守るために作り出した天然の機能性成分。植物のもっている色素、香り、苦味、渋味などがそれに当たります。人間は作り出すことはできません。そのリストに〝たまねぎ〟があり、辛味成分のイソアリイン、抗酸化作用の高いグルタチオン酸、ケルセチンの3つの成分の相乗効果で血液がサラサラになり、がんの予防だけでなく、高血糖を改善し、糖尿病の症状緩和に効果があると分かりました。

 

たまねぎの効果を無理なく
いつでも取り入れられるように

  たまねぎは様々な料理に使われている食材ですが、刻むと目にしみます。そこで丸ごと電子レンジにかければ、簡単で目にしみることもありません。刻むのではなくミキサーでピューレにして、製氷皿に流し入れて凍ったら製氷皿から外して冷凍します。氷にすれば2カ月は保存でき、好きな時に好きな数だけ使えます。

 友人は経営する病院の調理室から食事を自宅に運ばせていました。病院の管理栄養士、友人、私の三人で話し合いました。まずは、一日1600㎉の食事をとって血糖値を計測。そして一日50gのたまねぎ氷を加えた1600㎉の食事を3週間続け、血糖値を計測。初め350/㎗台だった血糖値が200台を切って、ついに100前後まで落ち着くようになりました(空腹時血糖値の基準値は8099/㎗)。

 この経験で、たまねぎ氷が糖尿病の改善、予防になると私は確信。書籍で出版したいと考えました。日本の農業に関する出版社である(一社)家の光協会。編集長にお目にかかりました。書籍の企画が進み、公式データを作ることになりました。関東圏の糖尿病専門医の周東寛先生(南越谷健身会クリニック院長)と話がまとまり、協力して下さる患者さん10人に、1カ月分のたまねぎ氷を自宅に送付しました。そして、毎日食べてもらった結果、約9割の方に改善の効果が得られたとのこと。周東先生監修のもと『たまねぎ氷®が血糖値を下げる! おいしい糖尿病レシピ』(家の光協会)を出版することになりました。そして、「たまねぎ氷®」のブームが起こります。

 「よくまぁ、そんなことを思いつきますね!」と言われますが、研究とは性懲りもなくやり続ける能力だと思うのです。

 

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料理研究家、管理栄養士
村上祥子(むらかみ・さちこ)
公立大学法人福岡女子大学客員教授。
治療食の開発で、油控えめで一人分でも短時間においしく調理できる電子レンジに着目。
出版した著書は『80歳、村上祥子さんの元気の秘訣は超かんたんレンチンごはんだった!』『村上祥子さんの食べると生きる人生最高のレシピ』など500冊を超える。
福岡女子大学内には「村上祥子料理研究資料文庫」が設置、公開されている。