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【イベント無料ご招待】日本の伝統文化「書」を、唯一無二の現代アートへ

日本の伝統芸術の一つ「書」を、二次元を超えた書画や彫刻へと昇華させ、国内外で高い評価を得る書家・紫舟さんにお話を伺いました。 (『パンプキン』2023年11月号より転載。撮影=公文美和 取材・文=中村史江 ヘア&メイク=望月香織)

 

書の彫刻「世の中の人は何とも云はばいへ 我が成すことは 我のみぞ知る」。平面から解放され、宙に浮遊する書。
ダイナミックな躍動感に力強い決意が漲る。坂本竜馬十代の頃の和歌には、言葉の力があふれている。

記事の最後に1/6開催のイベントへの無料ご招待情報があります。
ぜひご覧ください。

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 NHK大河ドラマ「龍馬伝」や、人気美術番組「美の壺」の題字を手がける書家の紫舟さん。この夏開催されたイタリア・オルビア国立考古学博物館での個展も、現地新聞やテレビなどメディアで絶賛され、大成功を収めた。日本の書を、世界に通じるアートへとつなぐ芸術家になるまで、どのような道程を歩まれたのだろうか。

 

「父方の祖父母が日本文化に造詣の深い家でした。祖父は書画骨董の収集家で、床の間の掛け軸や季節の室礼などに目配りし、祖母は鼓やお茶を。お習字と日舞は祖母の勧めで、私も兄姉も日舞を3歳、書は6歳から習い始めました。ことにお習字は、高校生まで教えていただいた先生が熱心でした。言われるままにお稽古から帰ってからも7時間ほど、ただ一途にお手本を見て練習して。人より筆を持つ時間が長かっただけで、自分に特別才能があるとは思っていませんでした」

  幼少期から練習に励んだ「書道」は、小学生で書道界の最高位八段を取得して特待生になった。当時は、周囲の期待に応えたい、という義務感のようなものに突き動かされていた。高校卒業と同時に書から距離を置き、〝生涯をかけて成すこと〟の命題は解けないまま、大学卒業後にアパレル企業に就職。華やかな仕事に就いたが、3年目にして「私の居場所ではない!」と、退社する。7畳の部屋で、「自分は何が好きなのか、何をしたいのか」と、100日間自問自答する日々を過ごす。安定した生活を手放し、自分自身を解放するための闘いだった。

「絶望との闘いでもあり、自分を支えていた自信、慢心を含めて、心にあるすべてを棄てようと。先のことは考えずに。100日目、それまで曇り硝子に囲まれているようでしたが、曇りもない透明な硝子になったように感じる瞬間が来ました。『書家になる!』と分かって生まれて初めて心がすーっと軽くなったのを覚えています。それまでは、常に波風の立った重い精神状態でした。生涯かけてやるべきことが明確になったこの感覚を信じることに決めました」

「百聞は一見に如かず」
見る目を徹底的に鍛え、見せる努力を怠らない

 書道を習っていた子ども時代、素晴らしいお手本をたくさん見るたびに自分の目が肥えてゆき、手の技術が身につくよりも、審美眼が磨かれるスピードの方が圧倒的に速いことには気づいていた。技術が後からついてくるならば、まず日本の伝統文化がもつ奥深い〝美〟の視点をとことん鍛えて掘り下げよう。そう決心して奈良へ。

 奈良は日本文化の源流。書家になる以上、筆や墨、硯、紙など伝統工芸が千数百年の歴史に息づく土地・奈良を拠点に学びたかった。その真髄を目の当たりにするため、京都、大阪へも自在に飛び、陶芸や和紙、螺鈿(らでん)細工など人間国宝の方々に乞い、直接教えを受けた。

「実際に匠について一から伝統工芸を作り上げていくと、より理解が深まります。また京都の割烹料亭に行き、陶芸家の至宝の器×料理人の渾身の逸品……といった極め付きのコラボレーションを心に焼き付けたり。鎬(しのぎ)を削る本物同士の鬩(せめ)ぎ合い、技とその心を五感に刻めたことは大きな収穫でした」

 極め付きの日本文化にふれながら、書家としての鍛錬は3年余り続いた。書の可能性を極限まで探る日々のなか、書家として初の個展を開催する。しかし、結果としては「惨憺たるもの……」だったという。

「ご案内を送ったうち数人の方が来てくださる……初期はそんなことの繰り返しで、流石に落ち込こんでいたある時、恩師に言われました。『表現者は、人に見てもらうことでしか成長できない。だから見せる努力を怠ってはいけない』と。人に作品を見せるには、時間やお金、労力もかかり、時には見下され、笑われたり。それでも表現者たる以上、落ち込む暇に、努力せよ、と教えられました。足りない点を補い、新しいものを作り続けるのだと。これまで百十数回個展を開いてきましたが、今でもこの言葉が支えです」

愛用している三寸一分の筆。細く、長く、柔らかい。最も扱いが難しいとされるコシのないこの筆から「紫舟書」が生まれる。

言葉の壁を壊す発想と努力で
世界が認める現代アーティストに

 海外での展覧会もアクティブに催してきた。書家初期にイタリアで行われた展覧会の時、称賛の拍手を受けながらも、従来の文化の違いと立ちはだかる言語の壁を感じた。

「余白を重んじる和文化との相違いや日本語のもつ特殊性はずっと感じていましたが、特に言語の壁。どうしたら世界の人々にも書の心が伝わるのか……ずっと考え抜き一つの気づきがありました。『書』は紙に書かれる二次元のものだと思い込んでいますが、文字の歴史を遡ると甲骨文字が誕生した殷王朝時代にはまだ紙は存在せず、文字は〝書く〟ものではなく、石や骨などに〝彫る〟もの。つまり三次元だったのです。文字は時代によって形も媒体も変化します。書を立体的にし影を投影することで、文化の域を越えて世界中の人の心を動かせるかもしれない。こうして次元を変えた『書の彫刻』が生まれました。書の言葉がもつ、切なさや力強さ、温かさといった感情を表現できれば、異文化の人々の心にも響くと考えたのです」

 2014年にルーブル美術館で行われたフランスの国民美術協会展にて書画と書の彫刻でダブル金賞を受賞。「北斎は立体を平面に、紫舟は平面を立体にした」と激賞。翌年には日本人では横山大観以来となる主賓招待アーティストとして招かれた。

 現在、インタラクティブデジタルアート(見る側と作品の間で、相互コミュニケーションがとれる、新しい形のメディアアート)が注目される。紫舟さんもいち早く、2015年に『はじめて かみさまが おりたったころの ものがたり』をteamLab(チームラボ/デジタルクリエイター集団)とのコラボで共作している。

teamLabとのコラボ作品「はじめて かみさまが おりたったころの ものがたり」。元来、漢字は動物や事象の形を文字にしたもの。
画面からは岩、鹿、大蛇、風などの書が降り、文字に触れると、その姿が現れ、動く――。
(写真提供:紫舟アトリエ)

「代表の猪子寿之(いのこ としゆき)さんに〝文字〟の成り立ちの話をしたことがきっかけです。元来動いていた生き物や現象を人が静止させ記号化したのが文字です。それから数千年も文字に閉じ込めた魂を、デジタルと人間の力で再び元に戻し動かし解放したいという発想からです」

アートには常識や固定観念をひっくり返す力がある

 二次元の書を立体に。静止していた書を動かし、漢字を元あった姿へと戻すインタラクティブデジタルアートへ――。『書の彫刻』をさらに『書のキュビズム』へと変化させたり、世界中が至高の芸術と認める木版画・浮世絵の輪郭線を墨跡彫刻として空中で引き直し、〝版ずれ〟を表現する作品に再構築したり、紫舟さんの書の進化は止まるところを知らない。日本の書を〝世界のアート〟へ変革してきた紫舟さんにとって、アートの役割とは何だろうか?

「アートのもつ力の一つは、観る人の常識や価値観、制約などを一瞬にして覆し、新たな価値観を提示し、制約から解放すること。そして、アートは鑑賞するだけで人間の脳を拡張します。つまり五感を解放し、覚醒させる力をもっています」

 そのアートの力を社会へ還元したいと、2006年から毎年「ラブレタープロジェクト」を開催している。自分の大切な人に書で手紙を書く、年齢を問わず初心者から参加できる〝書で愛を伝える〟企画だ。

「手紙を書かなくなった、といわれますが、メールを打つのも『書く』。私は〝人は文(ふみ)に戻る〟と確信しています。大事な人に大切に思う言葉を伝えるワークショップです。『筆で書くと、素直に心の言葉が出てくる』と参加くださる皆さんがおっしゃる。誰もがアーティストです」

 言葉を伝える、心が相手に届く。見えなかった思いが伝わる、相手に真心が響いていく――言葉の力は無限に広がる。

「私は言葉には力があると信じています。たとえば〝病気が治りますように〟と書いたら、人生を健康に導くことができたり、素敵な言葉が書かれた額を掛けると、人生がよりよい方へ向いたり。言葉の恩恵があふれ出るような『書』が書けるように、いつも願って筆に想いをこめます」

 

【information】

『 紫舟 書初め大会2024 』
2024年で18年目を迎える「Love Letter Project」。
特別版「紫舟 書初め大会」を開催いたします。
「書き初め」は、一年の目標や抱負を書くことで、心新たに行動する意となり日々がそのように導かれます。1200年受け継がれる日本最古の参加型の文化を、紫舟と共に体験しませんか。
表現力のある書を書くワークショップの後、1m以上の大きな紙に総勢100名での書初めです! 

日時:2024年1月6日(土)10:30-11:45
会場:恵比寿ガーデンプレイス「ザ・ガーデンルーム」(東京都目黒区三田1-13-2)
予約:完全事前予約制

https://www.standard-works.com/LLP/LLP24kakizomep.html

この記事をご覧いただいた方の中から抽選で2組4名様を無料でご招待します
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書家・芸術家
紫舟(ししゅう)

大阪芸術大学教授。NHKの大河ドラマ「龍馬伝」、美術番組「美の壺」の題字を担当。2014年にフランスの国民美術協会展にて書画と彫刻でダブル金賞受賞。翌年は同展で日本人では横山大観以来となる主賓招待アーティストとしても作品発表。15年イタリアミラノ万博ジャパンパビリオン作品担当、金賞受賞。アジア太平洋経済協力(APEC)などにも多くの作品を提供。https://www.e-sisyu.com/

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