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気候変動に対する若者の危機感を政治はどう受け止めるのか

地球規模の課題を解決するためには多国間主義や国連中心主義のような考え方が重要である――
未来アクションフェスに実行委員会として携わった、一般社団法人グリーンピース・ジャパン シニア政策渉外担当の小池宏隆氏と公明党中野洋昌衆議院議員との対談を配信します。
(『潮』2024年6月号より転載。サムネイル画像=picture cells - stock.adobe.com)

 

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歴史に残るイベントになった

中野 小池さんは過去に国連アジア太平洋経済社会委員会のプログラム・マネジメント・コンサルタントを務められたそうですが、最初に国連と接点ができたのはいつだったんですか。

小池 2015年に仙台で開催された「第3回国連防災世界会議」で初めて国連にかかわりました。まだ大学在学中だったのですが、ユースフォーラムの事務局の立ち上げに従事したんです。当時の日本にはまだ、国連に政策提言などを行っている若者はおらず、その経験から「JYPS」(ジップス:Japan Youth Platform for Sustainability)という団体を立ち上げました。

中野 かなり早い時期から活動されていたんですね。今年の3月には、核兵器廃絶と気候危機の解決に向けて若者の連帯を促すイベント「未来アクションフェス」が国立競技場(東京・新宿区)で開催されました。小池さんも実行委員会の一員として携わられたそうですが、会場には約7万人が集いライブ配信は約50万人が視聴するという大規模なイベントになりました。

小池 ありがとうございます。日本において、核兵器廃絶と気候危機対策というテーマを掲げてあの規模のフェスができたことには私自身も驚きましたし、感動しました。歴史に残るフェスになったと思います。あれだけの数の若者が、核兵器廃絶や気候危機の解決を望んでいるというメッセージを発信することができたのが何よりよかったと思います。

中野 未来アクションフェスは国連広報センターや国連UNHCR協会が後援しました。そのことで様々な背景がある企業や団体が協力・協賛に名を連ねることができたと聞いています。私ども公明党はこれまで、国際社会における国連の役割を重視してきました。国家である以上は国益のみが優先されるべきと考える政党や政治家が多いなかで、生命の尊厳や人間の安全保障の観点から、国際協調や、その中核としての国連の役割を重視してきたのです。そうした政党は他にないように思います。
 国連に政策提言をするような日本の若者は希有だったという先程のお話でしたが、今般のフェスでは相当な数の若者が連帯し、共同声明を発表することができました。本当にすごいことだと思います。

 

他人事の態度では目標は達成できない

小池 そうした意義の上で、未来アクションフェスはあくまで〝発射台〟だと私は考えています。あのイベントからいろいろなものが今後打ち上げられることが大切だと思うんです。先にも触れていただきましたが、私たち実行委員会が特に重要視したのはパートナーシップでした。SGI(創価学会インタナショナル)ユースをはじめとした様々な団体の知見や発想を生かすことができたので、イベントの内容に分かりやすさと科学的正しさを両立させることができたと思います。

中野 それぞれに意見や立場がある団体が大きな目的のために一致点を見いだすというのは、とても重要なことですね。より多くの人の声を集約して、市民社会の声としていくことが、社会変革につながると思います。
 そしてそのパートナーシップの結実がイベント中に発出された共同声明ですね。気候危機に関しては「2030年までに世界の再生可能エネルギーの導入容量を3倍、エネルギー効率改善率を2倍にすることを各国に求めたい」との文章が明示されました。

小池 これらは国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP 28)で合意された内容です。この条約には198カ国が参加しており、そこにはもちろん日本も含まれます。
 声明のなかで特に重要なのは「3倍」「2倍」という目標を、「各国」に求めているところです。国際条約でよくありがちなのは、「我が国としても努力はするが、達成できるかどうかは国際社会しだいだ」といった半分他人事の態度です。実際に「再エネ3倍は、1番製造量・導入量の大きい中国が努力すれば何とかなるだろう」という声も聞こえてきます。
そうではなくて、各国が「3倍」「2倍」という目標を達成するために解決策を増やしていく。それが国際課題としての気候危機の解決には必要なのです。

 

未来サミットに向けて加速を

中野 未来アクションフェスの共同声明では、パリ協定で定められた「1.5度目標(気温上昇を産業革命以前比で1.5度以内に抑える目標)」の達成も促されています。「COP 28」の声明には日本も合意しているのですが、その後の政府の対応を見ていると、まだまだ加速が必要だと言わざるを得ません。そのなかで、共同声明を通して気候危機という課題の現状を多くの若者に周知したというのはとても大きな成果ですね。
 公明党としては、今年9月に行われる国連の未来サミットに向けて、4月3日の衆院外務委員会で金城泰邦議員が未来アクションフェスの共同声明について上川陽子外相に質問しました。その質問に対し、上川外相は「未来サミットは、特に若い世代が関与していく。持続可能な地球社会の大変重要なプレーヤーになるので、積極的に、こうした提言を生かしていきたい」と表明しています。
 未来サミットに向けて、気候危機対策の議論がより加速するよう、私自身も取り組んでいきたいと思っていますが、小池さんはこの課題に関する日本のいまの現状をどのようにご覧になっていますか。

小池 世界各国と比べて日本の人々が気候変動に関して意識が低いかというと、多くの脱炭素技術でも世界をリードしてきていますし、決してそんなことはないと思います。ただし、それが危機感として共有されているかと言えば、まだまだ足りていない気がします。
 あとは、これは気候危機対策に限った話ではありませんが、日本ではいわゆる「自己責任論」に象徴されるように、社会課題を個人の問題に引き付けて考えがちなように思います。もはや個人の力ではどうにもならないレベルの事態が現実に起きているならば、それを解決するためには社会課題を社会課題としてありのままに認識して自分たちに何ができるかを考えないといけない。その一つの大きな手段が政治だと思うんです。
 選挙の投票のときに、自分が問題意識を持っている課題について候補者や政党がどんな政策を訴えているかをきちんと確認する。そうやって政治を動かしていくことが、社会課題の解決にとってはとても重要なのです。

 

課題解決に向けた政治の役割とは

中野 日本において気候危機対策が大きく前に進んだのは、2020年10月に菅義偉首相(当時)が所信表明演説で2050年までにカーボンニュートラルを目指す宣言をしたあとでした。それ以前の環境と経済は、単にトレードオフ(二律背反)の関係でしか語られていなかったのです。
 公明党は菅首相の宣言よりも早い時期から再生可能エネルギーの拡大を訴えており、実際に当時の菅政権との連立政権合意の際には脱炭素社会の構築を強く訴えました。個人的には、公明党のそうした主張が菅首相の判断に影響したのではないかと考えています。

小池 重要なご指摘です。まさに日本では、菅首相の宣言によってパラダイムシフト(認識や価値観の大きな転換)が起きました。だからこそ言いたいのは、あのパラダイムシフトを日本政治の〝奇跡〟にしてしまってはいけないということです。やはり継続して変え続けていかなければいけません。
 では、共同宣言のなかにある「世界の再生可能エネルギーの導入容量を3倍、エネルギー効率改善率を2倍」を日本が達成するために必要なことは何か。一つは今年策定される「エネルギー基本計画」です。これは中長期のエネルギー政策の方向性を示す計画です。また、再エネ促進区域の設定も進めなければなりません。平野が少ない日本の国土では太陽光パネルのこれ以上の普及は難しいと語られがちですが、屋根置きや外壁への設置など異なるアプローチからの検討も進めていくべきでしょう。これらの具体的な方策を進めるためには、まずは政治に大きな方針を指し示してもらう必要があります。政治の力が欠かせません。

 

公明党の環境政策の原点

中野 重要なのは様々な制約条件を言い訳にしないことだと思います。「平野が少ないから太陽光パネルが置けない」「遠浅の海がないから着床式の洋上風力発電の導入は難しい」と言うのは簡単です。しかし、そこで立ち止まって前に進まなければ、技術的にも世界に後れを取ってしまいます。
 おっしゃるように、平野が少ないなら建物の屋上や壁面などに設置できるペロブスカイト型のパネルを活用できないか、着床式の洋上風力発電が難しいなら浮体式の技術に磨きをかけるのはどうかなど、条件がよくないからこそ、知恵を絞ることで新たな技術や可能性が生まれます。それによって産業面で世界のなかでの優位性を得られるかもしれません。
 もちろん、大々的な移行にはコストがかかりますので、現実には難しい議論が必要になりますが、だからこそ政治が大きな方向性を示すべきだという小池さんのご意見はおっしゃるとおりだと思います。

小池 先に、環境と経済のトレードオフの話がありましたが、対立はあって当然です。互いに一定の痛みを伴いながら、公的にマネジメントして前に進む。それが政治の役割ではないでしょうか。

中野 公明党の環境政策の原点は、都議会公明党(当時は公明会)の議員による隅田川のし尿不法投棄の摘発に遡ります。その後、1969年には全国で「公害総点検」を実施するなど、生活環境の改善に力点が置かれてきました。
 先に「日本では社会課題を個人の問題に引き付けて考えがち」という指摘がありました。生活環境の課題は目に見えやすいものの、気候危機がもたらす実害を実際に目にする機会は少ないのかもしれません。酷暑や豪雨などは経験していますが、海面上昇によって人が住む島が沈んでしまったといった被害は、なかなか目にする機会がないわけですから。未来アクションフェスなどを通じて、そうした実害から目を背けずに向き合っていくことの大切さが若者たちのあいだで共有されているというのは、とても大切なことだと思います。

小池 気候危機対策は、明日や明後日に成果が出る課題ではありません。個人的には「太陽光パネルを導入すれば電気代が安くなりますよ」という惹句(じゃkっく)には落とし穴があるような気がしていて、その短期的な利点に注目するあまり、海面上昇や山火事などで故郷を追われている人たちの被害に目が向かないように思うんです。だからこそ、社会が動くためにはそのような利点は重要なものの、社会課題を社会課題として発信し続けていくことも同時に大切なのです。

 

国連重視の姿勢をぜひ貫いてほしい

小池 冒頭にもありましたが、公明党は一貫して国連を重視されています。気候危機のような地球規模の課題を解決するためには、やはり多国間主義や国連中心主義の考え方がとても重要だと私は思っています。「我が党は国連を重視しています」と明言できる政党が日本に存在していることを、とても心強く感じます。公明党には今後も、ぜひ国連を重視する姿勢を貫いてほしいと思います。

中野 もちろん、外交面などで自国の利益を最大化することは大切です。しかし、現下の世界を見渡すと、自国第一主義が蔓延したり、米中対立が激化したりしています。また、経済安全保障の観点から、他国とデカップリング(経済分離)したり、逆にブロック化したり、同志国とのあいだでサプライチェーン(供給網)をつくったりといった分断の動きが顕著になってきています。そういう時代だからこそ、国連を中心とした協調的な姿勢が大切になるのではないかと思っています。この点は、公明党として今後もしっかりと訴え続けていくつもりです。
 ウクライナ危機やガザ危機を受けて、「国連が機能していないのではないか」という声があることは承知しています。ただし、国連に代わる枠組みがない以上は、大切にしていくべきだと思います。気候危機対策は、ともすると各国のエゴがぶつかってしまう課題ではありますが、同時に各国の協調なしには解決しない課題でもあります。

 

政治が中長期的なビジョンを示せるか

小池 気候危機対策にとって、今年はとても重要な1年です。パリ協定では、すべての国が温室効果ガスの排出削減目標を「国が決定する貢献(NDC)」として5年ごとに提出する旨を定めています。その提出が来年の2月ですし、先述のとおり「エネルギー基本計画」も今年策定することになっています。
 そうしたなかで私が懸念しているのは、政権のなかから気候危機対策について後ろ向きな声が聞こえてくることです。連立与党を組む公明党に〝夫婦間の苦労〟があるのはよく分かりますが、未来のある若者としては「だったら仕方ないですね」と言って終わらせるわけにはいきません。その意味でも、公明党にはぜひとも頑張っていただきたいと思います。
 その上で、ガソリン補助金などに象徴される目の前の課題について、政治には中長期的な最適解を期待したいと思います。目の前の家計を支えることも重要ですが、気候危機対策の観点から言えば、やはりどこかのタイミングで痛みを伴う判断をしなければなりません。いま課題に向き合えば、その先にはエネルギー赤字が減り、断熱や太陽光でより快適な生活が待っているのですから。建物の断熱性能が高まれば、ヒートショックで亡くなる方も少なくなります。

中野 世の中の様々な立場や意見を踏まえ、気候危機の解決に向けての歩みを党として進めていきます。対策には相応のコストも伴いますし、そこから目を逸らすわけにはいきません。着実に議論を重ねていきたいと思います。
 ご指摘のようにガソリン補助金の今後については、環境負荷の観点からも検討しなければなりません。では、再生エネルギーに移行することで経済にどのような成長があり、人々にどのような恩恵があるのか、そうした中長期的なビジョンを指し示すことができるかが重要です。脱炭素社会への移行にはコストがかかり、チャレンジでもありますが、乗り越えることができればチャンスにもなります。若者の皆さんの声をしっかりと糾合する形で確固たるビジョンを示せるよう、今後も全力で取り組んでまいります。

 

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一般社団法人グリーンピース・ジャパンシニア政策渉外担当
小池宏隆(こいけ・ひろたか)
1994年京都府生まれ。神戸大学法学部卒業。ルンド大学大学院修士課程修了。2015年持続可能な社会に向けたジャパンユースプラットフォームを設立。地球環境戦略研究機関政策研究員、国連アジア太平洋経済社会委員会プログラム・マネジメント・コンサルタントなどを経て現職。


公明党衆議院議員
中野洋昌(なかの・ひろまさ)
1978年京都府生まれ。東京大学教養学部卒業。米コロンビア大学国際公共政策大学院修士号取得。国土交通省・課長補佐を経て、2012年、兵庫8区(尼崎市)から衆議院議員に初当選。青年委員会青年局長代理、経済産業部会長。

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