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意見の違う知人と、どう話せばいいの?――哲学から対話の扉を開くヒントを得る

  • パンプキン

会話や対話についての悩みは尽きることがありません。「あの人とは、きっと話せない」と諦める前に、哲学者に相談してみませんか。哲学から得られる対話の扉を開くヒントを、蝶名林准教授に伺いました。

(パンプキン2026年1月号より抜粋。取材・文=富樫康子)

Q、自分とは違う意見をもっている人とは、うまく対話ができません

そもそも「対話」とは何でしょうか?


自分の信条を相手にわかってもらうために話しているとすれば、それは、「対話」ではなく、「説得」ではないでしょうか。


哲学者のソクラテスは"自分はその話題についてよく知らない"という姿勢で、相手に質問を重ねる形で対話を進めました。自分と意見が違うということは、相手は自分が気づかなかったことを知っている可能性もあります。


対話によって、相手と友好を深めたいなら、まずはソクラテスのような姿勢で、相手の話に耳を傾けてみることもよいかもしれません。


また、話題が変われば相手との話が弾むこともあります。身近な会話から始めてみるのもよいでしょう。


意見が違う人との対話と関連することとして、「森ヶ崎海岸」(作詞・山本伸一)の歌詞が思い起こされます。自分とは違う思想・生き方を選んだ友に向けて、「君に幸あれ わが友よ」と詠われています。なかなかこのような心はもてないかもしれませんが、思想の違いにとらわれないで相手を思える心に、真の友情があるし、そこに意義ある対話への鍵があるのではないでしょうか。


Q、あいさつするだけのご近所の方と、もっと仲よくなりたいのですが……

哲学者プラトンがその作品の中で描いた師のソクラテスも、まずは相手の名前を呼ぶあいさつから対話を始めています。


「〇〇さん、こんにちは」と、名前を呼んであいさつすることは、相手を価値ある存在と認めている証しといえます。たとえば、石に対して「こんにちは」とあいさつする人はほとんどいないでしょう。


相手が病気を抱えていたり、多忙で疲れていたりして、"今はいろいろと聞かれるのは嫌だな"と思っている場合もあるかもしれません。そのような相手に対しても、あいさつの機会を重ねていけば、その方の気が向いたとき、話ができるようになることもあると思います。


これは私の経験ですが、よくあいさつをしていたご近所の男性が、「早起きなんです」と教えてくださったことがありました。私も同じく早起きなので「では朝、一緒にコーヒーでも飲みましょうか」とお誘いし、毎週カフェに行くようになりました。その方はいろいろな趣味をおもちで、私は話を聞くのが好きなので、時々質問しながら楽しくお話ししています。


Q、会えない友人には、手紙でも対話の糸口はつかめますか?

私自身は手紙を書くことも、いただくことも、とても好きです。それでも、手紙を書くことの難しさをいつも感じます。それは、一文字一文字を考え抜いて、心を込めて書いた手紙だとしても、相手にうまく伝わらないことがあるからです。それでも、相手がどういう人なのか、自分なりによく考えて、誠実に手紙を書いてみることに尽きるのではないでしょうか。そうすることで、手紙が対話の糸口になる可能性もあるのではないかと思います。


『LGBTのコモン・センス――自分らしく生きられる世界へ』(第三文明社 刊)の著者で、法哲学がご専門の池田弘乃さんと、以前お話しする機会がありました。


「多様性を尊重する社会では、相手に対して、今まで以上に気を使わなければならないのは少し窮屈すぎるのではないでしょうか」との質問に対して、「少し不自由に感じるかもしれませんが、努力して気を使うことで世の中を少しずつよくできているのではないかと思います」とお答えになっていました。手紙やメール、SNSなど思いを言葉にして相手に伝える機会が多い時代にあって、いい意味で"たくさん気を使って"、一つひとつの言葉をつづることが大切だと思っています。


私が他の人よりなんらかの点でより知恵があると言えるのなら、(中略)知らないと思っている点でそうなのです――ソクラテス
※出典『ソクラテスの弁明』(プラトン著、納富信留訳、光文社)

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