会話や対話についての悩みは尽きることがありません。「あの人とは、きっと話せない」と諦める前に、哲学者に相談してみませんか。哲学から得られる対話の扉を開くヒントを、蝶名林准教授に伺いました。
(パンプキン2026年1月号より抜粋。取材・文=富樫康子)
Q、世代が離れた相手と、どうしたら信頼関係が築けますか?
趣味が同じ、食の好みが似ているなど、相手と"共通の関心"をもっていると、話は自然と弾みやすくなります。
世代の違いはあまり気にせずに、語り合える共通の話題がないか、探してみてはどうでしょうか。
哲学の一分野である倫理学では、”原理原則が大事なのか、その場その場の個別の判断が大事なのか”というのは主要な論点のひとつです。
そこで思い出すのは、私の知り合いで地域のリーダーを務める男性の例です。彼は、相手があるゲームが好きだと知ると、「一緒にやりましょう」とお誘いして、相手との距離をぐっと縮めます。「ほかの人には話したくないことも、〇〇さんだったら話せる」という方も多くいました。対話の達人のような方です。
しかしながら、この方のようなアプローチを"原則"としてだれもがまねをする必要はないと思います。彼は出会う人に合わせて、自分の興味を新たに広げていくのが好きなタイプなので、この方法がうまくいったのでしょう。人との関わりにおいては、基本的には原理原則はなく、個別の判断が大事なのだと私は思います。
Q、悩みや目標など、深い話をしたいと思う相手がいるのですが……
相手との関係性にもよりますが、たとえば、自分自身が悩みや目標を隠さず話すことで、相手も打ち明けてくれる場合はあるでしょう。しかし、一般的には、相手から深い話を聞けることは、それほど頻繁に起こることではないと思います。悩みを聞こうとどんなに努力してもできない場合もあれば、偶然聞けることもあるかもしれません。
だからこそ、もし友人から話を打ち明けられたら、心して、親身になって話を聞くことが大切だと思います。
孔子の教えをつづった『論語』には、「君子、信ぜられて而して後に其の民を労す(君子は人民に信用されてからはじめてその人民を使う※)」とあります。悩みや目標も、まずは自分が相手から信頼されてこそ、打ち明けてもらえるものではないでしょうか。
※出典:『論語』(金谷治訳注)岩波書店
自分が相談する立場になった場合に、話したくなる人と、そうではない人はだれかを思い浮かべてみてください。相手から何かを聞こうとするより、自分が話したくなるような人、つまりは悩みを聞いてもらうに値する人になることが重要であると思います。
| 一人でいるときよりも、友人と話しているときのほうが、いつも容易に考えが出てくる――バークリ ※出典:『ハイラスとフィロナスの三つの対話』(バークリ著、戸田剛文訳)岩波書店 |
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一歩立ち止まって考えてみる
今までの常識や一般論といったものをいったん横に置いて、自分の理性を頼りにして、ゆっくり考えてみる――哲学の特徴は「一歩立ち止まって考える」ことだと思います。
ソクラテスの対話は、相手に勝つことではなく、真理を探究することを目的としていました。
相手への問いを重ねるなかで、その相手が思いもしなかった真理に辿り着いていくのです。
「そもそも、何のために、自分はこの人と対話をしたいと思うのか」「対話する相手は、自分である必要はあるのか、別の人に任せてはどうだろうか」などと、さまざまな角度から問いを立てて、考えてみてはいかがでしょうか。自分でも思いもしなかった新しい視点から、対話の扉が開くかもしれません。
