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「終の住処」が見つからない――高齢者の賃貸のリアル おひとりさまでも安心して暮らすために何が重要なのか

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貯金や収入への不安、ひとり暮らしへの心配――そのイメージが先立ち、思うようにお部屋探しが進まない方が増えています。公営は応募が集中し、民間でも審査に不安……。そんなときは、家族やケアマネ、地域包括支援センター・居住支援法人と一緒に進めるのが近道。安心して住まいを選ぶための具体策をやさしく解説します。

(月刊『潮』2025年12月号より転載)

押さえておくべきポイント
① 持ち家があっても賃貸で新しい住居を探さないといけないケースがある
② 単身高齢者の入居を受け入れてくれる賃貸物件はなかなか見つからない
③ 高齢者が入居を断られる最大の理由は孤独死など死亡事故への不安
④ 家族や介護サービスなど「人の目」があると大家の安心につながる
⑤ 住宅確保要配慮者の支援・サポートは介護・福祉との連携がとても重要
⑥ 近くの地域包括支援センターの場所を調べておき、困ったら訪ねてみる
⑦ 元気なうちに「人や社会とのつながり」をもっておくことが一番大切

いくら探しても物件が見つからない!


近年、高齢者が賃貸物件の入居を断られてしまうケースが増えています。終の住処が見つからないというのは誰にとってもひとごとではない問題です。今回は、どうして高齢者が部屋を借りることは難しいのか、どのような住まい探しのサポートがあるのかについてお話ししたいと思います。


高齢者の住まいの選択肢には大きく分けて「住宅系」と「施設系」があります。「住宅系」で言えば、まず持ち家があります。戸建ての持ち家のほかに、分譲マンションで暮らす人もいるでしょう。分譲マンションの中には、警備保障会社による緊急通報システムや、見守りのサポートがついているシニア向けのタイプも増えてきました。あるいは、自立した元気な高齢者が住む、シニア向けの賃貸住宅もあります。これ以外だと一般的な賃貸があります。民間の賃貸アパート、マンション、戸建てもありますし、公営住宅やUR(都市再生機構)の賃貸住宅で暮らしている高齢者も多いです。


「施設系」には、ケアハウスなど低所得者向けの軽費老人ホーム、介護付き有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)、特別養護老人ホーム(特養)、「健康型」と呼ばれる高級老人ホームなどがあります。


これだけ種類があれば、誰しもがいずれかの住居を終の住処とできるだろうと思う人もいるかもしれません。しかし、そう簡単な話ではないのです。


たとえば、要介護認定を受けていない元気な高齢者は、「施設系」の選択肢が狭くなります。自立した高齢者向けの施設は介護報酬を請求できないので、経営を成り立たせるために利用料を高額に設定せざるを得ません。すると、十分な資産のない人にはハードルがとても高くなってしまいます。


持ち家がある人も終生そこに住みつづけられるとは限りません。メンテナンスをしていない家は老朽化のスピードが速く、雨漏りしたり、シロアリ被害に遭ったりして、補修が必要になります。あるいは、在宅介護サービスを受けながら暮らすために、バリアフリー工事が必要になることもある。しかし、そうした改修費用を捻出できないとなると、どうしても住みつづけられなくなってしまいます。


そうやって新しい住居を探している時に、「住まいが見つからない」という問題に直面する高齢者がたくさんいるのです。


私が勤める「株式会社こたつ生活介護」はデイサービスなど在宅介護サービスを提供する会社で、2017年には、自宅で暮らせなくなった高齢者をサポートする「高齢者住まい相談室こたつ」という事業を立ち上げました。


室長として最初に受けた相談は今でも忘れられません。80代半ばの女性が賃貸で長年一人暮らしをしていたところ、「建て替えたいので出て行ってもらいたい」と大家さんから通告されたのです。立ち退き期限は3カ月後でした。


期間の定めのない賃貸借契約の場合、貸主からの解約は、正当事由を具備していれば申し入れの日から6カ月を経過することで終了するとされています。ただ、この女性の場合、不動産会社を通さず大家から直接家を借りており、その大家さんがこうした法律を詳しく把握していませんでした。


女性を担当するケアマネージャーから相談を受けた私は、大家さんに電話でルールを説明して立ち退き期限の延長を承諾してもらいました。そこから次の部屋探しを始めたのですが、何十件と不動産会社を当たっても、80代半ばの単身者を受け入れてくれるところが一つもなかったのです。幸いにも持ち家で暮らす妹さんが近くにおり、そこに居候する形で引っ越しは落ち着きました。しかし、ここまで断られるものなのかと衝撃を受け、危機感を募らせました。

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