• 社会

精神疾患の親を持つ子どもたちの見えない悩み。"子ども"でいられなかった人々を支援する青年の挑戦。

「親が病む家で、子どもはどこに気持ちを置けばいいのか」——精神疾患の親を持つ子ども・若者の"見えない負荷"に光を当てる取材記。

NPO法人「CoCoTELI」を立ち上げた24歳の当事者が、オンラインの居場所づくりとピア支援で「子どもでいられる時間」を取り戻す試みを語る。家族観に縛られた日本で、この課題を政策へ引き上げるまでの現実と展望を追う。

(月刊『潮』2026年2月号より転載 写真はすべて平井さん提供)

記事のポイント
"子どもでいられない"状態が生むこころの負債と、その語られにくさ
オンライン居場所/ピアサポートが当事者にもたらす実感的な変化
見えにくい家族問題を、当事者発の運動で政策課題へ押し上げる道筋

精神疾患の親を持つ子どもたち


日本においてはデータの揃わない部分もあるが、海外においては、親が精神疾患の子どもは全体の15~23%ほどいるという。精神疾患の親を持つ子どもは、そうではない子どもに比べて、精神疾患を発症する可能性が高くなる。


2023年5月、ひとつのNPO法人が誕生した。「CoCoTELI」(ココテリ)、精神疾患の親を持つ子どもや若者を支援するための団体だ。同団体のホームページには、次のように宣言されている。


「精神疾患のある本人もその家族も生きやすい社会を目指します。


そのためには、精神疾患のある本人へのサポートも、その家族へのサポートも、家族まるごとのサポートも必要と考えています。


私たちCoCoTELIはそのなかでも現状の日本において狭間とも言えない空白である精神疾患の親をもつ子ども・若者支援に取り組みます」

  • 「CoCoTELI」主宰の平井登威さん

    「CoCoTELI」主宰の平井登威さん

主宰は平井登威とおいさん、24歳。自身もまた精神疾患のある父親のもとで育った。平井さんが特異な点は、まだ広く注目を集めていない領域の問題を指摘しただけではなく、『Forbes JAPAN』が選ぶ「30 UNDER 30」に選出された点だろう。これは、世界的な経済誌である同誌の日本版が、若きイノベーターを選ぶものであり、米国版では過去にはマーク・ザッカーバーグなどの超有名ビジネスマンも選出されている。 平井さんが同団体を立ち上げるまでの軌跡と、今後の展望について聞いた。

幼少期に受けた父からの暴言


平井さんは静岡県浜松市に生まれた。サッカーの盛んな地域で、彼もまた幼稚園生のころから熱心に打ち込むようになる。父親自身にサッカーの経験はなかったものの、幼い平井さんがサッカーをやることが父親にとってもまた生き甲斐だった部分があるという。


その一方で、平井さんが幼稚園生のときにはすでに、父親は鬱病に罹患していた。11歳年の離れた姉は思春期の只中で、よく喧嘩をしていたのを覚えている。父の攻撃は「死ねばいいのに」などの言葉で、平井さんに向けられることもあった。


「父が暴力を振るうと怖くて、二世帯住宅で一緒に暮らしていた祖父母のところによく避難していました。父が母の首を絞めているところを目撃したこともありました。


小学生のころ、学校のなかで年下の子が『お母さんに包丁を向けられた』という話を教師にしている場面に出くわし、『それは普通じゃないのか』と思った記憶もあります。たしか、『自分もお父さんから包丁を向けられているから、大丈夫だよ』と話しかけたはずです。今考えると不適切な対応ですが、当時はどうしてよいのかわかりませんでした」

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