• 社会

〈薄氷〉に生きる日本人へ──「破綻」を直視する勇気を

  • 対談

真山仁×斎藤幸平が見据える未来――。致死率50%の致死性ウイルスによるパンデミックを描いた小説『ウイルス』を上梓した真山さんと、ベストセラーとなっている『人新生の「黙示録」』の斎藤さんによる対談。戦争・エネルギー危機・インフレ・格差と連鎖的に発生する世界的危機に臨み、有事に必要なリーダー像とその責任を問う。

国の存亡を決する有事の際のリーダー

斎藤 真山さんの最新小説『ウイルス』を、とても面白く読ませていただきました。私には今の世界が加速度的に悪い方向、人類の破滅に向かっているとの問題意識がありますが、この小説の根底にあるものも同じです。


この作品では、コロナより致死性の高い未知のウイルスによるパンデミックが起き、人々の命が次々と失われていく惨状が描かれています。こんな風に、いずれ世界は悲惨な事態に直面するのだと、小説や人文知が想像力を搔き立て、社会を動かしていくことはすごく重要だと思います。


真山 ありがとうございます。日本という国は、過去の教訓をあまり活かしません。そこでコロナ禍を教訓に、次にパンデミックが起きた時の危機管理はいかにあるべきか、といった問題意識もあって、この作品を書きました。


斎藤 この小説では、絶望的な状況のなか、感染症の専門家やワクチン開発者が奮闘し、最後はすばらしい政治家の決断により、何とか国難を乗り切ります。でも今の日本の政治を見ていると、果たしてこんな政治家が現れるのだろうかと不安になります。


真山 私も自分の保身やメンツより、国民の命を優先するような政治家が本当に現れるのだろうか、といった疑念はあります。ですが、どんどん人が死んでいく惨状のなかで、リーダーが愚かな人物だと国は破綻し、物語が終わってしまう(笑)。そこで現実の政治家への皮肉も込めて、理想的な総理を登場させたんです。逆に言うと、この小説を読んだ読者に、「日本にも、こんな総理が欲しい」「こんな政治家を選ぼう」と思ってほしいですね。

虚構を超える現実が起きる

真山 私は斎藤さんの『人新世の「黙示録」』を読んで、これまでモヤモヤしていた構図のパズルが、はまった気がします。昨今の戦争やエネルギー危機、インフレ、格差の拡大、右傾化や陰謀論は、すべて根底でつながっている。


斎藤 資本主義が招いた気候変動は資源争奪競争を生み出し、他者を切り捨てる「選民ファシズム」が蔓延する。次々と戦争が起き、人類は破滅に向かっていく。そんな近い未来の世界の姿と、その処方箋を、あの本では提示させていただきました。


真山 「黙示録」というのは本来、予言書です。しかし、この本で書かれていることは、もはや予言ではありません。すでに斎藤さんが言っているような破滅は始まっています。むしろ現実のほうが、先を行っているくらいです。


斎藤 私もこの本を書き始めた時は、アメリカのイラン攻撃によってホルムズ海峡が封鎖されるなんて想像もしていませんでした。


真山 アメリカのイラン攻撃の背景には、石油やエネルギーの問題、そしてテクノ資本主義があります。でも多くの人は今、なぜこんなことが起きているのか、根底にある本質的な問題に気づいていない。それによって自分の生活が、確実に脅かされているにもかかわらずです。


『人新世の「黙示録」』は、そのことを見事に可視化してくれます。私たち現代人が、いかに便利で豊かな生活に慣れすぎて、愚か者になっているか。資本主義に踊らされ、テクノロジーという麻薬の中毒になっているか。


斎藤 ありがとうございます。事態は本当に、加速度的に悪くなっています。もはやフィクションでさえ描ききれないほどです。


真山 小説は本来、現実を搔き回したくて、好き勝手に書くものです。ありえないことを、いくらでも書けるのが小説の良さです。でも今は、そんな小説を現実が追い抜いている。


斎藤 もの書きにとって、非常に難しい時代になりました。(笑)

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