山形県の北西部に位置する、自然豊かな庄内地域。江戸時代から伝わる「公益」の気風を地域の人々と学生が継承・発展させている。
(月刊『潮』2025年10月号より転載。本文中の表現はすべて雑誌掲載時のままとしています)
誰にとっても利益のある社会とは何か
東北公益文科大学が開学したのは、いまからおよそ四半世紀前の2001年のこと。大学名に「公益」を掲げているのは、本学が日本で唯一であり、「公益学部」も有しているからです。
創立のきっかけは地域からのご要望でした。各所から「庄内地域に四年制大学を」とのご要望を受け、山形県と14市町村(現在は合併により2市3町)からの財政支援によって、公設民営大学として誕生したのです。
2001年といえば、言わずもがな21世紀の開幕の年です。20世紀的な経済合理性に固執してきたことへの反省を出発点として、「誰にとっても利益のある社会とは何か」との問いを追求してまいりました。
そもそも庄内は、江戸時代後期に"公益の祖"と呼ばれた豪商・本間光丘が活躍した地です。光丘といえば、飢饉に備えて地域の人々のための米を備蓄したり、私財を投じて防砂林を整備したりといった功績が有名です。開学に携わった人々は、光丘に象徴されるこの地域の歴史を大切にされたのだろうと思います。
本学では授業においても、地域に根差すことを重視しています。最も特徴的なのは、庄内全域をフィールドとした教育活動です。現在は、カリキュラムの地域志向化も進めており、例えば庄内地域の理解を深めて課題を見つける科目もあれば、一歩進んで課題の解決に挑戦する科目もあります。いまでは約4割の科目が地域にまつわるものとなっています。大学側から学生が経験すべきことを立案して、地域の人々に協力をお願いすることもあれば、反対に地域の皆さんから課題を共有いただいて学生たちが授業のなかで解決策を考えるケースもあります。
実社会の課題は、簡単には答えを導き出せません。厳しい現実に対して、文系・理系を問わずに深く探究し、試行錯誤しながら実践する。そうした力が、今後の時代には求められると思っています。
課題解決のために現状を把握する
本年5月には、山形県の人口が100万人を割ったことが大きく報じられました。少子高齢化や人口減少が進む状況下において、若者世代の奮闘には各所から期待が寄せられています。
そうしたなかで、私が現在、学生と一緒に取り組んでいるのは、庄内地域の公共交通機関に関する課題の解決です。庄内の公共交通機関では、人口減少やマイカーの増加による利用者減で、路線の減便や廃止が問題となっています。そこに高齢化による運転免許証の返納が増え、移動が困難な人々が増加してしまっているのです。
どうすればより多くの人々の利便性につながるのか。学生たちはそうした課題意識を持って、バス利用者へのアンケートや、世界各地での成功事例の調査などを行い、課題解決のために試行錯誤を繰り返しています。
先日、創価学会の山形青年部の皆さんと懇談をした際に、同学会の東北青年部が取り組んでおられる「"地域学"運動」についてお話をうかがいました。庄内の遊佐町でもその運動を実施されて、地域の魅力を再発見するための探索や、地域課題を掘り起こすための住民アンケートを行ったそうです。そして、地元住民らも参加した「未来座談会」において、アンケート結果を発表し、遊佐町の将来について皆で語り合ったとのことでした。とても大事な取り組みだと思います。
どんな課題も、解決するためには現状の把握が必要不可欠です。地域の人々は何に困り、どのような不安を抱えているのか。それらを可視化できなければ、具体的な解決策を見いだすことはできません。創価学会の青年部の皆さんが、あらゆる世代の人々の声を聞き、意見を交わす"場"を提供されていることは、必ず地域課題解決の一歩になるはずです。
一人の挑戦が周囲に連鎖する
学会青年部のある方は、解決に至るまでの取り組みの継続と、人々の"つながり"の創出が課題だとおっしゃっていました。私もその通りだと思います。本学の学生が地域に出て活動しても、限られた期間のなかで解決に至るケースは決して多くありません。地域社会にとって重要な課題であればあるほど、多くの人の協力と時間が不可欠です。
そこで本学では、地域の方々のなかから課題解決のための人材を育成する「地域共創コーディネーター養成プログラム」を創設し、この10年で約200人の方々がこのプログラムを修了されました。また、子どもたちの育成のために開設した「ジュニアドクター鳥海塾」では、プログラミングやAIなどの情報技術の基礎が学べる講座を、無料で実施しています。
本学では、授業で扱った地域課題に対して、その後もサークルを立ち上げて継続的にかかわり続ける学生が少なくありません。実践を通して地域の人々と心を通わせるなかで、自分がやりたいことや、やらなければならないことに気がついたのでしょう。また、達成感もあるからこそ、主体性が生まれるのだと思います。
学生主体の団体による活動は、地域コミュニティーの活性化や、食品ロスの削減、観光客の歓迎など、多岐にわたります。地域に必要とされていることが本当に嬉しいですし、大学としても学生主体の活動をこれからも応援していきたいと思っています。
昨年7月に山形が豪雨災害に見舞われた際には、本学の学生が周囲に呼び掛けて、数十人の仲間とともに土砂のかき出しなどのボランティアを行っていました。誰がどんなことに困っているのかをきちんと情報収集し、地域のために何かしたいと思う人々の主体性とつなげられたからこその支援活動だったと思います。本学で学んでいることや、学外での活動のなかで培った力を発揮してくれたことを、誇らしく思います。
一人の地域貢献への挑戦が、周囲に触発を与え、連鎖していく。地道かもしれませんが、その先にこそ社会をより良くする方途があると信じています。私たちも"何のための公益か"を追求する姿勢は今後も変えずに、学生とともに地域に根差した実践を続けてまいります。
"公益のふるさと"から日本全体へ発信
東北には、未来のために「困難を切り開くチカラ」があると思います。東北は全国的にも少子高齢化と人口減少が顕著であり、それらに起因した課題は多岐にわたります。見方を変えれば、日本における課題の"フロントランナー"としての使命があるとも言えます。現実を悲観するのではなく、郷土への強い愛情を胸に、課題解決のために皆で力を合わせる。そんな逞しさが東北にはあるように感じています。気候が厳しいなかで、昔から人々が助け合って生きてきたことが関係しているのかもしれません。東北が目の前の課題を解決できれば、それが各地のモデルケースとなる。そんな心意気がこの地域の人々には備わっている気がしています。
本学のシンボルマークは、3本の縦棒に見立てた人間が手を取り合う姿を模しています。また、下向きの矢印には、北国の東北から南へ、日本全体へ、情報を発信する、という決意を込めています。
本学は現在、明年4月に公立化する予定で準備を進めています。"公益のふるさと"である庄内地域の方々と手を携え、明るい未来を開いていくための知見をここから発信していく。その使命を胸に、これからも挑戦を続けていく所存です。