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対立や分断を煽る言説は破滅への道――財政からこれからの日本社会を考える

  • 対談

財政の破壊は近代精神の破壊

神野 財政の意味というのは、社会の共同事業ということに尽きるのですが、そのうえで財政は社会統合に不可欠な要素でもあります。国民国家が社会を統合しているのは、最終的には国家が暴力装置を独占しているからと理論づけられます。ただ、これまで社会として行ってきた共同事業を解体するならば、社会は統合できなくなります。所得の再分配をなくしたり、社会保障を「無駄だ」といって削っていけば、いかに国家が武力や治安維持能力をもっていたとしても社会は統合できません。


井手 師弟対談というのはきわめて稀でして、実は、神野先生との対談も今日が初めてなのです。まさに一期一会の心境で、私たちの師である大内兵衛先生の著作を読み直してきたのですが、そこには、財政とは「近代精神の結晶」だと書かれていました。近代の精神とは、法治の精神、独立自主の精神、平等の精神です。


私なりに解釈しますと、法で治め、支配者の恣意に委ねない精神、連帯・共助の領域をつくることで、各人の主体的な意思決定を支える精神、不平等を排し社会的公正を追求していく精神、これらの近代精神の結晶こそが財政だということです。


最近、減税だ、給付金だ、借金だ、挙げ句の果てには、財務省の解体までさわぎたてる人たちがいます。利己主義に走り、連帯の領域を無自覚に小さくし、借金を恥じず、法による支配すら軽んじる。現代の政治は、われわれが歴史的に構築してきた近代精神を破壊しようとしているようです。


神野 財政は民主主義と市場社会の二つの条件がそろって生まれます。すなわち、封建領主が生産手段を占有していた近世や中世の社会に財政は存在しません。権力者が民衆から徴収する賦役や年貢などは、財政における租税ではないと考えられているのです。民主主義とは、被支配者である「民」が支配者である「主」になっている。それを前提に財政は成り立っています。だから、財政において税は民衆が使うものであって、領主が使うものではありません。


よく「税を"取られる"」という言い方を耳にしますが、その発想自体が前近代的なものであることは指摘しておきたいと思います。

自立すればするほど人間は連帯する

――世代間対立や外国人排斥など対立と分断が煽られる今、連帯の意味についてお聞かせください。


神野 大内先生の言葉を使えば、「人間は自由なるがゆえに連帯する」「人間は自立すれば自立するほど連帯する」ということです。家族でも友人でも、ほかの人々との連帯の絆がなければ、私たちは自立できないのです。よく自助と共助を分けて、誰にも頼らず自分の力で生きることを自立だと思っている人がいます。


しかし、スマイルズの『自助論』(『西国立志編』)からして、自助には共助が含まれています。つまり、個人が自助自立する社会とは、みなが連帯している社会なのです。人間は決して一人では生きていけない。だからこそ、仲間が増えれば増えるほど、結びつけば結びつくほど、人間にできることが増え、自立していくという社会観です。


しかし、世の中には人間が自立していると困る人々がいるのです。本質的ではない対立を煽り、連帯させないようにしている。生活が苦しいといったときに取り組むべきなのは、富める者と貧しい者との不平等の問題であるはずです。世代間の対立などは本質的な課題ではありません。


人間はつねに「現在」という時間に拘束されます。公的負担の推移だけを見て「上の世代は恵まれていた」といっても、彼らもまたその時点での社会情勢――戦争や戦後の荒廃、医療や技術の限界などに拘束されてきたわけです。


そもそも、財政というのは「誰も排除しないこと」が理念です。文化風習や誰かの利害によって、社会が女性や外国人を排除することは起きるかもしれません。しかし、そうした排除が生じないようにするのが財政の役割なのです。


井手 率直にいいますと、神野先生も私も「連帯しないこと」の意味自体がわからないのです。社会の土台には「共在感」がある。この社会を生きる人たちがお互いを排除し合うことなく「共に在ろうとする」感覚。人間には、自分の幸せと他者の幸せを調和させ、すべての人が幸せになれる状況をつくろうとする精神がある。


一方で、社会が自己責任を強調するとき、そこでは真逆のことが起きます。多数者がマイノリティをバッシングして溜飲を下げる。誰もが自分のためだけに行動するのですが、結果、孤独と将来不安におびえることになる。このような状態がつづけば、社会は個人の集合に成り下がるでしょう。


両者は比べる価値すらありません。どう考えても、連帯する社会のほうがいいに決まっています。にもかかわらず、そうなると都合の悪い人たちがいる。対立と分断を煽り、票やお金を得ようとする人たちです。彼らは、悲劇的な未来から逆算して現実を説き、国を案ずるふりをして、その裏で自己利益を追求している。


だから、前回神野先生がおっしゃった通り、私たちは真理に忠実であらねばならない。時に対立しつつも、人類は歴史的に連帯して生きてきたからこそいまがある。この普遍的真理から出発し、歴史をつくる人間のひとりとして、対立と分断を煽る人たちに異議申し立てをしなければなりません。


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