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どうしてこの世に税金があるのか――財政は「すべての人」の生活を支える社会の共同事業

  • 対談

生活が苦しい理由を税など公的負担に求める声があります。しかし、財政学者で東京大学名誉教授の神野直彦さん、慶應義塾大学教授の井手英策さんは、生活が苦しいのはむしろ"公的負担が軽すぎて、私的負担が重くなっている"からだと言います。消費税を論じる前に押さえておくべき、財政の使命を語っていただきました。

(月刊『潮』2025年10月号より転載。)

生活が苦しいのは負担が軽すぎるから


――いま「現役世代の負担が重すぎる」「取って配るなら最初から取るな」「増税せずに無駄を減らせ」といった公的負担への反発が支持を集めています。今回は、こうした声を踏まえて対談を行っていただきたいと思います。

神野 井手先生は私にとって最初の教え子なのです。

 

井手 神野先生からは、学問はもとより「人間のあるべき姿」を教えていただいてきました。

神野 教え子ではあるけれど、大内兵衛おおうちひょうえ先生(大正・昭和期の経済学者、東大教授)から引き継いだ財政学をどう発展させるのかをともに考えつづけてきた間柄です。大内先生は治安維持法違反で逮捕されながらも、財政学を研究しつづけていた。その意味で、私たちは命を懸けてでも真理を探究する使命を受け継いでいると決意しています。

真理というのは、ときに世間の常識とはまったく異なる場合があります。今回のテーマに関して述べれば、「租税負担が重すぎるから、現役世代の生活が苦しい」という常識に対して、私たちは「租税負担が軽すぎるから、現役世代の生活が苦しい」と考えています。

  • トルコのみ2017年、ほかは2022年のデータ。財務省発表の資料より編集部作成

事実から入りましょう。上の図は国民負担率の国際比較です。

 

日本は36カ国中24番目と下位に位置しています。特に注目していただきたいのは「租税負担率」で、日本は28番目とさらに低い。事実に基づけば、日本は高負担どころか「むしろ負担は低い、とくに租税負担が低い」と言えます。

 

「現役世代の」という点についても確認します。日本では現役世代への負担が偏っているという理由から、世代にかかわらず能力に応じて負担する「全世代型社会保障」が提唱されています。しかし、子どもは当然、お金を稼ぐことができないので負担能力はありません。だから、子どもの扶養は基本的には現役世代が担わなければなりません。


年齢を重ねて労働能力を失うと負担能力もなくなっていきます。そうした高齢者は、基本的には現役世代が扶養しなければなりません。能力に応じて負担する場合でも、現役世代に偏るのは当たり前のことなのです。

 

問題はその負担を「公的負担」にするか、「私的負担」にするかです。たとえば、福祉国家のスウェーデンは「公的負担」によって子どもと高齢者を支えています。

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