世論調査が示すアメリカ社会の変化
アメリカにイランを攻撃する合理的な目的はありません。イランの弱体化を虎視眈々と狙うイスラエルのネタニヤフ首相の策動に、トランプが唯々諾々と応じ、アメリカを巻き込んだのです。
イスラエルはいよいよ、国際法や国際道義に照らして許されえない、独善的な安全保障観に基づいて軍事行動をつづけています。すなわち「将来の脅威となりうる者は、民間人であれ子どもであれ大量の犠牲を出してでも殲滅する」というものです。ハマスの殲滅を目指したガザへの攻撃や今回のイラン攻撃もこの安全保障観に基づいていると考えられます。
3月中旬の段階で、イラン側では1300人以上の民間人が死亡。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によると、イラン国内の避難民は320万人に及んでいます。また、イスラエルはヒズボラ(親イランのシーア派武装組織)とも交戦し、拠点のあるレバノンへ侵攻しています。ある高官は「(レバノンを)ガザと同じにしてやる」と発言し、レバノンの避難民は100万人を超えました(3月20日現在)。イスラエルが多方面で大規模な軍事作戦を継続できるのは、ひとえにアメリカが弾薬を供給しつづけているからです。それがなければ、イスラエルの爆弾は尽きているはずです。
では、アメリカの世論はどのような動きを見せているのか。2月27日に発表された世論調査は、アメリカ社会の重要な変化を示しています。イスラエルとパレスチナそれぞれに対する「同情」について尋ねると、「パレスチナ側に同情する」と答えた国民が41%、「イスラエル側に同情する」と答えた国民が36%だったのです。四半世紀にわたり実施されているこの調査において、パレスチナへの同情がイスラエルを上回ったのは今回が初めてでした。
若年層でパレスチナ支持が大きくなっていることは既に知られています。そのうえで、今回の世論調査は、全体の傾向としてもパレスチナに同情的な人が多くなったことを示しています。すなわち、アメリカはかつてほど親イスラエルの国ではなくなりつつあるのです。
イラン攻撃に対するアメリカ国民の支持率は、直後の3月1日発表の調査でさえ3割程度でした。開戦当初でこの数字は、過去の軍事行動と比較して非常に低い。米軍に5万人超の犠牲者を出したベトナム戦争の撤退時ですら3割は支持していたことを考えると、いかに今回の攻撃が支持されていないか理解できると思います。
現在イランは、世界で最も重要な石油輸送の要衝であるホルムズ海峡を封鎖しています。軍事力でアメリカに大きく劣る以上、イランは互いの継戦能力を削り合う消耗戦に持ち込まざるをえず、封鎖は当面の間つづくでしょう。その影響からは、エネルギー輸出国のアメリカも免れず、エネルギー価格の高騰が国民に打撃を与える可能性がある。生活に支障が出てくるとなると、軍事作戦への不支持はますます増えていくはずです。
翻ってイスラエルからすれば、ここまで協力してくれるトランプは申し分のない大統領です。ただ、先の世論調査が示唆するように、親イスラエル的な政治家は徐々に有権者に歓迎されなくなる。2028年の大統領選挙では、イスラエル支持を打ち出すことが候補者にとってむしろリスクになる可能性すらある。だから、ネタニヤフは「ラストチャンスだ」と言わんばかりに、トランプが大統領である今、脅威となりえる勢力を殲滅しようとしているのです。
毅然と非難するスペインとイタリア
今回の軍事作戦に対しては、アメリカの同盟国にさえ、賛同しない立場を明らかにする国が現れています。スペインのサンチェス首相は、3月4日にテレビ演説で原則論に立ってイラン攻撃に言及。「戦争に反対」「国際法の崩壊に反対」との姿勢を明確にしました。また、イラン攻撃のためにアメリカがスペイン国内の米軍基地を使用することも拒否しています。
イタリアのメローニ首相も議会演説で、米・イスラエルの軍事行動を「国際法違反」とは言わないまでも「国際法の範囲外」という表現で批判をしました。また、米軍の誤爆によってイランの小学校で児童ら175人が犠牲になった事件について「虐殺だ」と非常に強い言葉で非難。「イタリアはこの戦争に参加しておらず、今後も参加する意思は全くない」という姿勢を示しています。(3月11日)
ハメネイ師によるイランの国内体制に問題がなかったわけでは全くありません。女性は抑圧され、ジャーナリストや反政府活動の取り締まりも厳しい。昨年末から広がった経済難や政府への抗議デモは激しく弾圧されました。その犠牲者は数千人とも万単位とも言われています。
ただし、こうした側面だけをクローズアップして「イラン市民はハメネイ殺害で喜んでいる」などとイラン攻撃を正当化する言説には注意しなければいけません。軍事介入を行う側にとって「人権問題」や「市民の解放」は口実に過ぎないことが多いからです。攻撃当初トランプはイラン市民に体制転換を呼びかけましたが、蜂起が起こらないと見るや僅か数日で「体制転換」の目標を取り下げました。抑圧的な体制からの市民の解放は、トランプにとって重要事項ではなかったのです。
暴力によって抑圧される市民を本気で解放したいのであれば、非軍事的な方法によって持続的に辛抱強く働きかけるほかありません。そうした手間を惜しみながら「爆弾を使って人々を解放しよう」という発想は欺瞞に満ちています。そもそも、他国の市民を「我々が解放してあげる」という発想自体に、欧米の傲慢さが潜んでいます。人間の解放は暴力では実現されえないのです。
