月刊『パンプキン』で連載された(23年10月号~26年3月号)コミック版「きっと幸せの朝がくる」が待望の単行本化! 作家の古川智映子さんによるエッセーをもとに、漫画家のくさか里樹さんが描いたこの作品は、次々と襲いかかる困難に決して屈しない主人公の生き方が大きな反響を呼びました。くさかさんに、連載を終えての感想や作品に込めた思いを伺いました。
(パンプキン2026年5月号より転載。取材・文=田北みずほ 撮影=水野真澄)
どんな苦難も乗り越える「負けない人生」を描く
コミック版「きっと幸せの朝がくる」は作家・古川智映子さんが主人公。人生のどん底を味わった智映子が、周りの人びとや恩師の励ましに支えられ、いくつもの苦難を乗り越えながら、揺るぎない幸福を確立していく姿を丁寧に描く。残念ながら2024年7月に古川さんは逝去されたが、本人の強い希望により連載は続けられ、単行本化が実現した。
「2年半にわたる連載を無事に描き終えることができてよかったと安堵しています。やはり、完成した作品を古川さんに見ていただきたかった・・・・・・。古川さんが私を信じてくださったから、私も命を燃やしたい、自分の殻を破りたいという気持ちで最後まで描くことができました」とくさかさんは振り返る。
智映子は、苦労を重ねながら困難に負けずに生きた女性を小説として書きたいと考える。さまざまな文献を探して出会ったのが明治の実業家、広岡浅子だった。度重なる病魔と闘いながら、丹精込めて書き上げたのがNHK連続テレビ小説「あさが来た」の原案本にもなった『小説 土佐堀川』。この作品がその後の智映子の人生を大きく開いていった。
たった一人でもいい励ましを届けたい
1980年に漫画家としてデビューしたくさかさん。これまでたくさんの作品を世に送り出してきた。経験豊富なくさかさんだが、今作は少し勝手が違ったという。
「ご活躍中の方を描くのは初めてで、今までにないチャレンジでした。通常、漫画は編集担当者と二人三脚で制作していきますが、今回はその先に腕利きのコーチがいるような感覚でしたね(笑)。プレッシャーはありましたが、『自由に描いてくださいね』という温かい言葉をくださったので、古川さんの思いを伝えることに集中しました」
古川さんの生き方、創作にかける思いに強い共感を覚える場面も多かったという。
「『私の小説は文学ではないのです 人を励ます文章なのです‼』という言葉が出てきますが、私も漫画家として同じ思いなんです。私は才能もないし絵も下手だけど、私の作品を読んで、たった一人でも『落ち込んでたけど、がんばろうと思えた』という人がいればいい、と思ってやってきました。一人でも、つらい思いを抱えている人を励ましたい、絶対に届く人がいる。その思いは古川さんと同じだと感じました」
世界中の人びとの幸せを祈る境涯に
連載の中で、くさかさんが特に印象に残っているのはどのシーンだろうか。
「意外かもしれませんが、智映子さんがクルーズ船で世界一周旅行を体験した場面です」
74歳の智映子は、思いもよらないきっかけで、憧れの豪華客船での旅へ。クルーズ船から国境線のない海を眺める智映子の胸は、世界中の人が支え合って幸せに生きてほしいとの切なる願いに満ちていた。
「夫の裏切りに苦しみ抜いて、地べたを這いつくばるように生きてきた人が、時を経て、夫への恨みも消え、世界中の人びとの幸せを願うようになった。智映子さんの心がぶわっと広がったことを象徴するシーンだと思って。自身の心が、生き方が変わっただけじゃないんですよね。みんなに『あなたもこんなふうになれるのよ』と伝えたかったんだと思うんです。このシーンを描いたとき、私もとてもうれしく、清々しい気持ちになりました」
85歳で悪性リンパ腫ステージ4の診断を受けたときのシーンも圧巻だ。終わりのない試練に打ちのめされそうになるが、病を得ても後世のために命を燃やした浅子のように生きると決め、病魔との闘いに向かっていく。
「もし私が同じ状況になったら、諦めの心が出てしまうかもしれません。でも古川さんは違うんですよね。今、生きていること、苦しんでいる人を励ませることを喜び、今日を生きようと前を向く。負けないってことは今この瞬間を本当にうれしい!って感謝して生きていけることなんだと教わりました」
作品の最後には「感謝を込めたプレゼント」として、古川さんが残した言葉を紹介している。これはくさかさん自らが選び出したものだという。
「作中に入れたかったけれど入れられなかった言葉や、ご出身の青森の方言など、古川さんらしい言葉を選びました。私たち二人のミニキャラクターも加えて、とても温かいページになったと思います」
連載中、多くの読者から「智映子さんの姿に励まされた」「登場人物の表情が印象的だった」などの感想が多数寄せられた。
「漫画は感情を伝えるもの。皆さんの感想をお聞きして、主人公の心情が届いているとわかり、本当にうれしかったですね。読み返すと、連載時には気づかなかった古川さんの思いも感じられると思います。ぜひ、単行本になったらお手元に置いてほしいです!」
新たな連載に思いを込めて
くさかさんは、月刊『パンプキン』4月号から新たな連載をスタートさせている。古川さんが困難と闘いながら書き上げた『小説 土佐堀川 広岡浅子の生涯』だ。京都の名家から大阪の両替商に嫁ぎ、明治維新の混乱の中で事業の立て直しに奮闘するかたわら、日本初の女子大学設立に奔走するなど、人びとのために尽くし抜いた浅子の生涯を描く。
「『土佐堀川』は古川さんの思いが凝縮された小説。古川さんが広岡浅子を追い求めた気持ち、その魂を感じながら描いていきたい。浅子がいかに強い女性だったとしても、次々と立ちはだかる苦難を前に、逡巡や恐れがなかったはずはないので、そういう部分も丁寧に。読者の皆さんがどんな困難にも負けないで進んでいくことが、古川さんがいちばん望んでいること。私はそのお手伝いをさせていただく思いで、一人でも多くの人が幸せの笑顔でいられるように力を尽くします」

